1. トップ
  2. エピソード
  3. 「産まれたら飲みに行けなくなるから」と言っていた夫。だが、産後の態度を見て実家に帰った

「産まれたら飲みに行けなくなるから」と言っていた夫。だが、産後の態度を見て実家に帰った

  • 2026.7.21
「産まれたら飲みに行けなくなるから」と言っていた夫。だが、産後の態度を見て実家に帰った

言い訳の賞味期限

妊娠中、夫の週末はいつも家になかった。

「産まれたら飲みに行けなくなるから」

玄関でそう言い残しては、金曜の夜ごとに出かけていく。お腹は重く、靴下を履くだけで息が上がる時期だった。

「今のうちだけだって。ね」

私は黙って見送った。産まれたら、きっと家にいてくれる。そう思っていたからだ。

けれど産まれても、夫の週末は一ミリも変わらなかった。

入院中、面会に来るのは決まって夕方の三十分。

私の顔より先にスマホを見て、「今夜、部署の集まりでさ」と立ち上がる。

退院の日。抱いた息子は思っていたよりずっと重くて、玄関で靴を脱ぐ手も震えた。

ソファに沈んだ夫は、顔も上げずに言った。

「あとで、ご飯食べてくるね」

手が止まった。

「……もう、産まれてるけど」

「あー、まあ。今夜が最後だから」

言い訳の賞味期限は、とっくに切れていた。

それでも夫の口は、同じ台詞を吐き出し続けている。

誰もいない家

その夜、夫はやっぱり出かけた。

翌朝、私は息子を抱いて、着替えとおむつだけをかばんに詰めた。

玄関の鍵をそっと閉める。何も言わなかったし、書き置きも残さなかった。

実家の匂いは少しだけ埃っぽくて、あたたかかった。

母が息子を覗き込んで「よく寝てるねえ」と笑う。背中を叩く手つきは、私よりずっと慣れていた。

窓の外で、洗濯機が回る音がする。誰かが家事をしてくれる音を、久しぶりに聞いた。

母は帰ってきた理由を、ひとつも聞かなかった。私はその日、昼から夕方まで眠った。

スマホが震え始めたのは、昼過ぎだった。

「どこ?」

返さなかった。夕方には通知音が三つ、夜には五つ増えた。三日目の朝、電話が鳴った。

「洗濯機、どのボタン押すんだ?」

「靴下、履けるやつが一枚もない」

「…なあ、いつ帰ってくるんだよ」

声が、日ごとに細くなっていく。私は静かに聞いた。

「産まれたら家にいてくれると思ってた。私が居ない家がどうなるか、分かった?」

電話の向こうが無音になった。息を吸う音だけが聞こえて、それも途中で止まった。

その日の午後、夫は実家の前に立っていた。シャツはよれ、顔から血の気が引いていた。

「ごめん」

頭を下げたまま、しばらく動かない。母がお茶を出しても、湯呑みに手をかけられずにいた。

「三日で、家が止まった。俺、何も分かってなかった」

私は「そう」とだけ返した。責めもしなかったし、いいよとも言わなかった。

家に戻って最初の金曜日。夫はスマホを裏返して置き、息子の隣にあぐらをかいた。

「今日は、行かない」

誰に誘われたのかは、聞かなかった。それから夫の週末は、ずっと家にある。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ