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「車検まで様子を見ます」から約8か月…40代男性、“コトコト音”放置で直面した修理費の誤算

  • 2026.7.20
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

元自動車整備技術アドバイザーの松尾です。

「駐車場の段差を越えるときだけコトコト鳴る」「住宅街の細かい凸凹でだけ音がする」そんな症状は、普段の走行ではほとんど気にならないため、「そのうち直そう」と後回しにされがちです。しかし、その小さな異音は足回りの劣化を知らせる重要なサインかもしれません。

今回は、私が自動車整備工場に勤務していた頃に修理で来店されたお客様、Tさん(40代男性)とのやり取りをもとに、小さな異音を放置したことで修理費が大きく膨らんだ事例をご紹介します。

「段差だけだから大丈夫」が落とし穴だった

ある日、Tさんが来店されるなりこう話しました。

「駐車場の段差だけなんですよ。コトコト鳴るのは。でも普通に走る分には何ともないので、まだ乗れますよね?」

私は試乗を行い、近くの住宅街で小さな段差を通過してみました。

「コト、コト」

確かに、小さな入力が加わったときだけ異音が発生しています。一方で平坦な道路では静かで、直進性にもその時点では大きな違和感はありませんでした。点検すると、原因は足回りでした。スタビライザーリンクのジョイント部分に摩耗によるガタが見られたのです。

「今なら部品単体の交換で済む可能性が高いですよ」

するとTさんは少し考えて、

「まだ普通に走れるし、車検まで様子を見ます」

そう言って帰られました。

このようなケースは珍しくありません。小さな段差でしか音が出ないため、深刻さが伝わりにくいのです。しかし、足回りの部品は一度劣化が始まると、少しずつ確実に状態が悪化していきます。

放置した結果、車はまっすぐ走らなくなった

約8か月後、再びTさんが来店されました。

「最近、なんだか車がフラフラするんです。高速道路でも落ち着かなくて」

試乗すると、以前とは明らかに状態が変わっていました。ショックアブソーバー内部の減衰力は大きく低下し、一部にはオイル漏れも確認できました。さらに足回り全体に余計な負荷がかかったことで、複数のサスペンション部品にもガタが発生していたのです。

「以前なら数万円程度で済んだ可能性がありましたが、今回は交換部品がかなり増えています」

Tさんは驚いた表情で、

「こんな小さな音が、ここまで大きな修理になるなんて思いませんでした」

と肩を落としていました。

ショックアブソーバーは、単に乗り心地を良くする部品ではありません。タイヤをしっかり路面へ押し付け、安定した走行を維持する重要な役割があります。減衰力が低下すると、タイヤが路面を十分に捉えられなくなり、ブレーキ時の制動距離が伸びたり、カーブで車体が不安定になったりすることがあります。また、路面からの衝撃を吸収しきれなくなることで、サスペンションの他の部品にも負担が集中し、修理箇所が次々と増えてしまうケースも少なくありません。

結果として、車検時にはショックアブソーバーだけでなく、アッパーマウントやスタビライザーリンクなど複数部品を同時交換することになり、修理費が当初より大幅に高額になることもあります。なお、修理費用は車種や損傷状況、交換部品によって大きく異なります。

「毎回同じ場所で鳴る」は点検のサイン

足回りからの異音は、「大きな音だから危険」「小さい音だから安心」というものではありません。むしろ今回のように、「駐車場の段差だけ」「住宅街の細かな凹凸だけ」「毎回同じ場所で同じ音がする」という症状は、部品が劣化し始めた初期段階によく見られる特徴です。

「普通に走れるから大丈夫」と考えてしまう気持ちはよく分かります。しかし、正常なサスペンションであれば、毎回同じ状況で異音が出ることは基本的にありません。繰り返し同じ音が聞こえるのであれば、何らかの部品が異常を知らせている可能性があります。足回りの不具合は、早い段階で点検を受ければ、原因となっている部品だけの交換で済むケースが少なくありません。その結果、修理費を抑えられるだけでなく、他の部品への負担も防げます。

また、異音はスマートフォンなどで録音・録画しておくと、整備工場で症状を伝えやすくなります。「どんな道で鳴るのか」「左右どちらから聞こえるか」「速度によって変わるか」なども覚えておくと診断の助けになります。

車は毎日乗っていると、小さな変化に慣れてしまいがちです。しかし、その「いつもと違う音」は、大きな故障を未然に防ぐための貴重なサインかもしれません。小さな段差で毎回コトコト音がするようなら、「まだ大丈夫」と考えず、一度点検を受けることをおすすめします。早めの対応が、安全性と修理費用の両方を守る近道になるでしょう。


ライター:松尾佑人(二級ガソリン自動車整備士・二級ジーゼル自動車整備士資格保有)
新卒で自動車整備業界に入り、約8年間整備に従事したのち、現役メカニックに向けた故障診断アドバイザーや各種講習の講師として活動。年間約1,200件の技術相談に対応し、電気回路や配線図の読み解きを基盤とした電子制御システムの解説を得意としている。


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