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「ホラーじゃないのにどんなホラーよりも怖い…」「自分ならどうする?」賛否両論の問題作『廃用身』、その“衝撃の正体”を、鑑賞直後の観客たちの生の声からひも解く

  • 2026.5.9

現役医師で小説家の久坂部羊のデビュー作にして、そのあまりにも強烈な設定から“映像化不可能”とまで言われたヒューマンサスペンスを、染谷将太主演で実写映画化した『廃用身』が5月15日(金)より公開される。それに先駆けて開催されたMOVIE WALKER PRESS試写会で鑑賞直後の観客約100名にアンケートを実施したところ、「いまの気持ちに一番フィットするのは?」との質問に対し、「リアルに考えさせられた」が一番多く選ばれ、「善悪、是非の境界線が崩れた」、「衝撃すぎて言葉を失った」などと衝撃を受けた観客が続出。

【写真を見る】老人の不要な手足を切り刻む…“ダルマ”と化した患者はいったいなにを思う…?

衝撃を受けた人が続出した映画『廃用身』でのアンケート結果
衝撃を受けた人が続出した映画『廃用身』でのアンケート結果

そこで本稿では、観客たちの鑑賞直後の生の声を賛否両論どちらもピックアップ。正解のない問いを突きつけ、多種多様な捉え方ができる本作の“衝撃”の正体をひも解いていこう。

鑑賞後に議論したくなる?不要な手足”を切断する“Aケア”の是非をめぐって様々な意見が噴出

タイトルにある“廃用身”とは作中の造語で、麻痺などによって回復の見込みがない手足のこと。ある町のデイケア「異人坂クリニック」に通うお年寄りのあいだで密かに広まっているのは、院長の漆原(染谷将太)が考案した画期的な治療法“Aケア”。従来の常識を覆す“身体のリストラ”を選択した患者たちには、予想外の好ましい副作用が現れる結果に。その噂を聞きつけた編集者の矢倉(北村有起哉)は、漆原に本の出版を持ちかける。しかしその矢先、患者宅でとある事件が起き、すべてが暗転していくことになる。

「あまりにもリアルで現実に起こりそうなエピソードばかり。本当にこんなことがどこかで起こっているかもと思わせる迫力がありました」(60代・女性)というコメントからもわかる通り、本作の最大の特徴は、映画のなかの話だと割り切って観るのが難しいほど生々しく“現実”を突きつけてくる点。作中で描かれる高齢者の“不要な手足”を切断する「Aケア」の是非をめぐって、「リアルに考えさせられた」と回答する観客が多く見受けられた。

「メリットよりその後のデメリットの方が大きいという現実と、介護問題への解決の糸口と思われたものがより強い混沌を生み出してしまう」(20代・男性)

「不要な部分を切断するといって幸福になるとは限らないし、境界線の危うさがリアルだった」(30代・男性)

「ホラーじゃないのにどんなホラー映画よりも怖かったです」(30代・男性)

「倫理観を揺さぶられるような設定のリアリティに引き込まれる」(50代・男性)

漆原が考案した“Aケア”は、正しいものなのか? [c]2025 N.R.E.
漆原が考案した“Aケア”は、正しいものなのか? [c]2025 N.R.E.

麻痺によって動かせることができなくなった“廃用身”を切断するという“Aケア”。本作の根幹ともいえるこの“画期的な治療法”についても「映画でもあったように同調圧力で切断してしまう人が出てきそう」(20代・男性)や「人としての道徳に反する」(50代・女性)などの慎重な意見が飛びだすなど、観客のあいだで議論が巻き起こっていた。

“Aケア”に「賛成」だと回答した観客でも「当事者がはっきりとAケアの良い面、悪い面を理解した上でなら良いのでは…」(20代・男性)や「合理的である。ただ、心のケアも必要だと思う」(30代・男性)と、条件付きで賛成する観客がほとんど。全体の半数を占める観客が、その是非に関して「わからない」と回答している。

「あくまでも当人らの判断であるべきで、賛否両面あるべきことだと思う」(30代・男性)

「良い面も苦しい面も両方含まれていると思うので、当事者と家族で受け取り方も違うと感じる」(30代・男性)

「合理的ではあるが、感情が追いつかない」(30代・女性)

「気軽に賛成とか反対とか言えないなと思ったので、原作を読んで今一度向き合いたいです」(30代・女性)

劇中ではAケアの手術を受けた患者たちに“好ましい副作用”が起きているが… [c]2025 N.R.E.
劇中ではAケアの手術を受けた患者たちに“好ましい副作用”が起きているが… [c]2025 N.R.E.

と、様々な意見が飛び交うなかには、 「身内の四肢がなくなることに忌避感がある。ただ、ケアする側になったらわからない」(30代・男性)や、「合理的でいいと思いますが、いざ自分のこととなると迷うと思います」(40代・男性)、 「介護の経験はないのでわからないけど、自分が当事者で苦しんでいたら選択する可能性もあると思った」(30代・女性)など、自分ごととして見つめ直すと意見が変わるかもしれないという声も見受けられた。

染谷将太演じる漆原に、賛否両論が巻き起こる!

「異人坂クリニック」の院長、漆原糾を演じた染谷将太 [c]2025 N.R.E.
「異人坂クリニック」の院長、漆原糾を演じた染谷将太 [c]2025 N.R.E.

賛否両論うずまく本作で、特に観客を二分したのが主人公の漆原が“善人”なのか“悪人”なのかという解釈である。介護が患者本人にとってもその家族にとっても大きな負担になっているなか、コスパの良い介護を目指して“Aケア”を考案する漆原。医療の限界を超えたいと強く訴え、自身の思い描く理想を追い求めるあまり危うい領域へと踏み込んでしまう人物として描かれている。

「老人のために次々と手足を切断し、なにも感じていない様子が怖かった」(40代・女性)

「本人は善意として、患者のその後を想像できていないのに怖さを感じた」(30代・男性)

「医者として善良であるが、完璧主義者で利己的。自分の思う通りに支配できる力もあり、そのことに無自覚であるがゆえに自分のなかにあった悪意と向き合うと途端に崩れてしまう弱い人間」(30代・男性)

「過剰な前向きさと、自分の過去にした行いを忘れているところが自分の正しさを過信していると思った」(20代・女性)

「自分のAケアに対する絶対的自信。瞳の奥に狂気が見えた」(30代・女性)

理想を追求するあまり、危うい領域へと踏み込んでしまう漆原 [c]2025 N.R.E.
理想を追求するあまり、危うい領域へと踏み込んでしまう漆原 [c]2025 N.R.E.

このように“漆原否定派”の声で目立ったのは、「怖さ」や「狂気」という言葉。一方で、「決して悪魔ではなく、患者とその家族を考えての行動であり、応援したくなる医師」(50代・男性)や「もっと深く彼のことを知りたくなりました。好きです、自分は…」(30代・女性)などのように全面的に賛同する声は少ない。大多数を占めていたのは、 「漆原の考えは一理あると思いつつ、いきすぎたところもあるのかも…」(40代・女性)のように、「ある程度の理解はできるが…」と善悪決めかねるという評価だ。

「患者想いであることに嘘はないように思えた」(40代・女性)

「漆原の説得力に思わず唸ってしまい、これ本当にやってみるのありなのでは?と思ってしまった自分にちょっとゾッとしています」(20代・男性)

「患者想いなことは間違いなかったです。その手法が正しいのか、というだけで」(30代・男性)

「善人と悪人の2種類に単純に分類することは難しいと思いますが、漆原はどっちだったのだろうとずっと考えてしまいます」(20代・女性)

“善人”か“悪人”か?染谷将太演じる主人公の曖昧で複雑なキャラクターに賛否両論! [c]2025 N.R.E.
“善人”か“悪人”か?染谷将太演じる主人公の曖昧で複雑なキャラクターに賛否両論! [c]2025 N.R.E.

冷徹なように見えて、決して完璧ではない人間くさい一面ものぞかせる漆原。ホラーやサイコスリラーでよく見られるようなマッドサイエンティストとは異なる複雑なキャラクターだからこそ、作品全体を通して描かれるテーマを含めて多くの議論を後押ししているのであろう。もちろん、独特の空気感でこの漆原を演じ抜いた染谷の演技にも賞賛の声が多数寄せられていた。

「染谷将太の演技によって、その曖昧さがより際立っていた」(30代・男性)

「淡々としつつも説得力のある、染谷将太さんのお芝居に引き込まれました」(40代・男性)

「漆原役が染谷将太で良かったと思いました。むしろ染谷さんじゃないとあの漆原はなかったのかと思います」(40代・女性)

岩上の事件を知った直後の発言に、“狂気”を感じる観客も… [c]2025 N.R.E.
岩上の事件を知った直後の発言に、“狂気”を感じる観客も… [c]2025 N.R.E.

そんな漆原の人間性をよく表したシーンといえるのが、映画の中盤、漆原が考案した“Aケア”で人生を取り戻したはずの患者、岩上武一(六平直政)が起こしたある事件だ。事件を知った漆原は、矢倉にこう話す。「やりたいことをできるようになったという意味では、Aケアの効果があったと思うんです」。

映画の大きなターニングポイントともいえるこの一連に、衝撃を受ける観客が続出したことは言うまでもないだろう。「六平さんの演技が圧倒的でした」(20代・女性)という岩上役を演じた名バイプレイヤー六平の迫真の演技への賞賛と共に、このシーンについても様々な声が寄せられていた。

物語の重要な部分を担う患者の岩上武一を演じた六平直政 [c]2025 N.R.E.
物語の重要な部分を担う患者の岩上武一を演じた六平直政 [c]2025 N.R.E.

「ショッキングな展開があるが、決して現実離れしたことでもないだろうと思った」(50代・男性)

「幸せになれたと思っていたのですが、考える余力、体力があることが幸せにつながるわけではないと思い知らされた。思考が戻ることは、幸せだけではなく負の面も同時に戻ってくるリスクがあると思った」(30代・女性)

「悲しみより怒りより、これで解放されるんだという安堵の気持ちに胸が締め付けられました」(30代・女性)

「観なければならないと思わせるものがあった」現場を知る観客も賞賛するリアリティ

日本社会の喫緊の課題ともいえる“介護” [c]2025 N.R.E.
日本社会の喫緊の課題ともいえる“介護” [c]2025 N.R.E.

今回の試写会に参加した観客は10代から60代までの幅広い世代の男女約100名。「現実的な側面もありつつ、どこか他人事のように俯瞰で見ている自分が怖かった」(10代・女性)というコメントもあるように、“介護”は10代や20代の若い世代にとってはまだそれほど身近なものではない。しかし年齢が上がるにつれて、親の介護を経験したという声や、自身の将来について憂慮する声が目立つようになり、それぞれが“自分ごと”として捉えていたことが窺える。

「怖すぎる…。老いていくことが避けられない自分の親、自分も含めて未来が怖くなった」(40代・男性)

「日本の日常(どの家庭にもある介護)の延長のなかの出来事に感じられ、自分ごと、身近に感じた」(30代・女性)

「自分も同じ立場になったら、同じようにしてしまうのではないかと怖くなった」(40代・男性)

「昨年まで義母を介護していたので、あまりのリアルさに恐ろしい気持ちが非常に大きいです」(50代・女性)

「自分や家族の未来にあるかもしれない状況で、いざ自分に起こったらどのような決断をするのか、考えさせられた」(40代・女性)

患者本人や家族の負担など、介護現場のリアルが描写されている [c]2025 N.R.E.
患者本人や家族の負担など、介護現場のリアルが描写されている [c]2025 N.R.E.

実際に介護や医療の現場で働いている観客からは、患者やその家族が抱える悩みを的確に描いているといった旨のコメントも。また、これからそうした職に就こうと考えている人や、介護の当事者になるかもしれない人など、本作をきっかけに現状の課題に真摯に向き合う覚悟をあらためて持ったという声も多く見られた。

「理学療法を学んできた身として、本人・家族・医療従事者の思いや葛藤がとても理解できるし、現場の難しさを感じました」(20代・男性)

「老年に対する医療とはなにか、考えさせられた。いま医療の勉強をしているなかで、終末期医療により興味を持った」(20代・女性)

「目を背けたくなる内容だが、観なければならないと思わせるものだった」(20代・男性)

このように、フィクションのできごととして考えるだけでなく、介護する側になるか介護される側になるのかを問わず、自身の未来に置き換えて深く考えるきっかけを与えてくれる本作。 「『自分ならどうするか?』という重い問いを突きつけられるので、見終わった後に誰かと語り合いたくなりました」(50代・男性)という感想にもあるように、観終わった後に身近な人と議論を交わしてみるというのも本作の味わいかたの一つなのかもしれない。

MOVIE WALKER PRESS試写会の上映後に行われた、原作者&監督のトークショーの模様 撮影/成田おり枝
MOVIE WALKER PRESS試写会の上映後に行われた、原作者&監督のトークショーの模様 撮影/成田おり枝

今回のMOVIE WALKER PRESS試写会では、上映終了後に原作者の久坂部と、メガホンをとった吉田光希監督によるトークショーも行われた。そのなかで久坂部は、自身が医師として多くの患者とその家族に向き合った体験から本作が生まれたことを明かし、大学時代に原作小説と出会った吉田監督は、その時に受けた衝撃について振り返っている。

観客からは「この映画が始動する起点や、実話と近しいものもあったと知ることができ、より本作が現実の延長線上のように思えた」(10代・女性)や 「一種の答え合わせのようで考えをまとめながら、興味深く感じています。より深く作品に入り込めます」(30代・男性)という感想も。映画の鑑賞後にレポート記事をチェックすれば、本作をより深く理解することができるはずだ。

鑑賞後には誰かと語り合いたくなること間違いなし [c]2025 N.R.E.
鑑賞後には誰かと語り合いたくなること間違いなし [c]2025 N.R.E.

「SNSで簡単にエコーチェンバーに陥ってしまうこの時代だからこそ、決して偏ることのない、そして自分自身の深淵にも囚われないようにするためより多くの人に観てほしい作品だと思います」(30代・男性)

「生きるということはどういうことなんだろうかと、改めて問われた気がします。この答えはずっと考えていかなければならないと思います」(40代・男性)

「この先を生きることが少し怖くなってしまいました。でもだからこそ、いまを精一杯生きていかないといけないと思いました」(40代・男性)

と、現実と地続きのテーマから、様々な側面から「生きること」そのものについて深く向き合わせてくれる映画『廃用身』。是非とも劇場で、その衝撃をしっかりと受け止めてほしい。

文/久保田 和馬

※吉田光希監督の「吉」は「つちよし」が正式表記

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