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『チェンソーマン』担当編集・林士平「いつかお会いしてみたい」と思っていた9人との語らい。佐久間宣行、ダウ90000蓮見などクリエイターの仕事論に迫る【インタビュー】

  • 2026.4.10

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人気漫画『青の祓魔師』『ルックバック』『この音とまれ!』の立ち上げに携わり、現在は『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』などを担当するフリーの編集者・林士平。そんな林さんの初の著書となる『9人の「超個性」 プロの新仕事論』(双葉社)が3月に発売された。自身のポッドキャスト「林士平のイナズマフラッシュ」の過去の放送から、数々の著名人たちが語る「仕事論」を抜粋してまとめられたこの本。世のクリエイター必読のその内容について、お話をうかがった。

クリエイターたちのバッググラウンドを知りたいという思いが最初にありました

――そもそものお話になりますが、ポッドキャスト「林士平のイナズマフラッシュ」がスタートした経緯をお聞かせいただけますか?

林士平さん(以下、林):始まったのが2年ほど前で、とあるイベントでラジオディレクターの石井玄さんにお会いし、「ポッドキャストをやってみたら?」と言っていただいたのがきっかけでした。とはいえ、僕にとってはまるで経験のなかったことでしたので、「石井さんが一緒に作ってくださるのであれば」と返答し、そのまま実現することになったんです。

――毎回多彩なゲストが登場して話題を呼んでいますが、人選はいつもどのように決めているのでしょう?

林:基本的には石井さんと相談しながらです。でも、今のところはほとんどが僕の友人か知人で、ときどき“いつかお会いしてみたい”と思っていた方にご登場いただいています。でもそれが結果的にプラスに働き、見事に業種がバラバラな方たちばかりになっているなと感じますね。

――最初のゲストは本書にも登場されている津田健次郎さんでした。これは最初から決めていたのでしょうか?

林:いえ、そこまで大きなこだわりがあったわけではないです。津田さんとは仕事で以前からつながりがあり、ずっと「飲みに行きましょう」と話していたのに、なかなか実現できずにいたんです。“それなら仕事にしてしまえ”と思い(笑)、最初のゲストとしてお呼びしました。それに、津田さんはもともと映画監督を目指されていたクリエイター寄りの方ですし、今では俳優・声優として活躍されているので、いろんな視点を持っていらっしゃる。今振り返ると、一組目のゲストに本当にピッタリだったなと思います。

――普段から面識がある方々が多いとはいえ、やはり配信を前提にしたトークとなると緊張もされるんですか?

林:ちょっとだけしますね(笑)。特に、今回の書籍で言えば脚本家の野木亜紀子さんだけ初対面でしたので、すごく緊張しました。また、風間俊介さんとは随分古くからの付き合いになるのですが、彼とは真面目に仕事の話をしたことがなかったので、その意味では新鮮でした(笑)。反対に、映画プロデューサーの山田兼司さんは普段からとても情熱的で、真っ直ぐな方なんです。ですから、収録のときもいつもと変わらず、同じテンションでお話ができたように思います。

――どのゲストとも毎回互いの深い部分まで潜り込んでいて、とても聴き応えがあります。

林:4時間も話しているので、どんどん素が出てくるんですよ。余所行きの顔だけじゃもたなくなりますから(笑)。それに、収録自体は2時間の対談を2か月に分けて録っているんですね。そこがこの「イナズマフラッシュ」のいいところでもあって。1か月空くと、新たに聞きたいことが湧いてくる。だからこそ、普段とは違う一面を引き出せているというのもあると思います。それに、この対談では大前提として、皆さんが今の地位に就くまでに、どのようなバッググラウンドがあったのかを知りたいという思いが強いんです。それぞれに仕事に対する確固たるスタンスやこだわりもありますのでどんどん深掘りして訊きたくなるし、そのたびに僕も多くの刺激をいただいていますね。

それぞれの分野の現場の話から見えてくるもの

――本書にはタイトルに「プロの新仕事論」とあります。こうしたテーマもポッドキャストを始めるときからすでにあったのでしょうか?

林:いえ、全くそんなことはないです(笑)。スタート時にあったのは、純粋に僕が好きな人や気になっている人とお喋りがしたいという想いだけでしたから。なので、普段から番組を聞いてくださっているリスナーさんなら分かると思うのですが、そんなに真面目な話ばかりはしてないんですよね。ただ、皆さんの生き様などをうかがっていると当然お仕事の話につながっていくし、今回の書籍ではその部分をクローズアップした構成になっているんです。

――なるほど。では、皆さんとの会話の中で特に印象に残っているエピソードはありますか?

林:どれも非常に興味深いものばかりでしたが、強く記憶に残っているという意味では、糸井重里さんがおっしゃった「株式上場はお金稼ぎだけが目的じゃない」という言葉。株主総会についても、「会社が今後どうなっていくのが一番いいかを、みんなで考える場所にしたい」とお話しされていて。ちょうど僕が個人で会社を設立した時期だったこともあり、「株式上場って、一体何のためにするんですか?」と無邪気に質問してしまったんです(笑)。でも、それに対する糸井さんのお答えが「みんなで楽しむため」というものでしたので、“そういう考えもあるのか!”と驚いたのを覚えています。

――本書を読むと、林さんは山田兼司さんやドラマプロデューサーの佐野亜裕美さんの言葉にも強く共感されていましたね。

林:そうでした。仕事の打ち合わせの仕方が似ていたんですよね。お二人ともプロデューサーという仕事柄、“相手から話を引き出すプロ”でもある。矢継ぎ早にいろんな角度の質問を相手に投げ、そこから作品の方向性を膨らませていくというやり方がとても勉強になったんです。また、映画とドラマというゴールの違いはあるにせよ、まわりのスタッフとともに物語を作り上げ、さまざまなアイデアを作品に落とし込んでいくといった手順自体はとても近い。そのプロセスも非常に面白く、多くの脚本家や監督がお二人と一緒に仕事をしたくなる理由がよく分かりました。

――他業種の方とお話をするからこそ、林さんが自分自身の仕事を客観的に見つめられることもあるのではないでしょうか?

林:それはすごくあります。たとえば、映画もドラマもバラエティも本当に多くの人が一つの作品に携わっていらっしゃいますよね。出版も同じではありますが、僕個人の仕事で言えば、作家さんと2人だけか、多くても数人で打ち合わせをする場合がほとんどなんです。ですから、その違いは結構大きく、一人ひとりと携われる密度も異なるんだなと感じました。ただ、先ほどもお話ししたように、映像のお仕事をされている方々が、脚本家をはじめ、監督やプロデューサーたちとどんな作品にしていくかを模索する作業自体は、僕の仕事とも大きな差はないなと思います。

皆さんに共通しているのは仕事を楽しむ姿勢と生命力の強さ

――では、反対に“まるで違う世界だ”と感じた方はいらっしゃいますか?

林:テレビプロデューサーの佐久間宣行さんの仕事の仕方は全然参考にならなかったです。これ、褒め言葉ですよ(笑)。新しいタレントの見つけ方やトレンドの先見性も含め、番組への取り組み方がものすごく独特で。きっとテレビ業界の人ですら、「そんな作り方、聞いたことない!」と驚かれるんじゃないかと思います。ですから、僕の中で佐久間さんの仕事術を真似することはないです(笑)。それよりも、常にフルスロットルで働かれている方なので、佐久間さんが次にどんなものを生み出すのか、ひとりのファンとして見届けたいという気持ちのほうが強いですね。

――アイデアの多彩さでは「ダウ90000」の蓮見翔さんの仕事術も印象的でした。

林:ポッドキャストで対談をさせていただいたときは、「岸田國士戯曲賞を絶対に獲らないといけない」とお話しされていて、実際に今年(2026年)受賞されていましたね。有言実行でかっこいいです。蓮見さんとの会話で面白かったのは、散歩をしながら湧き上がってくるアイデアを片っ端からメモするものの、それをすぐに使い切るから、常にストックがない状態だとおっしゃっていたこと。にもかかわらず、毎回違った着眼点で斬新な作品を生み出している。対談当時、きっと蓮見さんにとっては、視界に入ってくるもの全てがネタになるんだろうなと感じたのを覚えています。

――なお、本書ではポッドキャストのディレクターである石井玄さんとの特別対談を含め、9名の方との対話が収録されています。どなたも各分野の第一線で活躍されている方ばかりですが、皆さんに共通しているのはどんなところだと感じましたか?

林:やはり生命力の強さですね。皆さん、すごくタフです。ずーっと働いているし、それが生きる力にもつながっている。なかでも、糸井さんは仕事を仕事だと思わず、楽しんでいらっしゃる。“ワークライフバランス”という言葉を使って、「そもそも“ワーク”と“ライフ”を分けて考えているのがおかしい」とおっしゃっていたのも印象的でした。そうじゃなく、「“ライフ”の中に“ワーク”を入れるべきだ」と。

――林さんも、糸井さんのその言葉に賛同していらっしゃいました。

林:そうでしたね。僕も今回の書籍のゲラを読んだとき、“あー、こんなことを言ってたのか”と思い出すことが多かったです。

――そんな他人事のように(笑)。

林:すみません(笑)。でも、言い訳するわけではないのですが、この本に載っている言葉はポッドキャストの対談中の勢いで発言していることも多く、自分でも忘れている内容が多いんです。それもあって、ゲラを読み返していてもどこか他人事のようであり、それでいてうまく客観視できない自分がいました。

――ポッドキャストを始めた当初は、本にしたいという思いはなかったのでしょうか?

林:全くなかったです。ですから、こうして一冊にまとめられると、どこか小っ恥ずかしさがあるのは否めないです(笑)。そもそも前職の出版社を辞めてから、すぐに僕の名義で出す書籍をはじめ、いろんなお仕事のオファーをいただいていたんですね。でも、全部断っていたんです。“あいつ、ちょっと調子に乗ってるな”と思われるのもイヤですし(笑)。ただ、このポッドキャストに関しては、僕自身というより、番組に携わるスタッフの皆さんにとって何かしら有意義なことになればという思いで始めたものでした。だからこそ、せっかくこうして本になった以上、多くの人の目に留まることを願っています。今の時代、映画やドラマ、小説、漫画など、いろんなエンタメが身近になり、その業界に興味を持っている方もたくさんいると思うんです。でも、そこに分かりやすいHow toはなく、10人いれば10通りのやり方がある。そうした違いなどもたくさん語られていますので、いろんな業界を覗き見するような感覚で楽しんでいただければなと思います。

取材・文=倉田モトキ、撮影=後藤利江

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