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家を出る前にこっそり彼女の香水を借りていた、俺が言えずにいた理由

  • 2026.6.26
ハウコレ

コートの襟の内側に、小瓶を一度だけ吹きかけてから家を出る。それが俺の、ささやかな習慣になっていました。玄関の靴箱の上に置いてあるのは、彼女がいちばん気に入っている香水です。本人には、まだ言えずにいました。

彼女の匂いを、持って歩きたかった

仕事が立て込んでいた時期で、気持ちの晴れない日が続いていました。ある日、彼女のつけている香りがふと恋しくなり、ドレッサーの小瓶を玄関へ移したのが始まりです。

襟にひと吹きしておくと、ひとりで取引先へ向かう道でも、隣に彼女がいるような心地がしました。子どもじみた習慣だと、自分でも思います。だからこそ、彼女に切り出すきっかけを、ずっと逃していました。

すれ違いに、気づけないまま

そのころから、彼女の口数が減っていきました。俺はてっきり、余裕のない自分に愛想を尽かしかけているのだと思い込みました。瓶を勝手に動かしたことと彼女の沈黙が、頭の中でつながっていなかったのです。

玄関を出るとき、瓶の位置をいつも少し直していました。声をかけようとしては、疲れを言い訳にして先延ばしにします。香りを借りていることだけは、ますます言い出しづらくなっていきました。

コートの匂いで、ばれてしまった

休日に出かけて戻ると、彼女が玄関の瓶のことを口にしました。コートから自分の香りがしたのだと、戸惑った顔で言われました。隠し続けるのも、もう限界でした。俺は照れくささをごまかすように笑って、正直に打ち明けました。

「家を出る前に、これを少しだけつけてたんだ。言うの、恥ずかしくて」

彼女は黙ったあと、少しだけ笑ってくれました。

そして...

香水はいまも玄関の靴箱の上に置いてあります。隠すように動かしていた瓶を、彼女はそのままにしておいてくれました。同じ一本でも、そこにある意味はすっかり変わったように感じます。次に気持ちが沈んだ日は、借りる前にちゃんと声をかけようと思います。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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