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「クリトリス×粒子加速器」で先端部の神経に『5本の樹』を世界で初めて発見

  • 2026.5.15
「クリトリス×粒子加速器」で先端部の神経に『5本の樹』があることを発見
「クリトリス×粒子加速器」で先端部の神経に『5本の樹』があることを発見 / Credit: Lee et al., bioRxiv (2026)

オランダのアムステルダム大学医療センター(Amsterdam UMC)で行われた研究によって、粒子加速器から発生した強力なX線をクリトリスを含む腰部に照射したところ、これまでで最も精密なクリトリスの神経構造が3Dで描き出すことに成功しました。

そこに浮かび上がった姿は、長年医学の教科書に描かれてきたイラストとはまるで別物でした。

亀頭の中で「先細りして消える」とされてきた神経が、実は5本の太い幹に分かれて樹木のように広がり、しかもこれまで描かれてこなかった包皮や恥丘の皮膚にまで枝を伸ばしていたのです。

研究者らは今回の成果を「クリトリス科学の出発点」と述べています。

では、なぜ500年以上もの長きにわたり、人類はこの器官の本当の姿を描けずにいたのでしょうか。

研究内容の詳細は2026年3月20日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて発表されました。

目次

  • 「恥ずべき器官」と呼ばれていた時代から続く、知識の空白
  • 「粒子加速器×クリトリス」で見えてきたもの
  • クリトリスの神経は恥丘と包皮を繋いでいる
  • この発見は手術の「危険ゾーン」を書き換える

「恥ずべき器官」と呼ばれていた時代から続く、知識の空白

「クリトリス×粒子加速器」――先端部の神経に『5本の樹』を世界で初めて発見
「クリトリス×粒子加速器」――先端部の神経に『5本の樹』を世界で初めて発見 / Credit: Lee et al., bioRxiv (2026)

1486年の魔女狩り文書『魔女に与える鉄槌』などに代表される言説の中で、クリトリスは「悪魔の乳首」とみなされていきました。

これは魔女を見分ける身体的特徴のひとつとされ、女性の身体の一部が文字通り罪の証拠として扱われていた時代の記録です。

時代は下って1546年、フランスの解剖学者シャルル・エティエンヌは、自著の中でクリトリスを「恥ずべき器官」と記述しています。

ですが1844年になるとドイツ人解剖学者ゲオルク・ルートヴィヒ・コーベルトによって、二股の脚や血管・神経まで含めた、当時として非常に精密な解剖図が描かれます。

ところが1948年、世界で最も権威ある解剖学教科書『グレイ解剖学』の第25版で、編集者の判断によってクリトリスの記述が削除されてしまいます。

1995年の第38版でようやく『ペニスの小型版』として復活したものの、コーベルトが100年以上前に描いた精緻な姿には到底及ばない記述でした。

その後1990年代後半から2000年代にかけてMRIなどの撮影技術を使うことで、外から見える小さな突起は全体のごく一部にすぎず、皮膚の下に二股に分かれた「脚」が骨盤の奥まで広がっていることが「再認識」され、多くの人々に知られることになります。

こう見ると、クリトリスの研究はまさに時代との闘いだったと言えるでしょう。

その後、クリトリスの神経の数を計測する研究などが盛んに行われ、神経密度がペニスの6〜15倍に達することが報告されるなど、大きく研究は進みました。

しかしタブー感が薄れても、2002年から2022年までの20年間で陰茎亀頭に関する論文数は陰核亀頭の論文の20倍にも達するなど、研究予算や関心の分配は不均衡な状況が続いてきました。

ペニスなどでは比較的詳細に研究されてきた神経の全体像も、クリトリスでは不明のままだったのです。

そこで研究者たちは、思いがけない道具に手を伸ばしました。

「粒子加速器×クリトリス」で見えてきたもの

「粒子加速器×クリトリス」で見えてきたもの
「粒子加速器×クリトリス」で見えてきたもの / 陰核背神経は黄色、海綿体は緑、静脈網は青、尿道海綿体はマゼンタ、亀頭は透明な灰色Credit: Lee et al., bioRxiv (2026)

今回の研究チームが使ったのが、シンクロトロンと呼ばれる粒子加速器です。

元々は物理学的な実験のための施設でしたが、電子を光速近くまで加速する過程で生じる極めて明るいX線が発生します。

研究者たちはこの粒子加速器によって生じたX線をクリトリスを含む骨盤にあてることにしました。

その精度は驚異的で、標本全体は20マイクロメートル、クリトリス亀頭の部分はさらに細かい2マイクロメートルという、MRIの数百倍にあたるミクロン単位で撮影されました。

病院のMRIが「Googleマップで国全体を眺める感覚」だとすれば、今回のシンクロトロンCTは「同じ場所をストリートビューで街路樹の葉っぱ1枚まで観察する感覚」です。

得られた画像データは膨大で、ひとつの標本につき最大1.7テラバイトに達します。

研究チームはこのデータを、深層学習を組み合わせた画像解析ソフトを使って処理し、神経の走行を1本ずつ丹念に追跡していきました。

そうして描き出された神経の姿は、これまで医学教科書に載っていたイラストとは別物でした。

論文に掲載された画像を見ると、骨盤の中央に黄色く光って描かれていることがわかります。

この黄色いラインが、「クリトリス背側神経(DNC)」と呼ばれるクリトリスの主要な感覚神経になります。

画像をみてもわかるように、左右1本ずつあり、骨盤の脇から進入し、海綿体に沿って上面を走り、最も敏感とされる亀頭へと向かっていきます。

ここまでは、これまでの解剖学的知見ともおおむね一致する走行でした。

ところが、亀頭に到達したあとに見えたものが、これまでの教科書と決定的に違っていたのです。

従来の解剖学文献では、クリトリス背側神経は亀頭に近づくにつれて「徐々に細くなって消えていく」と記述されてきました。

この記述に基づいて、医学イラストレーターたちは長年クリトリスの亀頭部分を、神経がまばらにしか分布していないように描いてきました。

こうした図を通じて、亀頭の神経はまばらだという印象が医学教育の中にも広がっていた可能性があります。

しかし、今回のシンクロトロンCTでクリトリス亀頭の内部を覗き込んでみたら、神経はまったく細くなって消えてなどいませんでした。

Aが亀頭の中に潜む5本の大きな神経束。それぞれ異なる色でラベル付けされて浮かび上がっている。Credit: Lee et al., bioRxiv (2026)

それどころか、亀頭の中では5本の太い神経の幹として走り、そこから木の枝のように表面に向けて神経の糸が広がっていることがわかったのです。

論文に添付された3次元画像では、これらの幹が黄色、青、ピンク、緑、赤と色分けされ、亀頭の中で美しく枝分かれしている様子がはっきりと描かれています。

5本の幹の太さは、最も太いところで230マイクロメートルから700マイクロメートル、平均すると約423マイクロメートル(0.4ミリ強)ありました。

この1本1本は人間の神経としては中程度の太さですが、それが小さなクリトリス亀頭に5本も詰め込まれていることを考えると、神経の集中度は極めて異例のレベルに達していると言えます。

これは先行研究でクリトリスの神経密度がペニスの6〜15倍に達していると報告されてきた事実とも、整合する観察になるでしょう。

(※先行研究は神経密度を調べましたが、神経全体の分布は調べていません。逆に今回は主要な感覚神経の3D分布は調べましたが、密度は調査範囲に入っていません)

さらに研究チームは、興味深い構造的特徴も発見しています。

左右の幹はそれぞれ亀頭の左半分と右半分にだけ広がっていて、中央の線を越えて反対側に進入することはありませんでした。

神経幹の走行を見る限り、クリトリス亀頭の左右は、それぞれ別の半側へ向かって神経が分布する形になっていたのです。

しかしより意外な結果は、神経の辿った先にありました。

クリトリスの神経は恥丘と包皮を繋いでいる

クリトリスの神経は恥丘と包皮を繋いでいる
クリトリスの神経は恥丘と包皮を繋いでいる / 陰核背神経は恥丘と陰核包皮も支配している。逆U字形に神経が伸びている様子がわかります。Credit: Lee et al., bioRxiv (2026)

3次元の神経データをさらにたどっていくと、クリトリス背側神経の一部の枝が、これまで考えられていたよりもずっと遠くの場所まで伸びていたことが判明したのです。

クリトリス背側神経はクリトリスの根本あたりで上方向に分岐し、おなかに近い「恥丘」と呼ばれる丘状の皮膚部分と、クリトリスを覆う「包皮」の皮膚へと届いていました。

横から見ると、神経が逆さまのU字を描いて広がっている形状になっていることがわかるでしょう。

研究者がこれを詳しく見たところ「クリトリスの根元➔上に登って恥骨結合の前で折り返し➔その先で恥丘と包皮の両方に同時に分配される」というルートになっていることがわかりました。

クリトリス背側神経の枝が、亀頭、包皮、恥丘という3つの離れた領域に届いているというのは、重要な発見です。

これは、これまでの解剖学では「クリトリス本体の周囲にある懸垂靭帯のあたりに神経が走っているらしい」とおおまかには知られていたものの、最終的にどこまで届いているのかが正確に描けていなかった部分です。

今回シンクロトロンで追跡することで、神経の終点がはっきりと記録されました。

さらに研究チームは、これまでクリトリスとは別系統だと考えられてきた「後陰唇神経(PLN)」と呼ばれる神経についても、新しい発見をしています。

後陰唇神経は、これまで主に陰唇を支配する神経として知られていました。

ところが今回の3次元画像で追跡すると、この神経もクリトリス本体の外側面まで枝を伸ばしていたのです。

つまりクリトリス領域には、メインの感覚神経である背側神経と、隣の系統である後陰唇神経という二つの異なる神経系が、両方とも届いていたわけです。

これは、これまでの解剖図には描かれていなかった構造でした。

この発見は手術の「危険ゾーン」を書き換える

この発見は手術の「危険ゾーン」を書き換える
この発見は手術の「危険ゾーン」を書き換える / Credit:Canva

これら一連の発見は、ただ解剖学者の知的好奇心を満たすだけのものではありません。

現実にいま、この瞬間にも世界中で行われている二種類の医療手技に、直接の影響を持ちうるものなのです。

ひとつは、女性器切除(FGM)からの再建手術です。

FGMとは、宗教的・文化的な理由から女性の外性器の一部を切除する慣習のことで、主にアフリカや中東、アジアの一部地域で行われています。

国連の2024年のデータによれば、世界で2億3000万人以上の女性がこの慣習による切除を経験しています。

FGMには複数のタイプがありますが、最も広く行われているのはクリトリスの亀頭と包皮、あるいは亀頭と小陰唇を切除するタイプです。

被害を受けた女性の中には、後年になって再建手術を受ける方も少なくありません。

しかし長年の追跡データによれば、再建手術を受けた女性のおよそ22%、つまり5人に1人以上が、術後にオルガズム体験の低下を訴えています。

この数字は、神経構造をより正確に理解する必要性を示す重要な背景になります。

神経の正確な地図がなかったため、どこをどう縫合すれば機能が残るのかが、ある程度までは手探りにならざるをえなかったのです。

今回の研究で得られた3D神経マップは、この5人に1人という術後低下率を引き下げる可能性を持っています。

論文の著者たちも、再建技術の精度向上に資する解剖学的基盤を提供したと、慎重なトーンで明記しています。

もうひとつは、近年急速に件数が増えている女性器の美容整形手術です。

代表的なのは小陰唇形成術と呼ばれるもので、国際美容外科学会のデータによれば、2015年から2020年にかけて世界での実施件数は70%も増加しました。

この種の手術では、神経を傷つけないために、「ここから先は神経が走っているので慎重に」という危険ゾーン(danger zone)が医学界で共有されてきました。

従来そのマップは、包皮までを危険域として描いていました。

ところが今回、神経の一部がその包皮を越えて、さらに上の恥丘の皮膚にまで達していたことが判明しました。

つまり従来の危険ゾーンの外側にも、実は神経の枝が伸びていた可能性が示されたわけです。

研究チームはこの発見について、「現在の危険ゾーンの定義は再検討が必要になる」と論文の中で示唆しています。

外科医にとっては、長らく信頼されてきた危険領域の線引きが書き換えられることを意味する、地味だが極めて重要な指摘です。

筆頭著者のジュ・ヨン・リー博士は「解剖学的構造を知ることは、その機能を理解するための前提条件です」と語り、今回の研究を「クリトリス科学の出発点」と位置づけています。

解剖の地図ができたことで、ようやくその次の段階、「どの神経がどんな感覚を担っているのか」を細かく調べる機能研究に進めるという見立てです。

今回得られた3D神経マップは、「Human Organ Atlas」というオンラインデータベース(human-organ-atlas.fr)で公開されており、誰でも閲覧することができます。

人類が長らく描けなかったクリトリスの神経地図を、世界中の誰もが手元で見られる時代になったわけです。

もっとも、今回の研究結果が人類のクリトリスで全て同じとはまだ言い切れません。

今回の研究結果は59歳と69歳の女性の遺体から提供されたクリトリスを調査したものだからです。

たった2人の結果を人類全体のクリトリスの神経構造とイコールにするのは難しいでしょう。

それでも時代と戦い続けたクリトリス研究が、最先端の粒子加速器の力を借りて神経構造を暴き出したという事実は、人類の歴史に長く記録されることでしょう。

1486年に「悪魔の乳首」とみなされ、1546年に「恥ずべき器官」と書かれ、1948年に記述が消え、1995年の教科書ですら「ペニスの小型版」と書かれてきた器官について、人類はそれをようやく5本の神経幹から枝分かれする美しい神経の地図として描き始めたところに、私たちは立っています。

元論文

Neuroanatomy of the clitoris
https://doi.org/10.64898/2026.03.18.712572

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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