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市川染五郎さん、舞台に立っている時間が息抜き「誰かを演じている間、自分を一旦休憩できます」

  • 2026.5.3

市川染五郎さんが、シェイクスピアの名作『ハムレット』で、歌舞伎以外の本格的な舞台に初挑戦します。活躍目覚ましい歌舞伎界の若きプリンスが演じるのは、父王の死の真相を知り、叔父への復讐を誓うデンマークの王子ハムレット。さて、かつて祖父・松本白鸚さんと父・松本幸四郎さんも演じた大役で、どんな新境地を見せるのか? 麗しき21歳の胸中と素顔に迫ります。

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受け継いだ小道具が「お守り」のよう、パワーをもらっています

――ポスタービジュアルも印象的な今回の『ハムレット』。染五郎さんが身につけていらっしゃる指輪は、祖父・白鸚さんが1972年にハムレットをおやりになった際のものだそうですね。

もう2、3年前になりますが、祖父が急に、指輪をあげたいと言ってくれまして。祖父は洋物の芝居もいろいろやってきたので、小道具として身につけた指輪やアクセサリーもたくさんあって、家に保管しているんです。その指輪を出してきて、「これは『ラ・マンチャの男』で使ったものだよ」とか「これは『アマデウス』の時に身につけたものだ」と説明してくれたのですが、その時たまたま僕の指にはまった指輪があって、祖父に見せたら「それはハムレットをやった時のものだ」と。

――たまたま指にはまったのがハムレットの指輪だったなんて、不思議で素敵な繋がりを感じますね。

その時もう一つ指輪をもらったんですが、それは『朧の森に棲む鬼』という作品でシュテンという役をやった時に使わせてもらいました。歌舞伎でも、そんなふうに譲っていただいた小道具や衣裳を身につけて出ることがあるのですが、そういうものはやっぱりパワーが違うといいますか、守ってくれるような感覚があります。

――今年の「新春浅草歌舞伎」で『梶原平三誉石切』の平三を勤められた際は、大叔父・中村吉右衛門さんが石切梶原用に作られた印籠をお使いでしたね。

はい。去年の歌舞伎座の秀山祭で武部源蔵をやらせていただいた時は、大叔父が使った刀の鞘を使わせてもらいました。お客様の目にそれほど留まるものではありませんし、作品上、特にフォーカスされるようなアイテムでもないのですが、身につけて舞台に出ると気持ちが一層引き締まりますし、自分にとってはお守り代わりのような感じです。

「やるしかない」中で決断を重ねる。自分とハムレットを繋ぐもの

――ハムレットといえば、“To be, or not to be, that is the question.”の和訳「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」が有名ですが、染五郎さんはどんなふうに捉えていらっしゃいますか?

僕が今回感じているのは、ハムレットはそんな単純な二者択一で悩むような人間ではないな、ということです。僕自身、歌舞伎役者の家に生まれて、「歌舞伎を辞めようと思ったがことありますか?」と聞かれることも多いのですが、そもそも“辞める”という選択肢はなかったので、常に“やるしかない”中で“どういう決断をするか?”の連続でした。ハムレットも、一つ一つの状況を冷静に考えて悩んでいる人だと思うので、そういう部分では共感を覚えますし、“若いから突っ走っちゃう人”という印象にはしたくないなと思っています。

――今回の松岡和子さんの訳「生きてこうあるか、消えてなくなるか」については、どうでしょう?

僕は、自分の人生の中で何を選んだらいいのか? 何が正しいのか? という、ハムレットの自分自身への問いかけではないかと捉えています。最後には死んでしまうハムレットですが、それは冷静に考え、決断していったことの積み重ねを経てのことで、やはり、ただ死ぬことを選ぶ人ではないと思っているので、ハムレットのその時々の心の段階といいますか、気持ちの流れがちゃんと繋がっていくように丁寧に作りたいなと思います。

――では、役者として生きること、役者としての死、というものを、どうお考えですか?

生きる=求められることで、求められなくなった時が役者としての死なのかな、と思います。僕も役者として、なるべく長く生きていられたらと思いますし、それには、役者のエネルギーをお客様にしっかり届けて、お客様からもパワーをいただくという、エネルギーの交換がとても大事だという気がします。

――映像作品でのご活躍も増えていますが、舞台との違いをどんなふうに感じていらっしゃいますか?

僕にとっては、もう全く別物という感じです。お芝居をする、役を作る、といった過程は一緒だと思いますが、現場で出す技術、表現方法というのが全然違う気がしていて。舞台だと、お芝居を見ていただくお客様という対象がその場にいますけれども、映像ではそれがないですし、そもそも役同士でやっていることを見せるという感覚があまりないので、そこが不安になるといいますか、不思議な気持ちになります。

舞台に立っている時がいちばんの息抜きであり、いちばん解放されている時間

――そんな染五郎さんが近頃ハマっているものを教えてください。

パソコンのゲームで『Raft(ラフト)』というのがあって、それをよくやっています。海の真ん中で、本当に小さな筏(いかだ)に乗っているところからスタートして、漂流してくる木材やプラスチックを回収して筏を大きくしていったり、飲み水を確保したり、魚を釣って焼いて食べたり……そういうことをしながら、サバイバルしていくゲームです。

――もう以前のように、仏像にはハマっていないのですね。

ハマっているといえるほどではないですけれども、仏像は今でも好きです。フィギュアもたくさん持っていて、ガラスのコレクションケースにしまってあります。もともとフィギュアを集めることが好きで、ほかのフィギュアもたくさんあるので、あまり大きくないケースに押し込んでいるような感じで、全然“飾っている感”はないですけれども(笑)。

――それはそれで見てみたいです(笑)。お忙しい毎日のリラックス法、リフレッシュ法を教えてください。

車の運転が好きで、それがリフレッシュにもなっています。あと、これは歌舞伎がひと月お休みだった2月に実感したことなのですが、自分にとっては舞台が息抜きになっているみたいです。もちろん、舞台は精神的にも体力的にも大変ですけれども、自分ではない人物を演じている間は、自分のことを脇に置いておけるというか、一旦、自分を休憩できる唯一の時間なのだなと気が付いたんです。演じながらアクシデントに対処することもあるので、自分を100%消すことはできませんけれども、そういう意味では、舞台に立っている時がいちばんの息抜きであり、いちばん解放されている時間だなという感じがします。

――まさにナチュラル・ボーン・アクターという感じの染五郎さん。『ハムレット』もますます楽しみです。最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。

『ハムレット』に関しては、本当にいろいろな見方があると思いますし、もちろん正解があるものでもないので、ぜひ真っさらな気持ちで観にいらしてください。本当にたくさんの国で、お客様の心に届くような形に進化しながら上演され続け、400年以上も残ってきた作品です。それぐらい、どんな時代にあっても普遍的な人間の本質が描かれているので、それぞれの感じ方で楽しんでいただけたら嬉しいです。劇場でお待ちしています。

【プロフィール】

いちかわ・そめごろう/2005年、東京都生まれ。07年6月に歌舞伎座で初お目見得、09年6月に歌舞伎座で四代目松本金太郎を名乗り初舞台、18年1・2月に歌舞伎座で八代目市川染五郎を襲名。近年の主な出演作は、歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』、歌舞伎『木挽町のあだ討ち』、映画『鬼平犯科帳 血闘』、ドラマ『人間標本』など。主演を務めるドラマ『鬼平犯科帳 本所の銕』が2026年に時代劇専門チャンネルでオンエア予定。

【公演情報】

舞台『ハムレット』
デンマークの王子ハムレットは、父王が急死した直後に叔父クローディアスが母ガートルードと再婚し、王位に就いたことに苦悩していた。父の亡霊から、自身の死はクローディアスによる毒殺だと告げられた彼は復讐を誓い、狂気を装って周囲の反応を探っていくが……。
作:ウィリアム・シェイクスピア 演出:デヴィッド・ルヴォー 翻訳:松岡和子
出演:市川染五郎 當真あみ 石川凌雅 横山賀三 梶原善 柚香光 石黒賢 ほか
2026年5月9日~30日/日生劇場 6月に大阪、愛知公演あり。

取材・文/岡﨑 香 ヘア・メーク/川又由紀(HAPP’S.) スタイリスト/中西ナオ 撮影/佐藤俊斗

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