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全国各地でクマ出没! 15年間被害ゼロの軽井沢に学ぶ、共存のための知恵

  • 2026.6.22

長野県軽井沢町では、15年以上にわたってクマによる居住地エリアでの人身被害ゼロを維持しています。2025年のクマ出没情報件数は208件と決して少なくありません。全国各地でクマによる被害が相次ぐなか、なぜ軽井沢ではこの記録を守り続けてこられたのでしょうか。町でクマ対策を担うNPO法人「ピッキオ」は、子どもたちにこう教えます。「クマは臆病。できれば人と会いたくない」。クマを正しく知り、行動する文化の積み重ねがこの数字を支えているのです。

クマについて正しく知ることが出発点

「これは大人のクマでしょうか、子どものクマでしょうか?」。体育館に集まった小学生たちに、ピッキオの玉谷宏夫(たまたに・ひろお)さんが問いかけます。子どもたちの前にはツキノワグマの剥製が置かれています。

「実は大人のクマなんです!」。想像していたよりも小さな姿に子どもたちは「えー!」と驚きを隠せません。さらに玉谷さんはポケットから実物大のクマの赤ちゃんのぬいぐるみを取り出します。「こんなに小さく生まれるんですよ」との説明にさっきよりもっと大きな「えー!!」が体育館に響きます。

これは軽井沢町でクマ対策を担うピッキオが町内や近隣自治体の小学校で行う特別授業の一場面です。2026年6月5日、佐久市立中込小学校で全校児童約300名が参加しました。授業では、このようにクマの生態について学ぶことから始めます。

鼻は利くけれど目はあまりよくないこと。時速40kmの速さで走れること。人間が好きな柿やりんご、栗などはクマの好物でもあること。実際のクマの写真や動画を交えた説明に子どもたちはどんどん引き込まれていきます。

「クマは基本的に臆病で人間に会いたくないんだよね。だからいつも『近くに人間はいないかな』とビクビクしながら暮らしています」と玉谷さん。

授業の冒頭、「クマのことを怖いと思う」に手を挙げていた子どもたちにとって、クマに対するイメージがガラリと変わった瞬間でした。「クマについて正しく知ること」が授業の出発点です。では、実際にどう行動すればいいのか。授業はさらに続きます。

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クマに出会わないために

次に子どもたちはクマに出会わないために大切なことを教わります。

・クマの好物がある場所には近づかない
クマが好む果実をつける樹木に注意。人間が食べ残したものやゴミもクマにとってはごちそうになる

・クマの痕跡がある場所には近づかない
フン、爪痕、足跡など

・林の中の穴や凹み、見通しの悪い所、藪などには近づかない
クマが潜んでいる可能性大

・夕方から朝方、天候の悪い時は要注意
夕方から早朝はクマが活発に行動する時間帯。雨音や視界不良でクマが人間に気づかず、遭遇のリスクが高まる

・人間の存在をクマに知らせる
クマ鈴やラジオなどで大きな音を出しながら移動する。単独で行動しない

クマと出会ってしまったら?

それでもクマと出会ってしまったらどうすればいいのでしょう。そんな時の対処法も授業では教えてくれます。

・遠くにいる場合
そのまま通り過ぎる

・50m以内にいる場合
様子を見ながら後ずさりして離れる。ただし目は合わせない

・子グマを見つけた場合
近くに母グマがいる可能性が高いので直ちに離れる

・背中を見せて走って逃げない
クマは逃げるものを追いかける習性がある

・至近距離で出会った、接触してしまった場合
うつ伏せになり、両手を首の後ろで組んで顔や首、お腹を守る

・万が一、クマが向かってきた場合
クマスプレーが有効。クマの顔、目、鼻、口を狙って噴射

いざ遭遇してしまったとしても、正しい対処ができれば被害は最小限に抑えられます。

軽井沢町の徹底したクマ対策

こうした授業は、町内や近隣自治体の小学校で毎年続けられています。しかし、ピッキオの取り組みは教室の中だけにとどまりません。
クマに関する普及啓発活動は、住民や町を訪れる観光客に向けても行われています。2026年4月にはピッキオ監修のもと、パンフレット「クマとの事故を防ぐために」が作成されました。

町では3つの柱を掲げたクマ対策を行っています。

①環境整備(近づかせない)
②侵入防止(入れさせない)
③捕獲

この3つを実現するための特徴的な施策の1つが「ゾーニング管理」です。町を人間活動エリア、緩衝エリア、クマ生息エリアに分け、出没場所とクマの行動によってどのように対応するかの基準を設定しています。

たとえば緩衝エリアに近い森林エリアで捕獲したクマには、あらかじめ発信器を装着し、行動を追跡します。そしてクマの活動期にあたる6月から10月までは毎晩居場所を調べ、行動を監視するのもピッキオの仕事です。

また緩衝エリアや人間活動エリアに出没した個体には、ベアドッグ(クマ対策犬)による追い払いなどを実施。「人間は怖いもの」と認識させ、境界線を覚えさせることで人とクマの安全な棲み分けを実現しているのです。

行動調査の結果、問題行動を繰り返すことが特定されたクマは、捕獲・駆除となることもあります。
一方で、人間に対してもクマを引き寄せない行動の徹底を呼びかけています。

誘引物(クマが人の生活エリアに引きつけられる原因となる物)の除去
・ゴミをポイ捨てしない、ゴミ出しの時間を守る
・農作物や養蜂箱は電気柵で囲う
・バーベキューなど、野外で調理・飲食をしたらすぐに片付ける
・雑排水槽(生活排水を一時的に溜める設備)は、定期的に清掃するとともに蓋が開かないようにする
・屋外の物置などにクマを引き寄せるものを保管しない
漬物、味噌などの食べ物のほか、ペットフード、コンポストの生ゴミ、塗料(テルペン系)、ガソリンもクマを引き寄せることがある。家屋に作られたハチの巣、アリの巣が誘引物になるケースも

徹底した誘引物除去の呼びかけは、かつてゴミ集積所がクマに荒らされる被害が多発していた苦い経験に起因します。

対策を迫られた町は、ピッキオと共に本格的なクマ対策に乗り出します。その一環として北海道・登別のクマ牧場で実証実験を繰り返し、クマには開けられないクマ被害対策ゴミ箱を開発。2003年から公共のゴミ集積所に順次導入されたこのゴミ箱は、20年以上一度も荒らされたことはないといいます。

軽井沢モデルとも呼べる独自の取り組みを広めるべく、ピッキオではクマ対策に悩む自治体や企業向けの講習や視察の受け入れも実施しています。

クマは変わっていない。でも、距離は縮まっている

クマ出没のニュースが増えるにつれて、クマに関するデマ情報やフェイク画像が出回るようになりました。そんな状況に対して、「SNSなどの怪しい情報に惑わされないで」と玉谷さんは警鐘を鳴らします。

とはいえ、油断は禁物です。「人間の食べ物に触れてしまうと、クマの行動は一気に変わる」と玉谷さん。一度でも人の食べ物やゴミに餌付いてしまったクマは、人間の生活圏に繰り返し出没する危険なクマへと変化してしまいます。

また国や都道府県が指定する鳥獣保護区内では狩猟によるプレッシャーがないため、人の存在を気にしないクマが現れやすい環境になっています。軽井沢町でも数年に一度そうしたクマが現れるといい、追い払いなどで一定の緊張感を維持しているそうです。

クマ被害のニュースに不安を抱えている方へ、最後に玉谷さんからメッセージをもらいました。

「この数年でクマの性質が変わったわけではありません。かといって、何もしなくていいというわけでもない。人とクマの距離が50年前と比べて近づいてきたのは事実です。クマが身近に生息していることを前提に、過度に恐れず、正しく行動する習慣を生活の中に取り入れてもらえたら」

「クマは臆病でできれば人と会いたくない」——授業でこの言葉を聞いた子どもたちのように、あなたのクマへのイメージも少し変わりましたか? クマとの共存は、特別なことではありません。正しく知り、正しく行動する習慣を日常の中に少しずつ取り入れていくこと。軽井沢が積み重ねてきた25年は、その大切さを私たちに伝えてくれています。

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<玉谷さんおすすめの「クマについて知る」書籍・サイト>
・『ツキノワグマのすべて』(小池伸介・著/文一総合出版)
長野県公式サイト
秋田県公式サイト
知床財団公式サイト

<特定非営利活動法人ピッキオ>
長野県軽井沢町を拠点に、野生動植物の調査研究及び保護管理とともに自然観察ツアーや環境教育を行う専門家集団。ツキノワグマをはじめとする野生動物と人間が安全に共存するための仕組みづくりに取り組む。公式サイトはこちら。ピッキオの活動とクマの生態を描いた絵本『となりにすんでるクマのこと』(菊谷詩子・著/福音館書店)。

<玉谷宏夫さんプロフィル>
特定非営利活動法人ピッキオ・理事長。京都大学大学院農学研究科に在籍中、北海道知床国立公園で非常勤職員としてヒグマの人身事故対策に従事。大学院卒業後、2003年よりピッキオにてツキノワグマの調査・保護管理に携わる。農林水産省・農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー、長野県クマ対策委員。

<執筆者プロフィル>
那須 あさみ
フリーランスライター。小学生、中学生の4児の母。さまざまな年齢の子どもと一緒に家庭で備えられる防災を模索中。

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