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「和食に合うカリフォルニアワイン」の生産者ザンダー・ソーレン、ついにシャルドネで白ワインを造る。【インタビュー】

  • 2026.6.10

今日のワイン選びがちょっと楽しくなる連載「ワインテイスティングダイアリー」。フィガロワインクラブ副部長・カナイが日々、ワインを求めて畑へ、ワイナリーへ、地下倉庫へ、レストランへ、セミナーへ……。美しいワインがどのように育まれるかの物語を、読者の皆さまにお届けします。

今回は日本文化と食を愛してやまないカリフォルニアワインの生産者、ザンダー・ソーレンが来日。ローンチからブルゴーニュスタイルのピノ・ノワールを手がけてきた彼がとうとうシャルドネで造った白ワインをリリース! 貴重なインタビューの機会をいただきました。

「日本をこよなく愛するワイン生産者」ザンダー・ソーレン。

2023年に初来日したザンダー・ソーレンにインタビューした際、iPhoneのボイスメモを起動すると「そのアプリケーションも、私が開発に携わったもののひとつです」と微笑んでいたのが忘れられない

「元アップルの重役」という肩書きを持ち、ブルゴーニュワインの繊細な味わいと、日本文化の奥行きを愛するカリフォルニアのワイン生産者、ザンダー・ソーレン。これまで一貫してピノ・ノワールでのワイン造りを手がけてきた彼が、満を持してシャルドネを使った白ワインをリリースする……。来日したソーレンと差し向かいでテイスティングしながら、その魅力を聴いた。

1970年、アメリカ生まれ。アップルの重役としてデジタル音楽製品の制作に従事、スティーブ・ジョブズのそばで緊密に仕事をした経験を持つ。アップルを退職後、ワインブランド「ザンダー・ソーレン・ワインズ」を設立する。副部長がソーレンに会うのは、これが3度目。

「初めから『日本食に特化したワインが造りたい』という目標を掲げるワイン生産者は、日本人を別として私しかいないんじゃないでしょうか」

そう朗らかに言うソーレンは大学でも日本のアート、デザイン、文化を専攻し、アップルに入社してからも積極的に来日。日本人シェフやソムリエがフランスワインをペアリングしているのを目の当たりにしてきた。寿司職人がブルゴーニュのピノ・ノワールを自身の握った寿司に合わせて提案していた光景に感動し、ソーレンもワイン造りを決意。

「料理のエキスパートであるシェフや職人たちのその決断に、私はとても驚き、感銘を受けたのです」

休暇中の趣味としてワイン醸造を開始したのち、アップルを退職し「ザンダー・ソーレン・ワインズ」を発足してから、常に新商品の発表は世界に先駆け日本で行ってきた。

「ザンダー・ソーレン プライベートセレクション ピノ・ノワール “ユーキ”ウェスト・ソノマ・コースト 2021」750ml ¥17,600 (参考価格)/ 布袋ワインズ ユーキ・ヴィンヤードは以前インタビュー記事を掲載したアキコ・フリーマンが所有するブドウ畑。彼女との友情で唯一、外部の生産者として同畑のブドウを購入し醸造を手がける。

リリース当初から彼のピノ・ノワールを飲んできたが、そこには我々が「カリフォルニアワイン」と聞いて想像するようなパワフルさ、果実味の豊満さとは別の喜びがある。熟したニュアンスを感じるベリーの奥に、古寺の軒の下に濡れた苔のような、風格ある香り。高い酸味があり、口を撫ぜるような細やかなタンニンがあり、長い余韻がある。その余韻に旨味が長く寄り添って——。そして、ブドウの収穫できる地区ごとに、ボトルの個性が確かにある。それはまさしく、ブルゴーニュワインの造り手が村ごと、畑ごとに違う味わいを造り分けるような繊細さだった。「カリフォルニアでこんなワインができるのか」と目を瞠ったのを思い出す。

巡り合いが生んだ、「エル・ハバリ」の畑のシャルドネ。

ソーレンのワイン造りは、いわゆる「ネゴシアン」方式。ワイン用ブドウを栽培をしている農家から果実を購入、あるいは契約農家で自身のブドウを栽培してもらい、収穫したブドウをワインメーカーのシャリニ・シェイカーとともに自分たちのスタイルへと醸造していく。ソーレンがパートナーシップを組む畑はすべてオーガニック認証か、サステイナブル認証を受けた生産者に決めている。

ワインメーカーのシャリニ・シェイカー。ウィリアムズ・セリエム、スタッグス・リープ、ロア ワインズとカリフォルニアを代表するワイナリーで研鑽を積む。ソーレンのワインを手がけ始めたのは2013年から。2015年、サンフランシスコ国際ワインコンクール「Best Winemaker」受賞。

「ワイン造りのパートナーとして、シャリニとともに目指すワインの方向性を探していきます。彼女はもともと音楽理論の教授で、フルート奏者という経歴の持ち主。アップルで音響デバイスやシステムを開発していた私とも、どこか考え方が似ているんだと思います」

ピノ・ノワールの醸造から始めたソーレンだったが、ブルゴーニュで造られるもうひとつの至宝、シャルドネによる白ワインを自分でも手がけたい、という思いを持ち続けていた。

「ピノ・ノワールを持ってさまざまな人に会う度に、『シャルドネは造らないのですか?』と聞かれました。たしか以前の来日の際、あなたにも聞かれた気がします(笑)。もちろんその想いは強かったのですが、ふさわしい畑に巡り合うまで我慢しよう、とも思っていたのです。私は日本食の中でも寿司が非常に好きなのですが、職人の技術はもちろん、素晴らしい海産物を選ばなくては寿司店は一流になれない。同じように、いいワインを造るために最も大切なのはブドウ畑である、と考えているんです」

サンタ・バーバラの中でもサンタ・リタ・ヒルズと呼ばれる区画にある「エル・ハバリ」の畑。斜面に面し、涼しい海風が吹き抜ける。

畑を探し続け、ついに見つけたのが海岸にも程近いサンタ・リタ・ヒルズにある標高300m、「エル・ハバリ」と呼ばれていた区画だった。ソーレンからのオファーではなく、向こうから声がかかったのだという。

「カリフォルニアの銘醸地セントラルコーストの開拓者であるリチャード・サンフォードが1983年に植樹した、歴史ある畑でした。現在エル・ハバリを所有・管理しているワイナリーで醸造家をしている私たちの友人からシャリニに、『うちのシャルドネを使いませんか?』とオファーがあったんです。サンタ・リタ・ヒルズはこれまでもピノ・ノワールでワイン造りをしてきたお気に入りの場所でしたし、早速この畑で造られているワインをテイスティングし『間違い無くこの畑だ』と確信しました」

「葉張り」という名前に込めた想い。

エル・ハバリの畑は粘土、砂、シルト(砂と粘土の中間の粒の大きさを持つ堆積物)がバランスよく組み合わさったローム土壌。日照はしっかりしているが、最も近い沿岸部から約18kmの距離で丘を吹き上げるように海風が抜け、昼と夜の寒暖差を生み、ブドウにはしっかりとした酸味が宿る。この地でソーレンが今回リリースしたのは2種類のシャルドネだ。

「調べてみると、エル・ハバリには2種類のシャルドネのクローンが植えられていることがわかりました。『ウェンテクローン』と呼ばれる、禁酒法時代のカリフォルニアを生き延びたブドウ樹に端を発するアメリカ系シャルドネ、そして『ディジョン76』と呼ばれる70年代から80年代にかけ、ブルゴーニュのディジョン大学で選抜された高品質なシャルドネのクローンでした」

ウェンテクローンはトロピカルなフレーバーが特徴的で、樽との相性もいい、ブルゴーニュで言えばムルソーのような厚みのある味わいのニュアンスがある。「ザンダー シャルドネ サンタ・バーバラ・カウンティ」には、ウェンテクローンを全体の3分の2ほど、そしてディジョン76クローンを3分の1ほど使用し、熟成には新樽を30%使用。ワインの中の溌剌としたリンゴ酸をまろやかな乳酸に変化させるマロラクティック発酵を、ベースワインの50%で行っている。

香りを嗅げば、熟れた黄桃や若々しいパイナップルなど、甘みと酸味の入り混じった果実がほのかに香る。グラスを振ればその香りは増幅し、奥からユリの花のような香りも立ち上った。口に含むと、クリーミーな感覚があり、口の中をしっかりした柑橘系の酸味が包み込む。ふくよかさはあるが、それがぽってりとしていたり、余剰に感じられる分はどこにもない。豊潤さが通り抜けていき、ミネラル感が余韻を支える。私が「合わせるとしたら焼き鳥、それも結構脂がしっかりしているぼんじりに、カボスとかで作ったちょっと苦味もある柚子胡椒を添えたらおいしいと思う」と伝えると、ソーレンは「まさしく焼き鳥ですよね。調味料を買って帰るのも大好きなんですよ、柚子胡椒か……探してみます」と微笑む。

「ザンダー・ソーレン シャルドネ ハバリ サンタ・リタ・ヒルズ 2024」750ml ¥17,600(参考価格)/布袋ワインズ ちなみにソーレンのワインは単一畑のものは和紙のような白いラベルを使用。さまざまな畑から収穫したブドウを使用するボトルには桜、苔、銀杏、紅葉など、それぞれのワインのイメージと日本の四季を重ね合わせたカラーを使用している。

もうひとつのシャルドネは畑の名前を付けられた「ハバリ」と呼ばれるワイン。この名前にも、不思議な偶然があった。

「もともとスペイン系の名前がついた土地で『エル・ハバリ』と呼ばれていたのですが、その響きがどうにも日本語に聞こえて調べてみたのです。すると、盆栽の世界には『葉張り』という、日光と風通しを良くするために水平に伸びた枝を丁寧に剪定する、という技術があると知りました。それはまさに、ワイン用のブドウの枝を横に美しく剪定していく姿と重なったのです」

ザンダー・ソーレン シャルドネ ハバリ サンタ・リタ・ヒルズ 2024には、エル・ハバリの畑で収穫されたディジョンクローン76を100%使用。特徴的な酸味と畑の特徴的なミネラル感を生かすためマロラクティック発酵はせず、新樽の使用も10%に抑えてワインの香りを前面に持ってくる構成に。「カリフォルニアでシャブリを造ってみたら、という発想です」とソーレン。

グラスに鼻を近づける。柑橘系の香りにほのかな白い花があるが、香りの時点で硬質な、ミネラル感を思わせるのがすごい。口に含めば、かなり直線的な酸味とミネラル感に、思わず微笑んでしまうほど感動した。どこかほんのりと塩味が漂い、口の中には引き締めるような酸味がありながら、穏やかな柑橘の果実味。余韻までしっかりと酸味、ミネラル感、それが途切れずに心地よく続く。

やはり取れる本数は少なく、2024年ヴィンテージは500本ほどの限定でのリリースとなるそう。「生牡蠣や二枚貝、白カビ系のチーズなんかも合うはずです」とソーレン。個人的に試してみたいのは鯛の塩釜焼きや、ブリカマの塩焼きだ。スダチやカボスを絞らず、このハバリのグラスを左手に、一心不乱に箸を進めたい——。そんな妄想があっても、きっといいではないか。

新しくリリースした白ワインとこれまで造ってきた赤ワインに対して、ソーレンはこう語る。

「私が理想とするピノ・ノワールは、樽による影響を最大に利用したいので17ヶ月熟成しますし、瓶の中でも熟成を重ね、リリースまで5年は寝かせます。しかしシャルドネはフレッシュさを大事に考えるワインなので、より早くリリースできる。時間の感覚が少し異なりますが、どちらも冷涼な土地でしか生まれないエレガントさを大切にしています」

自宅でザンダー・ソーレンの赤ワインを開けて、静かな時を過ごした話。

その日、ソーレンが試飲させてくれたロゼ、「ユーキヴィンヤード」の赤、そしてトップキュヴェとなる「ルデオン」はそれぞれに素晴らしい魅力に満ちていた。場所によって、そして同じヴィンテージの「ユーキ」を飲んでも、フリーマンとソーレンではかなりアプローチが違うことにも驚き、ついつい質問を重ねてしまった。

そんな私に、ソーレンは帰りしなに1本のボトルを私にくれた。

「評論チャンネルの『SommTV』で世界一のワインとして評され、『Decanter』誌で96点が付き、日米ともに完売してしまいました。最後のケースを買ってくれたのがグランドハイアット東京です。ぜひ、このワインを飲んで感想を聞かせて欲しいです」

「できれば寿司屋に持って行って飲んでください」、と手渡されたのが、緑色のラベルを貼った「ザンダー ピノ・ノワール ソノマ・コースト 2022」のボトルだった。自宅に持ち帰り、その場で開けたいのを必死に堪え、静かにワインセラーに置いた。

「ザンダー ピノ・ノワール ソノマ・コースト 2022」750ml ¥9,900(参考価格)/布袋ワインズ

ところが先日、懇意にしているワイン愛好家の友人と自宅でペアリングの実験をしている時のことだった。とある赤ワインに和牛が合うのでは、という試みをしていたのだが、まだそのワインが若く、黒毛和牛のイチボのステーキの甘い脂身や風味と、溌剌とした果実味がどうも合わない。

その時、不意にザンダーのソノマが家にあることを思い出し、気付けば私はソムリエナイフで静かにボトルを抜栓していた。

リーデルのグラスに注いだ瞬間、友人とともに「おっ」と声が出てしまった。液色は明るみを帯びながらも濃いガーネット。縁を見ると、かなり淡い。香りを嗅いだ瞬間、猛烈な郷愁のようなものが立ち上ってきた。イチゴ、梅、フランボワーズ、紅茶、土、そして枯葉——。思い込みではない、なぜだか愛する余市のテロワールの特徴にそっくりな雰囲気がそこにあった。恐る恐る口を付ける。

引き締まった酸味に、赤い果実が寄り添う。爽やかなダージリンのような香りに、ほろりと苦味や旨みが乗る。ちょっとした塩味、そして最後に佇むニュアンスはやはり腐葉土や枯れ葉のような、少し寂しさもある風情——。

和牛に少し本わさびを乗せ、口に含む。噛み締めるまでもなく、レア目に仕上げた肉が歯に沿って切れ、甘い脂が口を潤す。そこに赤ワインを流し込んだ。微細なタンニンが口の中の脂を優しく拭い、酸によって和牛の甘さがふわりと匂いたつ。ワインの余韻と肉の旨味が抱き合って喉の奥に消えた時、思わず目を閉じて、上を見つめてしまった。

大トロ、ハマチ、カツオ……。合わせてみたいペアリングは確かにあった。ただ、このペアリングが、テーブルの上の美しい時間を創り出していた。

「いいですね」と友人が言う。「いや、まったく、本当に」と、自分が言う。土曜日の夕暮れ時、ふたりのワイン好きはそれ以上の多くの言葉を語らず、ただただ肉を平らげ、ボトルのワインを飲み続けた。

ワインは人をおしゃべりにさせる、と人は言う。ただその日、その瞬間だけ、あまりのうまさに言葉を失ってしまった。

こういう瞬間があるから、ワインを追いかけるのがやめられない。

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