1. トップ
  2. エンタメ
  3. 下津優太監督が長編第2作『NEW GROUP』で確立した作家性とハリウッドへの出発点「“中身”と“撮り方”の掛け算を、自分ならではのラインに」

下津優太監督が長編第2作『NEW GROUP』で確立した作家性とハリウッドへの出発点「“中身”と“撮り方”の掛け算を、自分ならではのラインに」

  • 2026.6.12

第1回日本ホラー映画大賞で大賞を受賞し、勢いそのままに2024年には受賞作を自ら長編映画化した商業デビュー作『みなに幸あれ』を発表した下津優太監督。単なる“帰省ホラー”の領域を超え、持続可能性や同調圧力といった同時代性ともつながるテーマを内包した同作は国内外で議論を呼び起こすに至る。そこから約2年を経て生み出された新作映画『NEW GROUP』(公開中)もまた、新味にあふれた強烈な一作に仕上がった。下津監督が今回モチーフに選んだのは、「組体操」。とある学校である日突然、生徒が1人また1人と校庭で人間ピラミッドに加わり始めるという異様な始まりから、日常が崩壊していく。前作に続き、集団意識による個の埋没、そのグロテスクさをホラーの文脈に乗せて痛烈に突き付けてくるが、その発想は、どこから来たのか。下津監督に問うと、「『みなに幸あれ』を作ったあと、監督として足りないスキルを上げたくて歴史や宗教、心理学や哲学の本を読み漁りました。その中にあった社会学の本に『この社会は様々な集団でできている』と書かれていたのです」と語り始めた。

【写真を見る】ハリウッドの会社とマネジメント契約も発表!海外へと真っ直ぐな視線を向ける下津監督

「統率のとれた集団の象徴はなんだろうと考えた時に、『人間ピラミッド』が浮かんだ」(下津監督)

「その本に出会い、自分はそうした考え方をしたことがなかったと気づきました。確かに、ゾンビのように自由で無秩序な集団も怖いけれど、統率のとれた集団も怖い。その象徴はなんだろうと考えた時に、ふっと『人間ピラミッド』が浮かんだのです。ビジュアルとしてもキャッチーですし、『みなに幸あれ』で各国の映画祭に参加した経験から『人間ピラミッドは海外でも受けるはず』と勝算があり、同じく可能性を感じていたホラーというジャンルと融合させました」

スマッシュヒットした前作『みなに幸あれ』に続き、長編映画第2作となる『NEW GROUP』 [c]2026映画「NEW GROUP」製作委員会
スマッシュヒットした前作『みなに幸あれ』に続き、長編映画第2作となる『NEW GROUP』 [c]2026映画「NEW GROUP」製作委員会

統率のとれた集団=人間ピラミッドへの思考のジャンプは流石としか言いようがないが、組体操自体は日本人にとって身近な存在でもあろう。世代や地域、人によっては、「学校行事として強制参加させられた」というある種の苦い記憶と結びつくものとして…。小中高とスポーツに打ち込み、厳しめな環境で学生生活を送っていたという下津監督も、その1人だった。「恐怖で支配される環境に身を置くと、本来の練習の意味を忘れてしまい“いかに先生や先輩に怒られないようにするか”が目的にすり替わってしまう。いわば思考停止状態ですよね。脚本執筆時は世界情勢もどんどん不安定になってきたタイミングで、“このままで大丈夫なのか”という危機感もあり『一人ひとりが目を覚まして自ら思考して行動する集団=“NEW GROUP”になれたら』というコンセプトで構想を練っていきました。一部、過激すぎる部分だけプロデューサーから指摘が入りましたが、それ以外は本当に自由にやらせていただきました」

「“中身”と“撮り方”の掛け算をやっている監督が国内にはあまりいない」(下津監督)

映像面ではデヴィッド・フィンチャーを参考にしていると語る下津監督 撮影/黒羽政士
映像面ではデヴィッド・フィンチャーを参考にしていると語る下津監督 撮影/黒羽政士

本作では意思表示をうまくできない愛(山田杏奈)と集団生活に馴染めない孤高の転校生・優(青木柚)を中心に、周囲が右へ倣え状態で集団に染まっていく恐怖を寓話的に描いている。ピエール瀧演じる校長が宇宙人なのか?と思わせるようなコズミックホラー的な要素や、街中で陰謀論がささやかれる等の描写も巧妙に混ぜ込んでおり、愛や優が組体操で合体した集団に校内を追いかけられる(捕まったら死亡)悪夢的なシーンも収められているが、下津監督は「究極的に言うと、自分は怖がらせようとしていないのかもしれません」と明かした。

日本体育大学の学生が撮影に協力した組体操シーン [c]2026映画「NEW GROUP」製作委員会
日本体育大学の学生が撮影に協力した組体操シーン [c]2026映画「NEW GROUP」製作委員会

「本作では日本体育大学体操部の皆さんと組体操の異様な動きを考えたり、怖かったりおかしくて気持ち悪いことをやっていますが、デヴィッド・フィンチャー的な『カメラで人物の動きなどをフォローしない』客観的な映像アプローチにすることで“これってひょっとして笑っていいのかな”というシュールな部分に着地させている気がします。本作の撮影中も、カメラマンの作為をなるべく感じさせないようにとは心掛けていました。この“中身”と“撮り方”の掛け算をやっている監督が国内にはあまりいない気がするので、自分ならではのラインにしていければと思っています」

「市場分析と自分の個性をミックスさせてたどり着いた形」

彼は「監督もキャストも僕は椅子取りゲームだと思っています」と続けた。「日本でホラーをやるなら先輩監督たちとの勝負に勝たないといけません。でもそれはなかなか大変なので、だったら椅子を作ってしまえばいいという発想に至りました。撮り方や編集のつなぎ方ならフィンチャー、ストーリー展開ならジョーダン・ピール、奇妙さならヨルゴス・ランティモスなど、ちょうど僕の好きな作品の系統も合致していましたし、市場分析と自分の個性をミックスさせてたどり着いた形です」

「映像の演出家」だと語る下津監督は、演技だけでなく画面全体での“魅せ方”にこだわっている [c]2026映画「NEW GROUP」製作委員会
「映像の演出家」だと語る下津監督は、演技だけでなく画面全体での“魅せ方”にこだわっている [c]2026映画「NEW GROUP」製作委員会

この言葉が示す通り、下津監督は強烈な作家性を有する反面「見せ方」に対して極めて自覚的だ。愛=I、優=YOU、人間ピラミッド=三角形と対立する存在として球を出すなど、インパクトこそ絶大なものの思考自体はコンセプチュアルで理論的。「少し語弊があるかもしれませんが、僕は日本映画はちょっと演技至上主義すぎるきらいがあると思っています。演者さんがいいお芝居をしてくれることは大前提ですが、感情表現についても演技に全振りするのではなく、撮り方や編集の仕方を駆使して画面全体で作っていけるはず。自分は演技の演出家ではなく映像の演出家だと思っているため、そういったアプローチを採っています」と自負する。

そのクリエイティブも、個性をぶん回すスタイルとは大きく異なっている。「CMを企画、演出してきた経験から、僕は映画でも撮影前に“写真コンテ”を作成するようにしています。仮の役者さんに入っていただいて『こういうアングルで撮りたい』といったイメージをシーン1から終わりまで作って配りました。また山田さんと青木さんは基本的に巻き込まれていく役柄ですから、敢えて大枠の説明に留めました。そのため、いわゆる演技演出というものはほぼ行っていません」との言葉からも、キャストやスタッフ間での認識のズレや摩擦をいかに減らし、あるいは利用し、作品に収斂させていくかというしたたかな計算が感じられる。

校長(ピエール瀧)によって“集団”へと誘い込まれる愛と優 [c]2026映画「NEW GROUP」製作委員会
校長(ピエール瀧)によって“集団”へと誘い込まれる愛と優 [c]2026映画「NEW GROUP」製作委員会

「1本目を撮っている時から海外に行くことを目標にしていた」(下津監督)

「わかる人にだけわかればいいという感覚がどこかにあった」という第1作の個人的な反省から「次は皆が楽しめるエンタメ作品にしてやろう」と決意して取り組んだという下津監督。日本公開に先んじて上映されたカナダの第29回ファンタジア国際映画祭では審査員特別賞を受賞し、以降も各国の映画祭で賞賛が続いている。「日本の同調圧力がどこまで伝わるか心配もありましたが、しっかり届いてくれてホッとしました。生のお客さんのリアクションが非常によく、節々で笑ってくださったり、欧米などだと上映後に『ポー!』コールが湧きあがりました」

すでに海外の映画祭で注目を集めている [c]2026映画「NEW GROUP」製作委員会
すでに海外の映画祭で注目を集めている [c]2026映画「NEW GROUP」製作委員会

『みなに幸あれ』が米ローリング・ストーンが選ぶ「The 20 Best Movies of 2025」に選出されるなど、その才能は国外からも注目されている。『NEW GROUP』の日本公開を待たずして下津監督はハリウッドのプロダクション兼マネージメント会社「Kaplan Perrone Entertainment」、そして国内でも株式会社ロボットとのマネジメント契約締結を発表するなど、既に次のフェーズへと歩を進めている。

【写真を見る】ハリウッドの会社とマネジメント契約も発表!海外へと真っ直ぐな視線を向ける下津監督 撮影/黒羽政士
【写真を見る】ハリウッドの会社とマネジメント契約も発表!海外へと真っ直ぐな視線を向ける下津監督 撮影/黒羽政士

「1本目を撮っている時から海外に行くことを目標にしていたので、遂にスタート地点に立てた気持ちです。自分は幸運なことに、名だたる監督でもなかなかオリジナル作品を実現できないなか、2作続けて自由に制作させていただきました。だからこそこれからもオリジナリティと社会批評を組み合わせていくスタイルは変わらずに続けていきたいと思っています。そのなかでワンチャン、ブラムハウスなどで1本撮れたら最高ですね」

取材・文/SYO

元記事で読む
の記事をもっとみる