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「なんで私の表情がわかるんだろう」と、彬子さまが…池辺葵が語る『マンガ 赤と青のガウン』コミカライズの舞台裏

  • 2026.4.24
『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

女性皇族として初めて、海外で博士号を取得された彬子女王殿下。そのオックスフォード大学での日々を綴られたエッセイ、『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(PHP文庫)が池辺葵さんによりマンガ化されました。

コミカライズにあたり、池辺さんはどんなふうに作品と向き合ったのか――全2回のインタビューをお届けします。


描きたいものを見失っていた…そんな時期に訪れた転機

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

皇族の方々。日本人にとっては仰ぎ見るような心理的距離から逃れられない存在である。しかし、彬子女王殿下(以下、彬子さま)のエッセイ『赤と青のガウン オックスフォード留学記』を読むと、ぐっと親しみが湧いてしまう。

オックスフォード大学は徳仁天皇や、彬子さまの御尊父である寛仁親王(2012年薨去)も留学された皇室とゆかりの深い最高学府であり、彬子さまは寛仁親王から〈「おまえもオックスフォードに行くんだぞ」と繰り返し呪文のように聞かされて〉育った。

同書は彬子さまが、学習院大学在学中の1年間の短期留学と、2004年9月から5年間在籍したオックスフォード大学マートン・コレッジでの日々を振り返ったエッセイだ。そのエッセイが、マンガ界の名匠、池辺葵さんによりコミカライズされ、早くもこの夢のコラボレーションに注目が集まっている。

自分の大切なものを慈しみながら、ささやかに生きている――そんな女性たちを描いたら天下一品の池辺さん。だが、これまで発表してきたのはみなオリジナル作品で、原作があるものを手がけたことはない。なぜこの仕事を引き受けたのだろう。その動機から、うかがってみた。

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

「このお話をいただいたのが2024年なんですね。正直に言うと、そのころは若干『もう描きたいものがないな』という気分だったんです。だから、それでもこれからもし描くとしたら、日本の文化やものづくりにフォーカスした作品がいいなというのがあって、『ブランチライン』(祥伝社)の担当さんにも相談したりしていました。

彬子女王殿下のお名前とお顔は存じ上げている、というくらいだったのですが、皇室は自分の中ではすごく大切な存在だとは感じています。

皇室やオックスフォード大学が備えている伝統と、自分が描きたい世界が近いなとまず思いました。私は何をするにも直感で生きているのですが、何より『これは私に来た話だ』という感覚があったんです。すごくおこがましいですけれど、私でよろしければ最大限やってみようと。即決でした」

日常をそのまま描く強さに打たれて

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

コミックの担当編集者・岩坂氏から依頼された時点では、池辺さんはまだ原作を読んでいなかったそうだ。

「読まないうちに決めてしまったので、読んでどう思うかはちょっと心配だったものの、『いや、でも頑張ろう、どんなものでもやれる』と自分を奮い立たせました。ところが実際に読んでみたら、もう私が大好きなものにあふれていたので、一気に気持ちが晴れたというか。

先ほども申し上げたように、作品づくりに悩んでいた時期だったんですよね。思いつくとそこから流れるように映像が浮かぶというのが私のスタイルだったんですけれど、最近はあまりそうならなくなっていて、意識的に物語をコントロールすることもあったり、重たい気持ちで臨んでいるところもありました。

それが殿下の本を読んだときに、読者にこう思わせたいとか、こう感じさせたいが一切ない作品で、とても感動したんです。日常を見たまま聞いたまま淡々と綴っていて、その自然発生的な筆運びが魅力的でした。殿下は出会うものすべてを楽しみ、その目が輝いていらっしゃるのがわかる。

それはもう私の中ではいわば物語というべきもので、ものをつくるとはこういうことだなとあらためて教えていただいたエッセイでした」

話が決まると、彬子さまが大学や院生時代の建物や思い出の写真などをいろいろ用意してくださり、その写真に、ここにいるのはどういう人物であるかや、「ここは学生が集ったバー」など細かくメモした付箋も貼ってくださっていた。そのお心遣いにも感激した、と池辺さん。

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

「当時の殿下の写真もたくさん見せていただきました。いちばん感じたのが、笑っていらっしゃる姿の愛らしさですね。ずっとみなさんに見られている立場でありながら、写り具合などは一切意識されていなくて自然。

いまはインスタ映えだのフォトジェニックだの、カメラの向こうを気にすることも多いと思いますが、殿下はそういうのとは無縁で、起こった出来事のその瞬間、瞬間を全力で生きているようなはつらつとした表情をされているんです。そのパワーたるやと感じたので、その姿をみんなに届けられればいいなと思います」

「お可愛らしいだけではない」彬子さまの本質

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

ちなみに、池辺さんが彬子さまと直接お会いしたのは第4話を描く前くらいだったという。

「お話ししてみると、私の中にあった“お可愛らしい殿下”というイメージが大きく変わったんですね。お可愛らしいのはそうなんですが、凛々しいという感じもあって、ちょっとシニカルな一面も見受けられて、非常に個性的な方だ、私大好きだな、慕わしいなと思ったんですよ。

第3話で殿下が涙をこぼされる場面があって、殿下は他の学生たちの会話について行けずにしょんぼりと自室に戻ってくる。そのときの泣き方は、絶対にめそめそって感じではないな、耐えて耐えて感情がこらえきれなくなったときのようなそういう感じだろうなというのはお会いする前から思っていて、その感覚で描いたんですね」

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

「すると、殿下が何かのインタビューで『なんで私の表情がわかるんだろう』とおっしゃってくださっていたのを拝見して、それはすごくうれしいお言葉でしたね」

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』

新潮社 原作 彬子女王/漫画 池辺葵 1,540円
「命を吹き込むとはこういうことなのかと、ぞくぞくした」(彬子女王)。女性皇族として初めて海外で博士号を取得された彬子女王殿下。一人で街を歩く心地よさと寂しさ、論文に追われた日々、支えてくれた友人たち――英国での苦しくも輝かしき青春を『ブランチライン』の池辺葵が繊細な筆致で描き出す。殿下の特別エッセイも収録。

彬子女王殿下【原作】

1981年、故寬仁親王殿下の第一女子として生まれる。学習院大学在学中及び卒業後に、英国オックスフォード大学マートン・コレッジに留学し、女性皇族として初めて博士号を取得(専攻は日本美術)。京都産業大学日本文化研究所特別教授、一般社団法人心游舎総裁などを務める。著書に『赤と青のガウン オックスフォード留学記』『飼い犬に腹を噛まれる』(PHP研究所)、『京都 ものがたりの道』(毎日新聞出版)、『日本美のこころ イノリノカタチ』(小学館)、『日本文化 寄り道の旅 』(扶桑社)などがある。


池辺葵【漫画】

2009年デビュー。同年より、『繕い裁つ人』(講談社)の連載を開始(のちに映画化)。14年、『どぶがわ』(秋田書店)で第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞。この年、『プリンセスメゾン』(小学館)も連載開始。18年、『ねぇ、ママ』(秋田書店)で第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。ほかの代表作に『かごめかごめ』(秋田書店)、『雑草たちよ 大志を抱け』(祥伝社)などがある。現在、『FEEL YOUNG』(祥伝社)で『ブランチライン』を連載中、2024年12月より小説新潮で、2025年1月よりくらげバンチで『赤と青のガウン』の漫画版連載をはじめる。

文=三浦天紗子

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