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映画『名無し』丸山隆平「嫉妬する」俳優業への熱意とプライド、そして愛を語る【ロングインタビュー】

  • 2026.5.21

丸山隆平の俳優としての進化が、近年目覚ましい。コンスタントな舞台への出演のほか、2025年に公開された映画『金子差入店』では、刑務所や拘置所への差し入れを代行する差入屋の店主であり、複雑な事情を抱えた役どころを巧みに乗りこなし、俳優としての器の大きさを感じさせた。

そして、5月22日(金)公開の映画『名無し』への出演となる。本作は、佐藤二朗が漫画原作を手掛けたことに端を発し、脚本・主演も務める渾身の1作。佐藤演じる無差別殺人事件を引き起こす未曾有の怪物・名無し(山田太郎)は、人の目には見えない狂気の力を持っている。丸山は、山田の少年時代に彼を路上で保護し、施設に紹介して名付け親となった警官の照夫を実感をもって演じた。

丸山いわく「昭和のおやじ」を彷彿とさせる温かみを醸し出す照夫こそ、山田にとっての光であり同時に影を色濃くした人物ともなったキーパーソンである。ロングインタビューでは、丁寧に臨んだ照夫の役作りや演じ方について、そして丸山自身が「実は大好きなんです!」とする映画ジャンル、シネフィルな一面を全開にほがらかに語ってもらった。

『名無し』は、観るものの心に容赦なく迫りくる作品です。丸山さんは、完成作をご覧になりどのような気持ちになりましたか?

試写を拝見した後、城定(秀夫)監督がいらっしゃって「どうでした?」と聞かれたんです。観る人によっては、暴力シーンがすごく生々しくて鮮明なので、サイコホラーやスプラッター映画だなと思われるかもしれないけど、僕の直後の感想は「………」でした。何でかって、自分は何に共感して、自分の中で何がフィットしないかを、すぐには咀嚼しきれない作品だったので。その後味を言葉にするのに、すごく時間がかかる作品だなと思いました。確実に言えることは、映画にする意味のある作品だったということ。いろいろと思いを巡らせたり、考えたり、考察されたい方にも、どう自分の感情が動いたかは提示できる作品だなと思いました。もちろんエンタメとしても、こういったジャンルが好きな僕みたいな人がたくさんいると思うので、そういう人らも納得して満足できる作品だと思います。

丸山さんは、本作において身寄りも名前もなかった少年期の“名無し”(山田太郎)の名付け親となる巡査・照夫役です。どのように準備して臨みましたか?

照夫を演じることに関しては、衣装合わせのときに城定監督が「照夫にはとてもいいセリフがたくさんあるけれど、きれいごとで終わらせないでほしい。巡査という職業だけど、絶対的な正しい心を持って生きているツルツルキレイな人間ではなく、本当に一般的に公務員として働いている一人の人間として演じてほしい」というようなことを言われたんです。例えば、「空はつながっている、人は一人じゃない」というセリフがあって、いくらでも美しく言えるんですけど、そうじゃないように意識はしました。なかなか難しかったんですけど…(笑)。たたずまいも、昭和のおやじっぽさが滲み出ればなあ、と。

実在する人物の実感を持って映っていました。演じるにあたって意識した点はあったんですか?

映画は総合芸術なので、僕一人の技術ではどうにもできないのが空気や空間、衣装やレンズなどの色合い、ロケーションです。それらすべてに助けていただいた気がします。劇中、遊園地と動物園がくっついたようなところが出てきたじゃないですか。少しさびれたというか、風合いを残したまんまんのところ。あの雰囲気がすっごくよかったんですよね。ちょっと古めかしいようなロケーションにも、かなり助けていただいた気がします。すべてのものの相互作用で見せてくれている部分はあると思うので、僕は発注されたネジを、どれぐらいの感じで作って「これでいいすかね」と毎カット、毎カットアプローチしていただけなんです。なかなか自分だけの手柄には持っていきづらいけど(笑)、貪欲には頑張りました。

原作・脚本・主演を兼ねたのが佐藤二朗さんということも大きなポイントかと思います。映画について、佐藤さんと何かお話はしましたか?

それが、ないんですよ。1~2年前くらいに、共通の知り合いの大先輩の方から「いやー、マルと二朗さんを会わせたいんだよね」という話をされていたんですけど、なかなかお会いすることができず、共演することもかなわず。そのまま今回の撮影になり、(撮影前の)お祓いのときに初めてご一緒しました。けど、お互いに次の仕事があったので、車に乗り込むまでの間に少しだけお話しさせてもらった程度でした。「お誘いいただいてありがとうございます」、「出てくれてうれしいよ」みたいな、ほんま2~3ラリーぐらいだったんです。僕と二朗さんは、なかなか会いたくて会えない、織姫と彦星なのか、みたいな感じですね(笑)。

『名無し』のような話を佐藤さんが生み出したことについては、いかがでしょうか?

二朗さんは俳優だけでなく、ほかにも中に入って手掛けられている作品がありますし、拝見していたんです。僕の好きなラインの思考回路やマインドというか、そういう人なんだろうなぁと、勝手にちょっと期待しちゃっている部分がありました。だからこそ役者として面白い方やと思っていますし、どういう部分からこういう作品が抽出されたのかという謎については、すっごく興味があります。だから今回、いろいろな方が二朗さんにインタビューをされるでしょう?それらをめっちゃ読みたい(笑)。

なるほど!劇中で、特に目を引く佐藤さんのお芝居はありましたか?

あります、あります。作品全体を通してすごく素敵なんですけど、特別に好きなところが1カ所あるんです。でもねぇ……言わない(笑)! だって、それを目指して観ちゃう人がいるから。その場面は、もう「圧倒的にここ」というところで、試写が終わった後マネージャーさんと「あそこやばかったよね!?あそこ、すっごいね」と話しましたから。きっと役者をやっていなくても、なんか引き込まれると思う好きなシーンでした。「ああああ!」ってところがあるので、ぜひ観てください。ちなみに、山田花子役のMEGUMIさんの演技もやばかった……。もちろん捜査本部の国枝を演じられた佐々木蔵之介さんもすごく素敵で、言い出したらキリがないんですけど。

丸山さんの情報解禁時コメントでは、「ただ残忍なだけではなく、深く共感せざるを得ない、人間としての欠陥を象徴するかのような特殊性」とされていました。具体的には、登場人物のどのような部分に共感したんでしょうか?

うーん。一般的にいくと、僕が演じた照夫が一番共感しやすいかな。でも太郎みたいな子がいたら、どう保護するんだろう、どうしていいんだろう、みたいな。言っても僕は厳しい境遇で生まれたわけでもないので、育ちもどちらかと言うと恵まれて、愛されて、名前もちゃんと由来があるので。なので、共感という意味ではなかなか……パンチの利いた人物しかいないですからね(苦笑)。

太郎の特殊性が非常に突出していますけれど、そこへの理解ができることはありますか?

うーん……理解したくないんですけどね。でも、ないと言ったら嘘になるのかな。きっと社会で生きるために抑えているとか、出していない部分は皆さんと同じであると思うんです。たかだか42年間の間でも、いろいろな不条理に対しての、うつうつとした暴発しそうな怒りとかは……生き地獄だなと思うことはあります。自分らの個人の力ではどうにもならない世界的な情勢、戦争や、それらの余波を受けて日本という島国で、誰のせいにもできない、自分の手ではどうにもできないことに対しての、時折わき上がってくる怒りみたいなものは皆さんと同じであります。それでも生活しなければいけないので、それをずっと考え続けることはできなくて。だから、今身近にいる周りの人のために働くとか、自分のために働くことでバランスを取っていると思うんです。

今はいろいろなことに対して気を遣わなければいけないし、ルールも制限も多いじゃないですか。だから、『名無し』のような作品を通して、皆さんが感じている憤りとかを、ある種エンタメで発散するという、代理人みたいなことが作品になっている気もしています。かといって、模倣犯を生むためにやってるわけでは決してないですが。

本作には人に言えない悩み、葛藤を抱えている人物が出てきます。丸山さん自身は、普段悩み相談をもちかけられたりすると、どのように接しますか?

悩みについては、相談する人はある程度「こうしようかな」と答えが決まっているのかなと思うんです。だから、「聞く」が一番じゃないですか。ライターさんなんてそうだと思うんだけど、聞き上手の人っているじゃないですか。気づかんうちに引き出されてるから、そうであれたらいいなと思うけど、僕は逆で(笑)。僕は喋るのが好きなのか、相談して答えを求められたら応えたい気持ちが強いのか、むっちゃ喋っちゃってるときがあって。途中で「あっ、やばいやばい!置いてってるわ」みたいな。そのおせっかいさをもうちょっと間引けたら、聞き上手になれて、悩んでいる方に寄り添えるんじゃないかなと思います。

丸山さんに相談すると、聞いてもらえるよりも、丸山さんの話を聞けるというか。それもとてもうれしいヒントになりますよね。

自分では……寄り添ってるつもりでいるんだけどね(笑)。でも自分の話がおもろかったらええんやけど、自分で話していて「あれ、おもろいかな?」と思うときがあって、ミスってるときがあるやろうなと思っているんですよ。まだ自分で必死で精一杯だから、悩みを聞けたりするほどの度量は持ち合わせていない気がする。でも頼ってくれることに関してはうれしいから、付き合うつもりでいるんですよね。

結局なんか大体の抜け感としては、ごはんを食べたり飲んだりしながら聞くじゃないですか。最終、「何の話やったっけ!?」とヘラヘラして、悩み相談していたほうも馬鹿らしくなって笑ってる、みたいな(笑)。

逆に、丸山さんが相談することもあるんですか?

僕がする場合は……あ~でも、悩み相談については、何とか自分でしようとしてしまう癖があるかもしれないです。だから相談することは少ないかもしれないし、するより聞くほうがやっぱり好きかな。「どうしてるんですか?」と聞かれたりしたら、全部知っていること言っちゃいますから。

例えばSUPER EIGHTのメンバーや、周りの方に察せられて声をかけられるみたいなことは過去にありましたか?

昔はありました。20歳になってすぐくらい、デビューする前は、村上(信五)くんが声をかけてくれて、気づかされたこともありました。そのときは「大丈夫か?」と単純に心配してくれて、僕はヘラヘラして「全然大丈夫やで」と言ったんですけど、「いや、ほんまに聞いてるんやけど」と真顔で心配してくれて。意外と自分で気づいていないことのほうが多いんだなと、そんな風に言ってくれる人いなかったなと思ったことは過去にありました。

サイコバイオレンス作品への出演の印象があまりない丸山さんですが、このような系統の作品は普段より楽しみますか?

大好き! もう、大好きなんですよ! 割と知られてないですよね(笑)? 好きな作品をあげると、ずっと1位が変わっていなくて、ミヒャエル・ハネケの『ファニーゲーム』です。僕の中でずっとトップ、不動の1位なんです。年上の演劇の友達に言ったら、「シャレぶってんじゃねえよ、この野郎」と言われたけど(笑)。単純に好きなんですよね~。

割と見返したりもしますか?

何回も観ていますし、人にもめっちゃ勧める(笑)。いわゆる胸クソ系と言われているのが好きなのかなと思って。あとは『ミスト』も、ラストがすごーく好きです。結果あのラストにしたから、予算を出してくれる人がいなくなったという噂を耳にして、「厳しい世界だなあ」と思ったのも覚えています。邦画だと『冷たい熱帯魚』も好きですねぇ。「豚肉を使うのね」とか思いましたし(笑)、よくできていますよねえ。

例えば『名無し』で言えば佐藤さんが、やる側ポジションにいらっしゃいますけど、丸山さんもそのような役をオファーされて脚本が好きな場合、出ることに興味はありますか?

はい、ゴリゴリ興味があります! 今回もすごくホンが素敵じゃないですか。例えば『ドラキュラ』、『シザーハンズ』のような作品はモンスター的でも、ちょっとどこかもの寂しげな、悲しげな気配があるキャラクターで、どちらも美しいですよね。けれど、今回はそこまで美しくなく、もっと泥臭い、もっと本質的な人間の中にある恐怖を感じると思うんです。今までの作品とはまた少し違う、オリジナリティのある発明を二朗さんがされたんだなと思いました。いろいろな予感させるものが散りばまっているので、それがすごい発明だなと思っています。

そして、FILMAGAは映画好きが集まるメディアです。作品名をいくつか挙げていただいていますが、丸山さんが最近観て印象的だった作品は何ですか?

最近ですよね。勧めてもらって観て「うわあ!」と思ったのは『罪人たち』です。文化・人種にうまくホラー要素を乗っけて、音楽も国独特の白人音楽と黒人音楽があり、知識が浅くても刺さる作品で、エンタメとしても衝撃的でした。どこかで見たことある設定感が、ここではまた見やすさにつながっているだろうなあと思って。でも見たことないと思わせる表現とかには「いやんっ♡」てなりましたね!

邦画だと、やっぱり『爆弾』はちょっと観終わった後……複雑な感じになってしまいましたね。「めっちゃ面白かった!!」と、言えなくなっていました。それぐらい、役者としては嫉妬する作品で。「なんで俺、ここにいないんだろう」と思いました。作品では本質的なところとエンタメ的なものがちゃんと握手していて、偏りすぎていないバランスに唸りました。監督の腕、役者さんの引き付け、撮影部、照明部など全部の技術が結集した作品やと思うんです。「ああ、映画っていいな」、「いつかこういう映画に参加したいな」と思いましたし、そういう作品はやっぱり映画館で観なきゃなとも思いました。

『爆弾』のキャスト勢しかり、先ほどもMEGUMIさんや佐々木さんの演技を手放しで褒めていらっしゃいましたが、作品を観るときにはかなり情報量が多くなる頭でご覧になるんでしょうか?

お芝居も本当に好みだと思うんです。「こういう気配が出せる役者さんが好き」とか、ただそれだけなので。例えば…、好きな食べ物があったとして、いろいろなお店で食べ比べするじゃないですか。平均はみんな絶対取ってんのよ。ただ「ここの店の味なんなんやろ!?」と、自分の好きな食べ物でもトップオブトップがある。そんなときに意識するという感じかな。だからずっとくまなく「この人の芝居どうだろう、ああだろう」と観ているわけではないんです。名店のそこでしか出てこない味みたいなものを感じたときに、「ああ、MEGUMIさんってこういう芝居するんか」とか思うんです。この役がフィットしているとか、いわゆる“当たり役”と周りに言われたりすることもあるじゃないですか。本人としてはその作品の一部としてまっすぐされていることだけかもしれないけど、そうやってフィットしたときに、すごくドキッとするんですよね。

取材・文:赤山恭子
ヘアメイク:NOBU(HAPP’S.)
スタイリスト:袴田能生(juice)

映画『名無し』は、2026年5月22日(金)全国ロードショー

原作・脚本:佐藤二朗
出演:佐藤二朗 / 丸山隆平 MEGUMI / 佐々木蔵之介
監督・共同脚本:城定秀夫
公式HP:https://774movie.jp
配給:キノフィルムズ

(c)佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ (c)2026 映画「名無し」製作委員会

※2026年5月18日時点の情報です。

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