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呼吸は”脳のクセ”を反映、「指紋」のように個人を特定できる

  • 2026.4.13
鼻呼吸には「あなたらしさ」が刻まれている / Credit:Canva

呼吸は、あまりにも当たり前すぎて意識することすらない行為です。

しかしある研究によって、この「無意識の呼吸」が、まるで指紋のように一人ひとり異なる“個性”を持っていることが明らかになりました。

しかもその違いは、体格だけでなく、不安や気分の傾向とも関係している可能性があるというのです。

この発見を報告したのは、イスラエルのワイツマン科学研究所(Weizmann Institute of Science)のチームです。

彼らは鼻を通る空気の流れを24時間にわたって測定し、その長期的なパターンが個人ごとに固有なのかを調べました。

研究は2025年6月12日にオンライン公開され、科学誌『Current Biology』に掲載されています。

目次

  • 呼吸は「脳のクセ」を映しているのか?
  • あなたの呼吸には、心と体の「あなたらしさ」が刻まれている

呼吸は「脳のクセ」を映しているのか?

呼吸は単なる空気の出し入れのように見えますが、その裏では非常に複雑な仕組みが働いています。

呼吸のリズムは脳幹を中心とする神経回路によって自動的に生み出されますが、それだけではありません。

体内の状態、姿勢、行動、そして意識的な調整までが重なり合って、その人らしい呼吸の流れが形づくられています。

研究チームはここに注目しました。

脳の働き方が人によって少しずつ違うなら、その出力のひとつである呼吸にも、個人ごとの特徴が現れるのではないかと考えたのです。

特に鼻呼吸は、左右の鼻で空気の通りやすさが入れ替わる「鼻周期」など、脳の調整が表れやすい仕組みを持っています。

そこで研究チームは、鼻呼吸を長時間にわたって記録できる小型の装置を開発しました。

参加者は18〜35歳の健康な成人100人で、最終的な解析は97人分のデータで行われました。

装置は首の後ろに装着し、鼻には細いチューブをつけて、左右それぞれの鼻を通る空気の流れを24時間連続で測定します。

参加者はその間、ふだん通りに生活し、睡眠や日中の活動も記録しました。

研究者たちは、この長い呼吸記録を細かく分け、吸う長さ、吐く長さ、吸う量、呼吸の合間の止まり方、左右差など、さまざまな特徴を数値として取り出しました。

そして、その組み合わせから「その人らしい呼吸パターン」を読み取ろうとしました。

その結果、全体として約96.8%という非常に高い識別精度で個人を識別できました。

しかも、こうした特徴は一時的なものではなく、時間がたってもかなり安定していました。

では、人の鼻呼吸はそれぞれどのように異なっているのでしょうか。より詳細な結果を見てみましょう。

あなたの呼吸には、心と体の「あなたらしさ」が刻まれている

研究ではまず、この呼吸パターンがどれほど安定しているかが調べられました。

参加者のうち42人は、数日後から最長で約23.5か月後にもう一度測定を受けました。

その結果、最初の日のデータを学習したモデルは、2回目の測定でも高い精度で同じ人物を見分けることができました。

覚醒時でも、睡眠時でも高い識別率が得られています。

つまり呼吸パターンは、その日の気分や偶然の揺れだけで決まるものではなく、かなり長く保たれる個人特性だと考えられます。

さらに研究では、呼吸が心や体の状態とも結びついていることが示されました。

たとえば睡眠中には、起きているときよりも吸い込む空気の量や1分あたりの換気量が減り、左右どちらの鼻がより通りやすいかという鼻の交代パターンが、よりはっきり表れました。

呼吸の記録だけから、いま眠っているか起きているかをかなりの精度で区別できたのです。

また、体格指数(BMI)との関連も見つかりました。

さらに、参加者が答えた質問票との比較では、不安傾向や抑うつ傾向、自閉スペクトラム関連特性の一部と、呼吸の特徴量のあいだに統計的な関連がありました。

たとえば不安傾向が高い参加者では、睡眠中の息の吸い込みがやや短く、息の合間の止まり方にもばらつきが見られました。

この研究の意義は、呼吸を単なる肺の働きとしてではなく、脳の呼吸制御のクセを読み取る材料として扱った点にあります。

将来的には、こうした長時間の呼吸計測が、心身の変化を負担なく追いかける方法につながる可能性があります。

ただし課題もあります。

今回の装置は鼻の下にチューブをつける必要があり、日常的に使うにはまだ目立ちます。

睡眠中にずれてしまうこともあり、口呼吸は十分に拾えません。

また、この研究は観察研究なので、「こういう呼吸だから不安になる」といった因果関係までは分かっていません。

今後は、より使いやすい装置の開発や、より幅広い年齢・状態の人を対象にした検証が必要になります。

あなたが何気なく繰り返しているその呼吸には、「あなたらしさ」が刻まれているのです。

参考文献

Your breathing pattern is as unique as a fingerprint
https://www.psypost.org/your-breathing-pattern-is-as-unique-as-a-fingerprint/

Humans have unique breathing “fingerprints” that may signal health status
https://www.eurekalert.org/news-releases/1085739

元論文

Humans have nasal respiratory fingerprints
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.05.008

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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