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患者「特に変わらないです」問診では穏やかに答えていたが…看護師が感じた“小さな違和感”→その後こぼれた本音とは

  • 2026.8.28
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科の外来では、診察室で交わされる言葉だけが、その人の状態を表しているとは限りません。

「大丈夫です」「特に変わりありません」と話していても、表情や身体の変化、待ち時間の過ごし方などに、以前とは違う様子が現れることがあります。

今回は、摂食障害で通院していた若い女性Aさんとの関わりを通して、言葉の裏側にある変化に気づいた出来事についてお話しします。

本人が隠そうとしていたことを「見抜いた」という話ではありません。

むしろ、本人がまだ言葉にできない苦しさを、身体や行動が先に教えてくれたように感じた出来事でした。

「過食はしていません」いつもと変わらない問診だった

Aさんは、摂食障害で精神科外来に定期通院している若い女性でした。

通院は継続できており、体重も大きな変動はありませんでした。診察前の問診でも、いつもと大きな変化はないように話していました。

その日も、「最近どうですか?」と尋ねると、

「特に変わらないです」

「食事は摂れていますか?」

「はい。ちゃんと食べてます」

「過食は?」

「してないです」

Aさんは淡々と答えました。

表情も穏やかで、以前と比べて特別元気がないようにも見えません。

「そうですか。何か気になることがあれば教えてくださいね」

そう伝えて、いったん問診を終えました。ところが、その後の様子を見ていると、私は少しだけ引っかかるものを感じました。

以前にはなかった「小さな変化」

Aさんと関わる中で、私が最初に気づいたのは口元でした。

口角が以前より荒れている。ほんの小さな変化です。

「乾燥しているのかな」

最初はそう思いました。ただ、それだけではありません。顔色も少し違うように感じました。

さらに、手指を見ると、以前にはなかった小さな傷がいくつかありました。

「どうしたんですか?」何気なく聞いてみると、

「ああ、これ?ちょっと擦っただけです」

と、Aさんは笑いました。

その時点では、それ以上追及しませんでした。

外来では、こうした小さな変化だけで何かを決めつけることはできません。しかし、頭の片隅には残りました。

「何か、以前と違う気がする」

待合室で見えた、もう一つの違和感

しばらくして、診察までの待ち時間にAさんの様子を確認しました。

Aさんは椅子に座りながら、ガムを噛んでいました。それ自体は珍しいことではありません。

ところが、しばらくするとまた新しいガムを取り出します。

そして水を飲みます。一口、二口という量ではありません。かなり多めに飲んだあと、トイレへ向かいました。

戻ってきて、また水を飲む。そして再びトイレへ。その様子を見て、私は少し気になりました。

ただ、ここでも「だから過食嘔吐をしている」と決めつけることはできません。水分を多く取る理由はいくらでもあります。

だからこそ、観察したことをそのまま頭の中に置いておきました。そして診察室へ呼ばれたAさんに、改めて尋ねました。

「最近、体調どうですか?」

「大丈夫です」

「食事も問題ない?」

「はい」

「何かしんどいことは?」

少し間があって、

「特にないです」

Aさんはそう答えました。

「普通にしてたら分からないと思ってた」

その日は、無理に症状について聞き出すことはしませんでした。

「分かりました。また何かあったらいつでも話してくださいね」

そう伝えて終わりました。

しかし、それからの通院でも、小さな変化は続いていました。

口元の荒れ、顔色、手指の傷。そして待ち時間の過ごし方。毎回すべてが同じではありません。

それでも、以前のAさんとは少し違う。そんな状態が続いていました。ある日の診察前、私はいつものように声をかけました。

「最近、何かしんどいことありませんか?」

Aさんはすぐには答えませんでした。

「…別に」

少し沈黙が続きます。

私は質問を重ねるのではなく、Aさんが話せるように待ちました。すると、しばらくしてAさんが小さな声で言いました。

「…実は、また増えてます」

「何が増えていますか?」

「過食嘔吐…」

その言葉を聞いた瞬間、これまで感じていた違和感がつながりました。Aさんは続けました。

「言いたくなかったんです」

「普通にしてたら、分からないと思ってました」

その言葉が印象に残りました。

「見抜くこと」が目的ではなかった

Aさんにとって、症状が悪化していることを認めるのは簡単なことではありませんでした。

「またできなくなった」「また悪くなった」

そう感じてしまうこと自体が、本人にとって苦しさにつながることがあります。

だからこそ、

「どうして言ってくれなかったの?」と責めることはしませんでした。

「話してくれてありがとうございます」そう伝えました。

Aさんは少し黙ったあと、

「最近、食べると止まらなくなって…。そのあと吐けばいいって思ってしまって」

と話し始めました。

そこから、少しずつ生活のことも聞かせてくれました。

食事のことだけではなく、家での過ごし方や気分の波、人と会うことへの疲れなど。診察室では「大丈夫」と話していたAさんが、少しずつ本当の状態を言葉にしてくれたのです。

身体の変化は、本人が言葉にできないSOSかもしれない

この出来事を経験して、精神科では「本人の言葉」だけを聞くのではなく、普段の生活や身体の変化にも目を向ける必要があると改めて感じました。

もちろん、口角の荒れや顔色、手指の傷だけで摂食障害の悪化を判断することはできません。

水をたくさん飲むことやトイレへ行くことにも、それぞれの理由があります。

だからこそ、一つのサインだけを見て決めつけるのではなく、「以前と比べてどうか」を丁寧に見ていくことが大切なのだと思います。

そして、もう一つ大切なのは、気づいたことをすぐに本人へ突きつけないことです。

「過食嘔吐しているんじゃないですか?」

と聞けば、Aさんはさらに言葉を閉ざしてしまったかもしれません。

「最近しんどいことありませんか?」

と聞いたからこそ、本人が話す準備ができるまで待つことができました。

「分かりますよ」ではなく「話しても大丈夫」と思える関係を看護師は、患者さんの小さな変化に気づく仕事です。

だからといって、何でも見抜けばいいわけではありません。

「隠していても看護師には分かりますよ」と伝えてしまえば、患者さんにとっては監視されているような感覚になるかもしれません。

大切なのは、見抜くことではなく、「この人になら話してもいい」と思ってもらえることなのだと思います。

Aさんが最後に、

「普通にしてたら分からないと思ってた」

と話したとき、私は「分かってよかった」とは思いませんでした。

それよりも、Aさんがようやく「実はつらかった」と言えるところまで来てくれたことに、少しほっとしました。

身体に現れた小さな変化は、本人がまだ言葉にできなかった苦しさの一部だったのかもしれません。

精神科看護では、言葉だけではなく、表情や身体、生活の変化にも目を向ける。そして、気づいたその先で、本人が安心して話せる場所をつくる。

「見抜く」ことよりも、その後どう寄り添うか。

Aさんとの関わりは、その大切さを改めて教えてくれた出来事でした。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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