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朝ドラ『風、薫る』意地悪風味でイラッとさせる人物像の作り方—横澤夏子さすがの存在感と言っていいだろう

  • 2026.7.20

朝ドラ『風、薫る』意地悪風味でイラッとさせる人物像の作り方—横澤夏子さすがの存在感と言っていいだろう

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。近代看護界の先駆者となった2人の女性を主役とする物語。「風、薫る」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

りんの背中を押す、直美と環とシマケン

抜けるような青空を見上げ、目の覚めるような緑に包まれた道を、晴れやかな笑顔で歩くりん(見上愛)。どこか第1話で栃木の街を歩く場面とも重なるようでもあり、りんの新たな人生がここからまた始まるかのような希望を感じさせるようでもあった。

『明治のナイチンゲール 大関和物語』(田中ひかる著・中央公論新社)を原案とし、激動の明治時代を駆け抜けた二人のナースを、見上愛・上坂樹里のダブル主人公として描くNHK連続テレビ小説『風。薫る』の第16週「新風吹くころ」が放送された。

りんは、前週、大腸がんで入院していた山本(本多大輔)の願いを叶えようと、山本が病院を抜け出し妻のもとへと向かうことに手を貸した。その後山本は急変しこの世を去る。それがりんが連れ出したことと直接関係があるかどうかは分からないが、その件でりんはバーンズ(エマ・ハワード)に看護を学び、直美(上坂樹里)らと一緒に学び働いた帝都医大病院をあとにする。

直美たち日本初となるトレインドナースの成長を見守ってきた捨松(多部未華子)は、りんに新潟の女学校の寮の舎監になることを提案した。一人で住み込みの仕事となり、娘の環(宮島るか)や母の美津(水野美紀)と離れて暮らすこととなる。

りんは、看護師としての給金で彼女たちの生活を支える「大黒柱」としての存在であった。病院を辞めることはそのまま環たちが暮らしていけなくなることに直結する。看護の仕事をするしかないと主張したりんではあるが、その一方で山本の件で自分の考える看護とは何かというものを見失ってしまい大きな壁に突き当たってもいた。生きるため、家族を生かすため、りんは捨松の提案を受け入れ、新潟へと向かう。

実はこの捨松にりんのことを相談していたのが直美である。「看護婦やめな」と厳しい一言を突きつけたのも直美だが、これもまた、りんを思って出た言葉だと考えていい。それが病人やけが人でなくともその心に、直接ではないかたちで、そして一歩引いたどこかクールな視点で見守る。これはこれまで直接寄り添うかたちで看護と向き合ったきたりんと対照的に描かれてきた直美の看護のスタイルに近いものではないだろうか。りんが心配する家族のことも、直美が責任もって見守る、環の二人目のお母さんになると言い、その背中を押す。

もちろん直美だけではない。
「寂しいけど、いいよ。寂しいと悲しいは違うでしょ」
こう言ってのける環に、いつの間にか内面的に大きく成長していたことを感じる。そして、
「僕はおじさんになる」
とシマケン(佐野晶哉)も続く。

担当する患者についてもそうだったかもしれないが、りんは自分でついついなんでも背負い込んでしまう部分がある。そこを長年の付き合いによって理解する直美、そして周囲みんなで支えあって苦労を分け合い、りんのあやうさ、もろさを補うというかたちは、周囲にりんという人物が理解されていることの裏付けでもあろう。

二人の主人公は、それぞれ新潟と東京、ふたつの街を舞台とし、二本の軸でこの先しばらくは展開していくこととなる。もちろん序盤もふたりが出会うまでは二拠点ドラマとして展開してきたわけではあるが、離れていった二人の主人公の人生を散漫にならずつなぎ、そして撚り合わせていくところに注目していきたい。

文は直美と何か関係があるのか

さて、心機一転とばかりに始まった「新潟編」ともいえる物語は、ガラッと異なる雰囲気と新たな登場人物たちによって幕を開けた。これから働く女学校を探すりんが道をたずねようと声をかけたのが、地元の大地主の妻・テツ(横澤夏子)だ。

「東京らんだかね。道理で。すてきなおぐしですて」
と、東京からきたりんに若干の意地悪風味で新潟の洗礼を受けさせてくるインパクト、イラッとさせる人物像の作り方はさすがの存在感と言っていいだろう。

とはいえ新たに舎監として大都会東京からやってきたりんに、女学校の生徒たちは興味津々だ。寮での生徒たちとの生活が始まり、東京との考え方や文化の違いや看護婦以外の仕事にとまどったりしながらも少しずつ慣れていく様子が描かれていくのかと思いきや、あっという間に半年が経過してしまい、そういった過程がスキップされてしまった。気になるところではあるが、掘り下げていきたいのはそこではないということなのであろう。

新潟編では物語の序盤で強く描かれてきた当時の「家」というものへの感覚が再び浮き彫りにされてきた。造り酒屋の嫁であるサワ(磯山さやか)は、実母が体を壊したことで病院に連れていきたいが、夫はそれを許さない。サワはりんが舎監をつとめる女学校の生徒・久(近藤華)の母である。結局、サワは母の力になることはできなかったが、夫はそれを寿命だったのだろうと冷たくあしらう。たまらず娘のいる寮へと駆け込むサワの姿に、自分の未来を見るような気がして「お母さんのようになりたくない」と、不安をつのらせる久。それでいて、母に自分の人生をちゃんと歩いてほしいという親想いな心も同居する。

これまで日本初のトレインドナースという、女性の新たな時代を切り拓く存在にスポットをあて、りんや直美ら新たな時代を背負う女性像が描かれてきたが、その一方で世の中の大多数、東京以外の町は相変わらず「家」の呪縛は強いことをあらためて突きつけられる。りんもまた、夫(三浦貫大)の理不尽さに耐えかね飛び出してきたわけだが、看護の道から離れたりんが、この先、どう舎監としての立ち居振る舞いを見せてくれるのか、今度こそ「また間違えた」と言わず舎監としてつとめあげていくことができるのか、気になるところだ。

りんと美津、久とサワという二組の母と娘の姿に今週スポットが当たったところで、直美とその産みの親である夕凪についても気になる展開が待ち受けていそうな気配である。瑞穂屋で働く文(内田慈)が倒れ、文もまた、直美がこれまでもどかしい思いをしてきた長屋のひとびとと同じようにお金がないからと治療をこばみ、結果的に直美が看病する。そんな文の枕元にあった布、それは、直美がずっと身につけてきたお守りと同じ柄だったのである。それが何を意味するのか。文は直美と何か関係があるのか。

母と娘という関係性のもと、新潟と東京、ふたつの街を舞台に物語は目まぐるしく展開していく。

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