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語られてこなかった物語にピントを当てる。女性初の抜擢真打、林家つる子が古典落語を語り直す理由

  • 2026.7.23

入門順を大幅に飛び越え、林家つる子さんが12人抜きで落語家の最高位・真打に昇進したのが、2024年3月。女性初の抜擢真打という快挙を成し遂げ、今年、真打3年目を迎えた彼女。先日〈浅草演芸ホール〉の高座でも、古典落語に現代の視点を落とし込み、会場は笑いの渦に包まれていた。演目は怪談『番町皿屋敷』のお菊の幽霊が主役の滑稽噺『お菊の皿』。またほかにも『芝浜』といった内助の功を描いた噺では、従来はフォーカスされなかった妻の日常に焦点を当てて話す。つる子さんの新たな挑戦が、落語界をさらに面白くする。

photo: Aya Kawachi / text: Koji Okano

林家つる子
BRUTUS

江戸を東京の視点で解釈する、古典落語の可能性

女性初の抜擢真打、林家つる子さん。夫婦を描いた『芝浜』や『子別れ』などを妻の目線で噺すのは、今や彼女の独壇場だ。なぜその視点が生まれたのか。まずは誕生秘話を聞く。

林家つる子

「真打になる前、前座時代から思っていたことがあったんです。古典落語に出てくるおかみさんたち、裏側でどんな気持ちだったんだろうって。『芝浜』の勝っつぁんは、怠け者で酒癖が悪い。『子別れ』の熊さんは、加えて横柄で女遊びもする。そんな人たちを黙って愛し、最終的に更生させた女性がどんな気持ちで日々を過ごしていたのか。語り継がれてこなかった物語に、興味が湧いたんです」

『芝浜』の妻は、泥酔して大金を拾った夫に、「これでは彼はダメ人間になる」と察し、翌朝「財布を拾ったのは夢だよ」と噓をつく。

「おかみさんは大金をどうするか、まず家主さんに相談しているんです。こんな秘密を話すってことは、よほど大家さんを信頼していたんだとか。行間を読み解いていけば、現代とは違う江戸時代の人間関係の濃さが浮かび上がるのが面白くて。私の詮索好きが高じて噺の裏側を描いてみたくなったんです」

ただ結末は変えないと話すつる子さん。そこには古典落語への尽きぬ敬意があるからだ。

「オチは本来のまま。だけどおかみさんを主人公にすると、共感してくださる方がまた増えて。あと『お菊の皿』は、現代の推し活を意識しながら語っています。『番町皿屋敷』で有名なお菊の幽霊が美しすぎて、屋敷前に見物の人だかりができたという奇想天外な演目なのですが、常連ができたり、かけ声をかけたりと、ほとんど推し活と同じです(笑)。こうやって登場人物に親近感を抱けると、もっと落語の楽しみ方が広がるはずですから」

真打として3年目の夏、2026年7月に迎える〈浅草演芸ホール〉での主任興行。今度はどんな演目、視点と噺し方で私たち観客と江戸時代の距離を縮めてくれるのか、興味が尽きない。

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Information

『浅草演芸ホール 林家つる子主任興行』

興行期間は2026年7月21日〜30日で、開演11時40分、終演予定16時30分。複数の落語家、漫才師らが出演、毎回、林家つる子さんがトリを務める。予約不要。当日券にて入場可。詳細は〈浅草演芸ホール〉の公式HPを参照。


profile

林家つる子

1987年群馬県生まれ。大学卒業後、2010年九代林家正蔵に入門。15年11月に二ツ目となり、24年3月、落語界で女性初となる抜擢真打昇進を果たす。25年11月第42回浅草芸能大賞新人賞受賞。全国各地の落語会のほか、幅広くさまざまなメディアにも出演中。7月20日には、東京都のなかの芸能小劇場にて『林家つる子 独演会』も開催予定。

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