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レティシア王妃に学ぶ、圧倒的な知性。服飾史家 中野香織さんが解き明かす“ロイヤルの肖像”【vol.2】

  • 2026.5.21
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レティシア王妃は、いま世界のロイヤルシーンで最も「語られる」存在のひとりです。華やかな場面での説得力ある立ち居振る舞いと、社会に向けた視線の確かさ。その両方を兼ね備える王妃像は、スペイン王室の歴史に新しい章を開きました。

揺るがない軸を持つ行動するロイヤル

王妃は、かつて国営放送TVEやCNNでニュースキャスターを務めていました。9・11同時多発テロやイラク戦争に現場で向き合い、社会問題を冷静に伝えてきた実績から、30歳以下の優秀なジャーナリストに贈られるラーラ賞を受賞。徹底したプロ意識と自立したキャリアを積み上げ、王室に入った初の「平民」出身の王妃として、スペイン社会に新しい風をもたらしました。

フェリペ国王との出会いも仕事の延長上にありました。2002年、ガリシア沖でのタンカー事故を取材していた際、現地入りしていたレティシアに、当時皇太子だったフェリペが強い関心を寄せます。後日、友人を介した食事会で再会しますが、その際にレティシアが「殿下、明日も私は記者として質問をします」という言葉を発します。職業倫理を守り抜く姿勢に皇太子はいっそう惹かれ、結婚をめぐる強い反対の声を受けながらも意志を貫きました。

王妃となった後も、レティシアは自身の軸を一貫して保っています。若者のメンタルヘルス、教育格差など、社会課題に寄り添う活動を積み重ねてきました。スペイン科学教育基金会の名誉総裁としてSTEM分野の女性を後押しする取り組みもその一つ。ジャーナリストとしての「社会に向き合う姿勢」がロイヤルとしての「公的な責任」と自然につながり、行動するロイヤルという新しいモデルを体現しています。

スペイン発の美意識を装いで世界へ

スタイルにおいても、王妃は芯が通っています。端正で構築的なドレスやセットアップを軸に、スペインの新鋭ブランドを積極的に選んでいます。国内産業への支援であり、スペインの創造性を世界へ発信する実践でもあります。

一方、ZARAやMANGOといったファストファッションも場面に応じて迷いなく取り入れます。ハイブランドと組み合わせることで、全ての女性に開かれたスタイルを提示し、国際的にも現代的なロイヤル・スタイルの一つの典型となっています。

さらに、「ここぞ」の場面では、王家の歴史と現代性を鮮やかに融合させる装いを披露します。2025年11月、オマーン国王夫妻を迎えた国賓晩さん会では、スペインブランド「THE 2ND SKIN CO」によるコバルトブルーのドレスに、王家ゆかりのカルティエ〈ロシアン・ティアラ〉を組み合わせ、一夜にして世界中の注目を集めました。モードと伝統、双方の魅力を最大限に引き出すセンスは、王妃のスタイルの本質といえるでしょう。

近年は、娘であるレオノール皇太子とソフィア王女の歩みにも注目が集まっています。レオノール皇太子は軍事学校に入学し、未来の君主としての歩みを本格化。ソフィア王女とともに、自分の言葉で語るロイヤルへと育まれています。「血統よりも社会への奉仕によって尊敬は生まれる」という王妃の信念が、次代の王女たちに着実に継承されていることがわかります。

ジャーナリストから王妃へ。この転身は物語的でありながら、実態はきわめて現代的な挑戦でもありました。レティシア王妃は、職業で培った観察力と批判精神を手放さず、王室という制度に新しい意味を与え続けているのです。揺らぎの多い時代にあって、彼女が示すのは、知性と誠実さを軸にしたロイヤル像。その一貫した姿勢が、スペイン王室に新しい信頼をもたらし、現代にふさわしいロイヤルの在り方を世界へ発信し続けています。

知性と行動で時代を拓く、新世代ロイヤルの肖像

ニュースキャスター時代。冷静な判断力と社会課題への鋭い視線は、後の王妃としての姿勢につながります。 Dusko Despotovic/Getty Images
フェリペ皇太子との成婚を祝した公式写真。プロとしての矜持を貫いたキャリアから一転、王室へと歩みを進めた瞬間。 Reuters/AFLO
ZARAのトップスをまとった2020年の姿。自在な組み合わせに、王妃の開かれた美意識が表れて。 REX/AFLO
’25年8月、マヨルカ島でのジョアン・ミロ展にて。(左から)フェリペ6世国王、レオノール皇太子、レティシア王妃、ソフィア王女。家族の自然体の魅力が伝わります。 Carlos Alvarez / Getty Images
オマーン国王夫妻を迎えた国賓晩さん会。スペインブランドのドレスに王家ゆかりのティアラを合わせ、伝統と現代感覚を融合。 Carlos Alvarez/Getty Images

【Hot Topic】

着実に育ちつつある新たなリーダー像

Paolo Blocco/Getty Images

2025年10月、レオノール皇太子がマドリードで行われた国民の日・軍事パレードに出席。軍事アカデミーでの本格的な訓練を経て、国家への奉仕という王室の要の役割において存在感を示しています。公務での落ち着いた態度と明晰な発信力で、すでに国民から厚い信頼を集めているように、レティシア王妃が大切にしてきた「知性と社会への責任」を自然に受け継いでいる皇太子。自身の言葉で現代のロイヤル像を形づくり始めている姿が印象的です。

服飾史家 中野香織さん
PROFILE ラグジュアリー領域を中心に著述・講演・教育・企業アドバイザリーに携わる。青山学院大学客員教授。英ケンブリッジ大学客員研究員、明治大学特任教授などを歴任。最新刊は100名のイノベーターからファッション史を読み解く『「イノベーター」で読むアパレル全史 増補改訂版』(日本実業出版社)。YouTubeでのスーツ解説も好評。




Text : KAORI NAKANO
25ans(ヴァンサンカン)2月号掲載(2025年12月26日発売)

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