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ヘラルボニーのビジュアルを担う中塚美佑、「わかったふりをしない」誠実な仕事観

  • 2026.5.22
Courtesy of MIU NAKATSUKA

ヘラルボニーでビジュアルディレクターを務める中塚美佑は、「No」を言う責任や、発信の際に「わかったふりをしない」姿勢を軸に、自身の仕事と向き合い続けている。ブランドの創成期から関わってきた彼女に、その選択の積み重ねがどのようにキャリアと人生をかたちづくってきたのか、話を聞いた。


Risako Sueyoshi

中塚美佑
1997年、神奈川県横浜市生まれ。大学で福祉を学んだ後、アパレルブランドでの販売・SNS運用を経て、2020年ヘラルボニーに入社。現在は同ブランドでビジュアルディレクターを務める。

──ヘラルボニーに入社して6年目が経ったとのこと。組織の変化をどのように感じていますか?

入ったころは社員が9人ほどで、部活動のような感覚でした。規模が大きくなるにつれ、この忙しさも落ち着くのかなと思っていたんですが、社員数が90人を超えた今も、いい意味でその活気や忙しさは変わらないです。むしろ、社会からの注目や期待が増えた分、さらに濃度が上がっている感覚があります。

現場での着せつけ一つひとつに、アパレル経験で培った美意識を込めて。ディレクターとして、最終的なアウトプットの細部までこだわり抜く。 Courtesy of MIU NAKATSUKA

──ご自身の役割も大きく変化したのではないでしょうか。

そうですね。最初は販売やPRから始まり、今はビジュアルディレクターとして最終的なアウトプットの判断を担っています。その中で一番大きかったのは、「No」を言う責任を引き受けるようになったこと。それはやっぱり簡単ではなくて。自分がYesと言えば、相手が喜ぶかもしれませんが、それではクオリティは担保できないし、より良いものも生まれない。

Noということは、その期待を断つことになる場面もあります。だからこそ、理由を持って説明して、理解してもらうプロセスを大事にしています。ある意味、少し嫌われ役に近い部分もあると思うんですが、それも含めて必要な役割なんじゃないかと。

大きな責任を担うようになり、仕事への向き合い方もよりストイックに。ブランドの意志を形にするため、あえて嫌われ役を引き受ける覚悟が、今の彼女を支えている。 Courtesy of MIU NAKATSUKA

──これまで数多くのプロジェクトに関わってきた中で、特に印象に残っていることはありますか?

障害者週間に合わせて実施した「抱えてきたことを、ここに置く。」という企画は、直近のもので特に心に残っています。当事者の方や、その家族、あるいは長年言葉にできなかった思いを抱えていた方が、自分の言葉を置いていく場所。SNSとはまた違う、もっと静かな吐き出し方で。これは自分自身あまり意気込まずに、自然と構想が浮かびました。

サイト上に自分の言葉を投稿できる、すごくシンプルな仕組みだったんですが、300件以上の声が集まりました。正直に言うと、売上という指標では測れないプロジェクトです。でも、ヘラルボニーがどういう存在なのかを伝えることはできたと思っています。短期的な成果ではなく、長期的な認知や意味につながったと感じています。

──ヘラルボニーでの仕事を通して、多くの声に触れる中で、社会との向き合い方に変化はありましたか?

大きく変わった、という感覚はあまりなくて。どちらかというと、自分がこれまで感じてきたことが「間違っていなかったのかもしれない」と、確認されていくような感覚に近いです。もともと、周囲を少し引いた距離から見てしまうところがあって、それを自分だけの感覚なんじゃないかと不安に思うこともあったんですが、この会社に入ってからは、同じような違和感や視点を持っている人が確かに存在していると感じる場面が増えました。

だからといって「わかる」と簡単に言い切ってしまうことには慎重でいたいと思っています。特に、当事者性が伴う領域では、想像できることと、実際に経験していることのあいだには、どうしても越えられない距離がある。だからこそ、過剰に共感を装ったり、「代弁している」ような発信になっていないかは、常に自分の中で問い直すようにしています。「わかったふりをしない」ということは、すべてのプロジェクトに通底する姿勢かもしれません。

ただ、その一方で、生の声に触れていると、現実がほとんど変わっていないことに気づかされる瞬間もありますし、「まだやれることがある」と思わされることもあります。やりたいことが増えていくのと同時に、いま自分たちが担っている役割もある。そのあいだで、何を選び、どこに力を注ぐのかを考え続けています。

──今後、実現したいことはありますか?

すごく個人的なところでいうと、「ヘラルボニーマンション」のような場所をつくりたいと思っています。障害のある人もない人も、特別なイベントではなく、日常の中で自然に関わり合える場所。

施設担当として訪れる「アトリエブラヴォ」にて。福祉を“特別なこと”ではなく、誰もが自然に笑い合える日常に変えていきたいという想いの原点だ。 Courtesy of MIU NAKATSUKA

自閉症のある兄もそうなのですが、成人してから同世代と交流する機会が本当に少ないんです。職場と家の往復だけになってしまう。でも、たまにヘラルボニーに来て社員と話しているときの表情を見ると、「こういう場所がもっと必要だ」と強く感じるんです。今はまだ特別な機会としてしか存在していないものを、日常にしていく。そのための仕組みやコミュニティをつくれたらいいなと思っています。

中塚さんが「大好きな作家」と語る、川邊紘子さんとの2ショット。手にしているのは、川邊さんが描いた中塚さんの似顔絵。 Courtesy of MIU NAKATSUKA
「ヘラルボニー銀座店」で、作家と笑顔を交わす中塚さんのお兄さま(左)。同世代との交流機会が限られるなか、自然なコミュニケーションが生まれた印象的な瞬間。 Courtesy of MIU NAKATSUKA

──仕事とプライベートのバランスはどのように取っていますか?

正直に言うと、明確には分けていません。仕事と人生の境界をきっちり引くよりも、グラデーションのように行き来する方が自分には合っていると感じていて。家族と過ごしている時間に仕事のことを考えることもありますし、それが苦しいわけでもない。むしろ、自分の人間性を深める時間にもなっている感覚があります。

楽しいかと聞かれると、一言では言い切れないんですが、葛藤も含めておもしろい。そういう状態で仕事ができているのは、すごく恵まれていると思います。

中塚さんの実家の畑で過ごす、保護犬の愛犬・サランちゃん。無邪気な表情から、穏やかで何気ない日常の幸せが伝わってくる。 Courtesy of MIU NAKATSUKA
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慌ただしい撮影の合間、買い出しの途中でふと目に留まった風景。中塚さんが「幸せを感じる瞬間」は、こうした何気ない日常のなかにある。

“もし自分が子どもを育てるなら、障害の有無に関わらず、多様な人と自然に関わることが当たり前の環境で育ってほしい”

──最後に、これからのキャリアや人生について考えていることは?

女性としての人生については、ずっと考えています。キャリアを築いていくことと、出産や子育てのタイミングがどうしても重なってくるので、そのバランスはすごく難しいなと感じています。子育てをしたいという気持ちはあるんですけど、今の仕事もやりたい。その両方をどう実現するのかは、正直まだ答えが出ていないです。タイミングの問題でもあると思うので、考えても仕方がない部分もあるんですが、どうしても考えてしまいます。

ただ、ぼんやりとでも思っているのは、もし自分が子どもを育てるなら、障害の有無に関わらず、多様な人と自然に関わることが当たり前の環境で育ってほしい。これまでの社会って、福祉と日常がどこか切り分けられてきたと思うんです。でも、それがもっとボーダレスになっていくべきだと感じていて。そういう子どもが一人でも増えたら、社会は変わっていくんじゃないかと。 心が通じ合う共鳴者が一人でも増えていくことにつながり、その積み重ねが、社会を少しずつ変えていくんだと思っています。

キャリアとライフステージの狭間で揺れながらも、実現したい未来は彼女のなかに明確にある。彼女の挑戦は、ヘラルボニーの物語とともに続いていく。 Courtesy of MIU NAKATSUKA

そして個人的には、60代、70代になったときに、白髪でジュエリーを身につけて、自分らしくファッショナブルに生きていたい。そのイメージだけは、ずっと変わらずにあります。

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