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ゆるい飲みサークルのはずだった…合宿での“予兆”と、深夜に聞かされた《まことくん》という名前

  • 2026.5.6
写真はイメージです。提供:アフロ

北九州で書店員として働きながら、怪談語りチャンネル「禍話(まがばなし)」を配信し続けてきた怪談の語り部かぁなっきさん。彼が集めてきた実話怪談は優に3,000話を超えており、放送も今年で10周年の節目を迎えています。

最終回となる今回は令和を代表するネット怪談の震源地である禍話から、とあるサークルの奇妙な合宿に誘われた女子大生の体験談をご紹介します――。


去年のGWの写真だけが少ない“違和感”

写真はイメージです。提供:アフロ

Dさんが大学1年になり、選んだのは「地域文化研究会」略して“地文研”という、いかにも大学公認という印象のサークルでした。

周りはテニスサークルだの軽音サークルだのと、大学生らしい活気に満ちたサークルを選びがちでしたが、活発すぎる人付き合いが苦手で、熱狂できるほどの趣味もなかった彼女にとって、落ち着いた雰囲気の地文研は性に合っていました。

また、堅苦しい名前とは裏腹に、地文研の実態は調査という名目で合宿に赴いてはのんびりと過ごすゆるい飲みサークルであり、Dさん的にはこのゆるさこそ加入した大きな理由だったそうです。

「結構、写真いっぱい撮るんですね」

まだ慣れない部室を物色していたある日。Dさんは写真アルバムをパラパラとめくりながら、2個上のI先輩に何気なく問いかけました。

「ゆるいサークルだけどさ、思い出くらいはしっかり残そうという謎の情熱と伝統があって、どの行事も全部写真に収めようとするんだよね」

「へー、確かに結構昔から写真アルバムありますね。本当にいろんな写真を……」

1年前のアルバムを見ているとき、Dさんのページをめくる手が止まりました。

どの季節もそれまでほとんど同じ数が収められていた写真の中で、去年の大型連休の頃だけが極端に少ない、もっと言うとほぼ写真がなかったのです。

「あの、去年の――」

「お疲れ~。私が言ってたチョコあった~?」

別の先輩がコンビニから帰ってきたことで解けてしまった会話の空気。

Dさんの疑問に答えが出るのは、それから程なくしてやってきた大型連休中でのことでした。

キャンプ当日、少しずつ近づく違和感

あっという間にやってきた大型連休。

新生活の慌ただしさが一段落し、新緑が眩しくなってきたこの季節。地文研では毎年この時期に新入生歓迎も兼ねて、コテージ付きの山間部のキャンプ場へ親睦会に出かけ、地域住民相手に軽いフィールドワークを行なった後、川遊びやバーベキューを盛大に楽しむのが恒例行事になっていました。そんな伝統を先輩から聞かされていたDさんは、例のアルバム写真の件などすっかり忘れ、合宿を楽しみに日々を過ごしていました。

キャンプ当日。

Dさんは先輩たちの運転するワゴンに分乗すると、ワイワイと騒ぎながら目的地へと旅立ったのです。

「写真で見たよりめっちゃ広いですねぇ!」

「そうでしょ~。じゃあ、荷物置いたら買い出しの前にフィールドワークね」

写真はイメージです。写真:gotoshoji/イメージマート

和やかに進んでいく合宿。日差しは強かったものの、山間部ということもあって涼しく過ごせたこともDさんの気分を盛り上げてくれました。

あっという間に時が過ぎ、夕日で周囲が色づき始めた頃。ビール片手にメンバーと談笑していたDさんは、この時、心の底からこのサークルに入ってよかったと喜びを噛み締めたそうです。

それからしばらくして、コンビニ袋を手渡されたDさんは「管理棟のそばに自販機あるから、なんか適当に買ってきて」と、先輩からジュースの買い出しを任されました。

しかし、先輩に言われた管理棟脇の自販機で売っていたのは水やお茶ばかり。少し迷ったものの、彼女は車で来たときに見た、田んぼの側にあった自販機まで1人歩いて行くことにしたそうです。

ジュースを買った後に気づいたのは…

5、6分歩を進め、心地よい喧騒が鳴りを潜めて静寂が彼女を包み始めた頃、田んぼに続く一本道の先に自販機の明かりが見えました。

写真はイメージです。写真:k.k/イメージマート

ジュースを発見。ガコン、ガコンと音を鳴らしながら買い込み、最後の1本を袋に詰め終わって顔を上げたとき、田んぼの向こうに1組の人影を見つけたそうです。

辺りに誰もいないと思っていたので、一瞬ギョッとしてその人影の後ろ姿を見つめていると、それが若い男女であることがわかりました。

「地元の人かな」

やけに2人から目線が離せないのには、理由がありました。

男が前、女が後ろで、妙に距離を空けながら歩いているのが気になったのです。

ふと、後ろを歩いていた女が前を歩く男の左肩に手を乗せるのが見えました。

疲れて手を置いているのでも、じゃれ合うように触っているのでもない。無言で肩に手を置きながら、ゆらゆらと歩いているのです。

なんとなく首筋と背中に不穏な気配が忍び寄るのを感じ、踵を返したDさん。

なぜか、今見た光景が不確かな夢の景色のように思えてしまった彼女は、確かめるように再び後ろを振り返りましたが、すでに2つの人影は消えていました。

「もう、準備できているから」

楽しかった食事も終わり、Dさんは1年生のロッジに戻ってベッドに突っ伏しました。隣では同級生たちがまだ雑談していましたが、Dさんは彼女たちをよそに深い眠りへと落ちていったのです。

「……ねえ、Dちゃん。ちょっと起きて」

夜中、急に肩を揺さぶられて目を覚ましたDさん。声の主は3年生のI先輩でした。

写真はイメージです。提供:アフロ

「なんすか……」

「もう、準備できているから。3年生の一番大きなロッジに来て。2階建てのやつ」

そう言い残し部屋を去ったI先輩。その声色に少し厳しいものを感じたDさんは自分の知らない行事がまだあったのかと焦り、慌てて3年生のロッジに向かいました。

「失礼しま~す……」

小声で挨拶をしながらロッジに入ると、1階に10人ほどのサークル主要メンバーがすでに座っており、同級生たちやその他のメンバーは周囲の席に下を向いて静かに座っていました。

照明は可能な限り絞られ、輪の中心で上向きに置かれたスマホのライトだけが煌々と周囲を照らしていました。

「まことが入って来たときは、驚いたよね」

ああ、怪談会でもやっていたのか……そう思ったDさんは唯一空いていた1人がけの椅子にそっと座り、様子を見守ることにしました。

“まことくん”なる先輩を語る先輩たちの口調

「うん、すごく明るい奴だったから嬉しかったな」

“まこと”なる人物について語り合う先輩たちのどこか舞台じみた口調。

寸劇形式で怖い話でもしているのだろうと合点したDさんでしたが、どうにも話が怖い方向に転じていかないことに徐々に違和感を覚えていきました。

むしろ、話は過去の楽しかった思い出話に進み、延々と“まことくん”を誉めそやしていたのです。

彼がいかに愛想が良く、いかに爽やかで、いかに面倒見が良かったか。笑い混じりなものの、どこかしんみりと彼の思い出を噛みしめている様子の先輩たち。

このときになって初めて、下を向いている同級生たちの表情がどれも困惑して縮こまっていることに気がつきました。

写真はイメージです。提供:アフロ

「ちょうど1年前だよね」

「そうですね。今みたいな夜中にまこと先輩に肩叩かれて起こされました。先輩、着替えて俺の横に座っていたっけ」

「寝間着のジャージじゃなかった時点で気がつくべきだったね」

「はい。で、先輩『ちょっと出てくるな』ってロッジの外行って……」

言葉を詰まらせる2年生のS先輩。

「それっきり、か」

その言葉をつなぐように合いの手を入れたI先輩。

Dさんは、話や状況が整理されていくにつれて、浮かび上がる思いに戸惑いを隠せないでいました。

それは、話に出ている“まことくん”なる先輩が、どう考えてもこのキャンプ場で行方不明になっているとしか思えないということでした。

文=むくろ幽介

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