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「実は、キャラクターという言葉がキライなんです」池辺葵が語る“人を描く”ということ《彬子女王 原作『マンガ赤と青のガウン』》

  • 2026.4.24
『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

女性皇族として初めて、海外で博士号を取得された彬子女王殿下(以下、彬子さま)。そのオックスフォード大学での日々を綴られたエッセイ、『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(PHP文庫)が池辺葵さんによりマンガ化されました。

コミカライズにあたり、池辺さんはどんなふうに作品と向き合ったのか――全2回のインタビューをお届けします。


キャラクターではなく“人間”を描くということ

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

ところで、池辺さんは彬子さまのキャラクターデザインをどんなふうに決めたのだろう。

「実はキャラクターという言葉がキライなんですね。いまではマンガ用語だと理解はしているんですけれど、かつては“キャラクター云々”とか言われることに『キャラクターを描いているわけじゃない、人間を描いているのだ』とかなり抵抗がありました。なので、最初からキャラクター作りみたいなことはやっていないですし、あと『似せないといけない』という感覚もあまりないんですよね。

彬子女王殿下以外の人物についても、資料写真はたくさんいただいたのですが、勝手に作っている実在しない人物もいます。たとえば、殿下が日本の本物のプリンセスだとなかなか気づかれないエピソードがありますが、あそこで〈まだかいっ まだわからんのかいっ〉と横でずっこけている女性なんかは創作なんです。

また、〈しゅた〉と駆け出そうとしている殿下や、マラカスを持って〈シャンシャン〉と効果音を鳴らしている殿下など、マンガ的なコミカルな表現も使っています。でもそれを面白がってくださっているようです。

毎回、ネームも下絵もすべてお見せしていますし、『これはおかしいということがあれば、なんでもおっしゃってください、直しますから』という話もしているんですけれど、あまり何もおっしゃらなくて自由に描かせていただいているので、逆に不安になるくらい」

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

しかし、「これは、違います」とおっしゃったことがあるそうだ。それが側衛のシオダさんのキャラクターデザイン。このエピソードについては、彬子さまが本書に寄せた特別エッセイにも書かれているので、読んで楽しんでほしい。

池辺さんによれば、彬子さまにお会いしてから変わった創作のポイントがもう一つある。

「殿下の言葉のリズムを壊さないようにしようと思ったんです。自分も原作者であったことがあるし、もともと映像やマンガにするときに原作というものを尊重するという意識がすごく強い。ですので私自身も、一切いじらずに最大限のリスペクトをしようと決意してこの連載を始めたんです。

とはいうものの、お会いする前に描いた第1話から第3話は、内容が一緒だったらいいかなという考えもあって、少し言葉を変えたりしたんですね。でもお話ししてみて、殿下には独特の言い回しや話の流れの作り方があるとわかりました。

言葉の選び方も軽やかというか、ちょっとユニークなんですよね。言葉のリズムというようなもの、それは私にも私なりにはありますが、殿下からははっきりとそういう感覚を受けて、できるだけ文章は変えない方がいいなと思いました。文章や言い回しにはその人自身が出ますよね。そう気づいてからは、原作からあまり削らないようにしているんです」

まるで『ハリー・ポッター』のような世界観!

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

彬子さまの留学時代を彩るのは、イギリスでもっとも長い歴史を持つオックスフォード大学の魅力と、それを有する学園都市オックスフォードの街と文化だ。世界中から教授や学生が集まって伝統と多様性が同居している一方、中世から残る美しい建物が街中にある。

「オックスフォードの建物自体がものすごくパワフルというか、美しくて、こういうものに囲まれて学ぶのはわくわくするだろうなと思いました。内装も重厚感があってすばらしい。緑や川など自然も豊か。やはり景色そのものに魅力があります。

イギリスの古き建造物を背景に、日本の皇室という世界を描けるのが、両方に興味がある自分としても良かったなと思うし、ものすごく面白いことだなと」

読者は思う存分池辺さんの描くオックスフォードの美観を眺め、うっとり楽しむことができるが、池辺さんが絵で再現しなくてはいけないもの――街並みや建物はもちろん、インテリア、調度品、食べもの等々、難易度がいちいち高い。しかも、池辺さんはアシスタントさんを使わずに、全部おひとりで、アナログで描くと聞いて仰天した。

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

「私は『ハリー・ポッター』の世界観が大好きなので、映画に出てきた大広間にとても憧れていました。殿下のコレッジの食堂は、まさにあの世界そのものらしくて、最初は単純に自分で絵にできるのがうれしいと思っていたんですけれども、実際にやってみると想像以上に大変でした。

ただ、せっかくいい資料をたくさんいただいているので、そうした魅力をちゃんと出さないとマンガにする意味があまりないのかなと、ちょっとがんばっているんです(笑)。資料の他に、YouTubeやGoogle Mapsでオックスフォードを旅したりできるので、IT技術に感謝しています」

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

本書では、各話のタイトルにも注目してほしい〈第1話 烏羽色のはじまり〉〈第2話 桜色の幼少期〉……と、色にちなんだサブタイトルがつけられている。

「実はすべて殿下がつけてくださっています」

すべて和色から取られている。にわかには想像のつかない色もあるが、連載されているWebマンガサイト「くらげバンチ」には載っていないので、単行本を手に取った読者だけのお楽しみだ。

「連載と少し構成を変えたこともあり、あらためてつけてくださらないだろうかと、これも編集さんの尽力なんですが、快く引き受けてくださったと聞いています。すごくセンスがいいし、莫大な知識量を感じますよね。いろいろなことを勉強して吸収して、さらに伝えることに尽力していらっしゃるのを感じています。

殿下はいま研究者でもいらっしゃるので、教えたりもされるし、もともと日本文化についての造詣は深い。『和樂』(小学館)や『Casa BRUTUS』(マガジンハウス)で連載もされているので、そういう積み重ねがエッセイの楽しさにもなっていらっしゃる。言葉も表現も美しい。なにより人がお好きなのかなと感じるんですよね」

本物の“人生を楽しむ力”を伝えたい

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』© 彬子女王 池辺葵/新潮社 第1巻より。

最後に、マンガの『赤と青のガウン』を通して、池辺さんは読者にはどんなところを楽しんでほしいかをうかがってみた。

「心弾む気持ちで読めるって貴重ですから、シンプルに『面白い』『興味深い』と思ってもらえたらそれだけでいいのかな。私がエッセイから感じたことがそれだったので。

私は殿下ほどには目の前の世界をキラキラした目で見ていなくて、だから、あの次元に自分を持っていくために自分を整えることには苦労しているんです。やっぱり殿下の視点と私の視点、もちろんしてきた経験も全然違います。描いていて楽しいとはいえ、プレッシャーや難しいこともないわけではありません(笑)。

ただ、ご身分があっても、ときに感じる孤独や学問を続ける大変さは普通の人たちと同じというか、しんどいこともたくさんあるわけじゃないですか。さらに、その責務の重さはいかほどかと思います。それでも殿下は制限された自由の中で、人生を大切になさっている。そういう本物のパワフルさを感じてもらえるようなマンガでありたいなとはずっと思っています」

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』

新潮社 原作 彬子女王/漫画 池辺葵 1,540円
「命を吹き込むとはこういうことなのかと、ぞくぞくした」(彬子女王)。女性皇族として初めて海外で博士号を取得された彬子女王殿下。一人で街を歩く心地よさと寂しさ、論文に追われた日々、支えてくれた友人たち――英国での苦しくも輝かしき青春を『ブランチライン』の池辺葵が繊細な筆致で描き出す。殿下の特別エッセイも収録。

彬子女王殿下【原作】

1981年、故寬仁親王殿下の第一女子として生まれる。学習院大学在学中及び卒業後に、英国オックスフォード大学マートン・コレッジに留学し、女性皇族として初めて博士号を取得(専攻は日本美術)。京都産業大学日本文化研究所特別教授、一般社団法人心游舎総裁などを務める。著書に『赤と青のガウン オックスフォード留学記』『飼い犬に腹を噛まれる』(PHP研究所)、『京都 ものがたりの道』(毎日新聞出版)、『日本美のこころ イノリノカタチ』(小学館)、『日本文化 寄り道の旅 』(扶桑社)などがある。


池辺葵【漫画】

2009年デビュー。同年より、『繕い裁つ人』(講談社)の連載を開始(のちに映画化)。14年、『どぶがわ』(秋田書店)で第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞。この年、『プリンセスメゾン』(小学館)も連載開始。18年、『ねぇ、ママ』(秋田書店)で第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。ほかの代表作に『かごめかごめ』(秋田書店)、『雑草たちよ 大志を抱け』(祥伝社)などがある。現在、『FEEL YOUNG』(祥伝社)で『ブランチライン』を連載中、2024年12月より小説新潮で、2025年1月よりくらげバンチで『赤と青のガウン』の漫画版連載をはじめる。

文=三浦天紗子

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