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500万年続く「史上最大のクジラ墓場」を発見ーー1200kmにわたり約500頭の死骸

  • 2026.6.11
※ 画像はイメージです/ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

インド洋の深海に、まるで「死者の都市」のような場所が見つかりました。

そこに広がっていたのは、クジラの死骸や化石が約1200kmにわたって連なる巨大なクジラの墓場だったのです。

中国科学アカデミー(CAS)らの国際研究チームは、インド洋南東部のディアマンティナ断裂帯を有人潜水艇で調査し、5つの比較的新しいクジラの死骸と、476個体分の化石化したクジラ遺骸を確認。

中には約530万年前にさかのぼる化石も含まれており、この場所では少なくとも数百万年にわたって、クジラの死骸が海底に蓄積し続けてきた可能性があります。

研究成果は2026年6月10日付で科学誌『Nature』に掲載されました。

目次

  • 深海底に広がっていた「クジラの死者の都市」
  • なぜクジラの骨は500万年以上も残ったのか
  • クジラの死骸がつくる深海のレストラン

深海底に広がっていた「クジラの死者の都市」

クジラが死ぬと、その巨大な体は海に沈み、やがて海底に到達することがあります。

これは「ホエールフォール」と呼ばれます。

太陽光の届かない深海では食べ物が乏しいため、クジラの死骸は多くの生物にとって、突然現れた巨大なごちそうになります。

肉を食べる生物が集まり、骨の中の脂質を利用する細菌が増え、さらにその化学エネルギーを利用する生物たちが集まります。

つまり、クジラの死骸は、暗く冷たい海底に一時的な「生命のオアシス」を作るのです。

今回、研究チームが調査したのは、オーストラリアと南極大陸の間に位置するインド洋南東部のディアマンティナ断裂帯です。

ここは海底に深い断裂や谷が走る場所で、水深は4616〜7001mに達します。

研究チームは有人潜水艇を使い、海底を直接観察。

すると、約1200kmにわたる範囲で、クジラの死骸や化石が次々と見つかったのです。

【実際に見つかったクジラの墓場の一部がこちら

確認されたのは、比較的新しい5つのホエールフォール群集と、476個体分の化石化した鯨類遺骸でした。

これは、これまでに知られていたクジラ遺骸の集積地としては、最大級であり、最深であり、最古級のものです。

ただし、ここで注意したいのは、「約500頭のクジラが一度に死んだ」という意味ではない点です。

むしろ、この場所では長い時間をかけて、クジラの死骸が少しずつ海底にたまり続けたと考えられます。

いわば、数百万年かけて形成されてきた、深海の巨大な墓地なのです。

なぜクジラの骨は500万年以上も残ったのか

深海に沈んだ死骸は、普通なら長くは残りません。

肉は食べられ、骨も骨を食べる生物や化学的な作用によって、しだいに失われていきます。

では、なぜディアマンティナ断裂帯では、530万年前のクジラ化石まで残っていたのでしょうか。

その鍵の1つが、今回多く見つかった「アカボウクジラ類」にあります。

アカボウクジラ類は、外洋に暮らし、深く長く潜ることで知られるクジラの仲間です。

人間が観察しにくい場所で生活しているため、現在でも生態には分かっていない点が多くあります。

今回の化石の多くは、このアカボウクジラ類の頭骨、特に上顎からくちばしのように伸びる吻部(ふんぶ)でした。

【実際に発見された吻部の化石の画像がこちら

この部分は非常に密度が高く、鉱物成分も多い骨です。

そのため、深海に沈んだ後も腐食せずに長く残りやすかったと考えられます。

さらに、骨の表面に鉄マンガン酸化物が付着すると、骨はまるで天然の石棺に包まれたような状態になります。

これにより、骨の分解が抑えられ、数百万年単位で保存された可能性があるのです。

加えて、ディアマンティナ周辺は堆積物がたまりにくい場所でもあります。

通常、海底の古い骨は、泥や砂に埋もれて見えなくなります。

しかし、この場所では堆積速度が非常に遅いため、骨が長い間、海底に露出したまま残りやすかったと考えられます。

つまり、このクジラ墓場は、クジラの骨そのものの丈夫さと、深海の地形・堆積環境が重なって生まれた、きわめて特殊な化石アーカイブだったのです。

クジラの死骸がつくる深海のレストラン

今回の発見で重要なのは、古い化石だけではありません。

チームは、現在も生態系として機能している5つのホエールフォールも確認しました。

そこには、微生物の群集、クモヒトデ、骨を食べるゴカイ、二枚貝類など、多様な生物が集まっていました。

深海には太陽光が届かないため、地上や浅い海のように、植物や藻類が光合成で生態系を支えることはできません。

しかし、クジラの骨に含まれる脂質を細菌が分解すると、硫化水素などの化学物質が生じます。

この化学エネルギーを利用することで、深海の生物たちは、光のない世界でも生命活動を続けることができます。

その意味で、ホエールフォールは「死骸」であると同時に、深海に新しい命を呼び込む場所でもあります。

しかも、今回確認されたホエールフォール群集は、水深6700m級にまで及んでいました。

これは、ホエールフォール生態系が、これまで考えられていたよりもはるかに深い場所でも成立することを示しています。

【クジラの遺骸に集まる深海の生物たちの画像がこちら

では、なぜこの場所にこれほど多くのクジラが集まったのでしょうか。

チームは、いくつかの可能性を挙げています。

1つは、ディアマンティナ断裂帯がアカボウクジラ類にとって重要な深海の採餌場だった可能性です。

この地域ではイカや魚も観察されており、深海で獲物を追うクジラにとって魅力的な場所だったのかもしれません。

しかし、アカボウクジラ類が深く潜りすぎると、極度の疲労や減圧症などのリスクが高まる可能性があります。

もう1つは、地形の影響です。

ディアマンティナ断裂帯はV字型の谷のような構造を持っており、沈んでくるクジラの死骸を特定の場所に集める「受け皿」として働いた可能性があります。

つまり、ここはクジラが死にやすい場所だっただけでなく、死骸が集まりやすく、さらに骨が残りやすい場所だったのです。

今回の発見は、クジラの死骸が単なる終着点ではないことを示しています。

それは深海生物を支える食料源であり、未知の生物を育む生態系であり、さらにクジラの進化を記録する化石アーカイブでもあります。

海底に沈んだクジラたちは、死んだ後もなお、数百万年にわたって深海の生命と科学に恵みを与え続けていたのです。

今回見つかった「クジラの墓場」は、死の集積地であると同時に、深海に広がる巨大な生命の図書館でもあったのかもしれません。

参考文献

Giant Whale Graveyard Found in The Ocean Is Like a Drowned City of The Dead
https://www.sciencealert.com/giant-whale-graveyard-found-in-the-ocean-is-like-a-drowned-city-of-the-dead

Scientists discover 5 million-year-old whale graveyard stretching for hundreds of miles in the Indian Ocean
https://www.livescience.com/animals/whales/scientists-discover-5-million-year-old-whale-graveyard-stretching-for-hundreds-of-miles-in-the-indian-ocean

元論文

A 5.3-million-year-old deep-sea whale necropolis in the Diamantina Zone
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10546-z

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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