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志望校を下げるよう諭した教え子が、難関大の合格通知を持ってきた日

  • 2026.5.17
ハウコレ

私は地方の進学校で15年以上、進路指導を担当してきました。生徒一人ひとりの志望と現実のはざまで、できるだけ後悔のない選択をさせるのが仕事だと思ってきました。けれど数年前、ある教え子の合格報告を聞いたとき、私は自分の指導観を見つめ直すことになったのです。

あの日の進路面談

彼女は真面目で努力家の生徒でした。第一志望は国立の難関大学。判定はずっとC。家庭の事情で塾には通えず、教科書と参考書だけで勉強していました。秋の進路面談で、私は彼女の結果を開きながら言葉を選んでいました。これまで似たような状況で挑戦して心が折れた生徒を、私は何人も見てきていたのです。「塾に行けない子は、はっきり言って受験では不利だよ」。私は続けて、「志望校、もう少し現実的なところに変えてみないか?」と告げました。

私なりの「優しさ」

彼女は黙って私の話を聞いていました。否定もせず、けれど納得した様子でもありませんでした。翌朝、彼女は図書室で私を見つけると「独学でいきます」とそっと告げました。私は反対しませんでしたが、内心では志望校を下げる時期を見計らっていました。あれは私なりの優しさのつもりでした。届かない夢を見続けさせるよりも、現実的な合格を一つ持たせて卒業させるほうが、教師としての責任だと信じていたのです。

合格通知を握りしめて

合格発表の翌日でした。職員室の入口に彼女の姿が見えたとき、私は半ば反射的に「報告か?」と尋ねました。彼女は合格通知を私に差し出しました。第一志望、国立の難関大学。私は紙面と彼女の顔を何度も見比べました。受験番号の上にある「合格」の表示を、何度確認しても消えませんでした。私は紙を持ったまま、しばらく彼女の顔を見つめていました。

そして...

私は教師として、これまで多くの生徒に「現実的な選択」を勧めてきました。それは経験から導いた助言で、何人かの生徒を救ってきたとも思います。けれどあの日、合格通知を握りしめて立っていた彼女の前で、私はその経験則の重さを初めて疑いました。私が「不利だ」と告げたからこそ、彼女は意地でも引かなかったのかもしれません。「君を信じきれなかった先生で、申し訳なかった」。深く頭を下げる私に、彼女は穏やかにうなずいてくれました。

あれから私は、生徒に現実を伝えるとき、必ず「それでも挑戦したい気持ちがあるなら、私は応援する」と添えるようになりました。

(40代男性・高校教諭)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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