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死体と交尾するイノシシを発見ーー白骨化するまで「腐敗」を見届ける

  • 2026.6.29

森の中に横たわった1頭のメスのイノシシの死体。

センサーカメラが次に捉えた光景は、驚くべきものでした。

なんと1頭のオスのイノシシがそこに近づき、メスの死体に対して交尾行動を行ったのです。

さらに驚きはそれで終わりませんでした。

オスのイノシシはその後も死体が白骨化するまで、何度もメスを訪れていたのです。

この事例は、同種または近縁種の死体に対する交尾行動として、哺乳類では世界で11例目、陸生哺乳類では4例目、そして有蹄類では初の報告になります。

研究の詳細は、東京農工大学により、2026年6月16日付で学術誌『Ecology and Evolution』に掲載されました。

目次

  • メスの死体と交尾したオスのイノシシ
  • 白骨化するまで続いた「死体への関心」

メスの死体と交尾したオスのイノシシ

すべての動物はいずれ死を迎えます。

しかし、野生下で動物の死体を継続的に観察することは簡単ではありません。

そのため、動物が同種の死体に対してどのように反応するのかは、まだ十分にわかっていない部分が多く残されています。

これまで、死体への反応は霊長類やカラス、ゾウ、イルカやクジラなど、複雑な社会性を持つ動物を中心に研究されてきました。

一方で、イノシシのような有蹄(ゆうてい)類が同種の死体にどのような反応を示すのかは、ほとんど記録されていませんでした。

研究チームは2023年10月1日から11月11日にかけて、栃木県日光市の森林内に1頭のメス成獣のイノシシ死体を設置し、死体が白骨化するまでセンサーカメラで動画を記録。

その結果、3頭のイノシシが死体に接近しました。

このうち1頭のオス成獣は、10月6日から10月18日までの13日間に、12回にわたって死体を訪れていました。

さらに最初の2回の訪問では、メスの死体に対して騎乗し、交尾行動とみなされる行動を行っていたことが確認されました。

※ 死体と交尾するイノシシの実際の映像は、こちらの論文内に掲載されています。

メスのイノシシ死体に騎乗して交尾行動をするオスイノシシ/ Credit: Inagaki et al., Ecology and Evolution (2026), CC BY 4.0

イノシシではまれに同種の死体を食べる共食いが知られています。

しかし今回の観察では、このオスを含め、死体に近づいたイノシシはいずれも軟組織を食べていませんでした。

つまり、このオスの行動は、死体を餌として利用するためのものではなかったと考えられます。

チームは、死体の匂いなどの化学的手がかりが関係した可能性を挙げています。

ただし、メスが死亡時に発情状態だったかどうかは不明であり、オスがなぜ交尾行動に至ったのかは断定できません。

ここで重要なのは、「イノシシが死を理解していた」と結論づけることではありません。

むしろ、これまであまり注目されてこなかった有蹄類でも、同種の死体に対して単なる無視や摂食では説明しきれない反応を示す可能性があるという点です。

白骨化するまで続いた「死体への関心」

この記録でさらに興味深いのは、オスの関心が交尾行動だけで終わらなかったことです。

このオスは、死体が腐敗し、白骨化へ向かうまでの13日間にわたって繰り返し訪問していました。

その間、死体に鼻先で触れたり、足で踏んだり、近くで休息したりする行動が記録されています。

つまり、オスは最初の交尾行動のあとも、死体に対して持続的な関心を示していたのです。

もちろん、ここでいう「腐敗を見届けた」という表現は、人間のように死や腐敗を理解していたという意味ではありません。

あくまで観察された事実として、死体が白骨化するまでの期間に、同じオスが何度も訪問し、接触や休息などの行動を繰り返したということです。

白骨化したメスのイノシシ死体の横で休息するオスイノシシ/ Credit: Inagaki et al., Ecology and Evolution (2026), CC BY 4.0

一方で、死体に近づいた他の2個体には、同じような持続的な関心は見られませんでした。

このことは、同じイノシシであっても、死体への反応には個体差があることを示しています。

今回の事例は1例のみであり、オスと死体となったメスの生前の関係もわかっていません。

そのため、この行動が性的な刺激によるものだったのか、匂いへの反応だったのか、あるいは別の要因が関係していたのかは不明です。

それでも、この観察は動物の死体に対する反応を考えるうえで重要な意味を持ちます。

近年、野生動物の研究ではセンサーカメラの利用が急速に広がっています。

これまでは主に、動物の出現頻度や行動圏、死体の分解過程などを調べるために使われてきました。

しかし今回の研究は、センサーカメラが動物の「死体への反応」を記録するうえでも大きな力を持つことを示しています。

動物は死をどのように感じ、死体にどのように向き合うのでしょうか。

その答えは、霊長類やゾウのような一部の動物だけでなく、イノシシのような身近な野生動物の行動にも隠されているのかもしれません。

今回の記録は、死体と交尾したという衝撃的な一場面にとどまらず、動物たちの死への反応が私たちの想像以上に多様であることを示す、貴重な観察例だといえます。

参考文献

死体と交尾し、腐敗を見届けたイノシシ ~同種の死体に対する有蹄類の貴重な反応を記録~
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2026/20260626_01.html

元論文

Mating Attempts and Sustained Interest Behaviors of Wild Boars (Sus scrofa) Toward a Dead Conspecific
https://doi.org/10.1002/ece3.73848

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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