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60代男性「お薬手帳、持ってません」→4回目で初めて持参し…内容を確認した薬剤師が思わず“言葉を失った”ワケ

  • 2026.9.20
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

初来局から3回、いずれも「手帳は持っていません」と答えていた60代の男性。

4回目の来局でようやく持参された1冊のお薬手帳をめくった瞬間、思わず言葉を失いました。そこに貼られていたシールから見えてきたのは、同じ症状で複数の医療機関を渡り歩く“ドクターショッピング”の実態と、彼が本当に求めていたものでした。

3回続いた「持っていません」の違和感

初来局はとある夏の日でした。60代半ばの男性Aさんが、近隣の内科クリニックからの処方箋を持ってこられました。

処方内容は不眠に対する睡眠導入剤と、痛みに対する消炎鎮痛剤です。

お薬手帳の有無を尋ねると、「持ってないです」との返答。

「新しくお作りしますか?」と提案しましたが、「いや、いいです」と断られました。

2回目は8月中旬。同じクリニックからの処方でしたが、内容が少し変わっていました。

「他に飲んでいるお薬はありませんか?」と尋ねても「特にないですね」との返答。手帳の話題を出しても、やはり「持ってないです」。

3回目は9月初旬。この時は別のクリニックからの処方箋でした。処方薬は前回までとは違う系統の睡眠薬。

「先月までのクリニックとは違うんですね」と何気なく触れると、「ああ、ちょっと合わなくてね」との返事。手帳については、やはり「持っていません」。

3回続いた「お薬手帳持っていません」に、少し違和感が芽生えていました。ただ、患者さんが手帳の作成を望まれない以上、無理強いはできません。

処方内容だけでは全体像が読み取れないもどかしさを抱えたまま、その日もお薬をお渡ししました。

4回目に開かれた手帳と、貼られていた5軒分のシール

4回目の来局で、初めて差し出された1冊のお薬手帳。

開いた瞬間、これまでの違和感の正体が一気に姿を現しました。

どの医師にも本当のことを話せていなかった理由

4回目の来局は、初来局から2ヶ月後。

この日、Aさんは少し疲れた表情で来られました。処方箋を差し出すとき、バッグから一緒に取り出されたのが、使い込まれた1冊のお薬手帳。「今日は、これも見てもらえますか」

初めて開かれた手帳をめくった瞬間、思わず言葉を失いました。

お薬手帳には、処方内容からは見えなかった意外な受診歴が記録されていました。

過去半年ほどのシールは、5軒の異なる薬局から発行されたものでした。

処方元も4つの医療機関にまたがっており、いずれも睡眠導入剤や抗不安薬、鎮痛剤が中心でした。しかも、同系統の成分が重複しているものが複数見つかりました。

「Aさん、これ、拝見してもよろしいですか」と断ったうえで、シールを一枚ずつ丁寧に確認していきました。

とある薬剤が複数のクリニックから重複して処方されており、看過できないレベルでした。

「差し支えなければ、少しお話を聞かせていただけますか」

別室にご案内し、30分ほど時間をいただきました。

Aさんはためらいながらも、少しずつ話してくださいました。

ある日常の変化から眠れない日が続き、最初は近所のクリニックに通っていたこと。

処方される薬の量では効かなくなり、少しずつ別のクリニックにもかかるようになったこと。どの医師にも「今の薬で足りている」としか言えず、本当のことを話せなかったこと。

手帳を“見せてもらえる”関係をどう作るか

Aさんが4回目にようやく手帳を出せたのはなぜか。

この経験を通じて、初対面の患者さんとの向き合い方そのものを見直すことになりました。

重複投薬に気づいたときの伝え方の工夫

Aさんの了承を得たうえで、その日は投薬を一旦保留し、直近の処方元の医師に疑義照会を行いました。

重複投薬の状況を共有したところ、医師も驚かれ、「一度ご本人と話したい」と、翌日の再受診を提案してくださいました。

その後、Aさんは睡眠外来を紹介され、根本的な不眠治療に取り組む方針に切り替わったと後日伺いました。

この一件を振り返って感じるのは、Aさんが最初から手帳を隠していたのは、隠したかったのではなく、「見られたら困る」という気持ちの表れだったのだろうということです。

重複していることを、ご自身でも薄々気づいていた。だからこそ、4回目にようやく手帳を出せたのは、こちらとの間に少しだけ「話せそうな空気」ができたからではないかと思っています。

以降、初対面の患者さんに手帳の有無を尋ねる際、「持ち歩きが面倒でしたら、スマホのアプリでも大丈夫ですよ」「他の病院にかかっていらっしゃる場合、飲み合わせを確認するのに使わせていただくだけです」と、目的を添えて伝えるようにしています。

「見せてください」ではなく、「一緒に確認させてください」というスタンスを示すこと。それだけで、手帳を出してくださる方が明らかに増えました。

読者の皆さんの中にも、複数の医療機関にかかっている方、あるいはご家族にそうした方がいらっしゃるかもしれません。お薬手帳を1冊にまとめて持参することは、決して「怒られるため」のものではありません。

むしろ、ご自身の体を守るための強い味方です。1冊にまとまった手帳から、私たち薬剤師は多くの情報を読み取り、より安全な服薬をサポートさせていただけます。Aさんとの4回のやりとりは、そのことを改めて教えてくれた出来事でした。


ライター:下田篤男

京都大学薬学部総合薬学科を卒業後、調剤薬局やドラッグストアグループで薬剤師として勤務してきました。総合病院の門前店舗では管理薬剤師を務め、たくさんの患者さんと向き合う日々の中で、「薬を渡す」だけではない、人と人との関わりの大切さを実感しています。現在は薬剤師として現場に立ちながら、医療記事の執筆・編集や薬局経営コンサルタントとしても活動中。読者の皆さまに、薬局がもっと身近で頼れる場所になるような情報をお届けしていきたいと思っています。


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