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「堀海登さんと佐藤友祐さんはケンカップルの対等な関係を表現してくれた」ドラマ化で話題『フェイクファクトリップス』末広マチが語る原点【インタビュー】

  • 2026.4.23

仕事はできるのに恋愛スキルは高校生以下。そんなふたりが「先に落とした方が勝ち」という最高に頭の悪い恋愛勝負を始めたら……?

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末広マチさんのBLコミック『フェイクファクトリップス』(竹書房)が、このたび堀海登さん&佐藤友祐さんダブル主演でドラマ化されることに! 本作が生まれた経緯や見どころ、末広さんの創作術など、たっぷり語っていただいた。

どんなに頭のいい人でも、恋愛すると知能が猿並みに?

──このたびドラマ化される『フェイクファクトリップス』は、2021年に刊行され、続編『フェイクファクトリップス break』(竹書房)と合わせてシリーズ累計45万部を突破した人気作です。この作品が誕生したきっかけを教えてください。

末広マチさん(以下、末広):普段から映画を観たり、友達と会話したりする中で気になったワードをメモしておいて、それをヒントに新しいマンガを考えることが多いんです。ある時、テレビでメンタリストDaiGoさんが「どんなに頭のいい人でも恋愛するとIQが猿並みになる」と話していて。その瞬間、「これでBLマンガを描いたら面白いかも」と思い、メモしておきました。新連載が始まるタイミングでそれを思い出して、『フェイクファクトリップス』が生まれました。

──そこから「エリート営業マンの恋愛バトル」というテーマになったのは、どういう経緯があったのでしょうか。

末広:まずは≪恋愛するとIQが下がる≫をテーマに高校生・大学生・社会人それぞれのバージョンでプロットを作ってみたんです。その中で一番しっくりきたのが社会人でした。高校生や大学生だと、多少バカなことをしていても「まあ、そういうものかな」と思ってしまいますよね。

なので、普段はしっかり働いている大人が恋愛で一気に崩れるほうがIQが下がるというのがわかりやすいしギャップが大きくて面白くなりそうだなと思いました。

お互いプライドの高い大人同士の恋愛となると、お互い素直になれない。そこからライバルという設定が膨らみ、ケンカップル(いつも喧嘩ばかりしているカップル)の恋愛バトルになりました。

『フェイクファクトリップス』 (末広マチ/竹書房)
『フェイクファクトリップス』 (末広マチ/竹書房)

──それで現在の形になったんですね。主人公にあたる四ツ谷良(よつやりょう)と志藤全(しとうぜん)は、高校時代から因縁のライバルとして競い合い、同じ職場で再会してからも、営業成績を競い合っています。このふたりの関係性や性格設定は、どのように決めていったのでしょうか。

末広:対照的なふたりにすることは、最初から決めていました。受けの志藤全は、エリートでプライドが高そうな人物がいいなと思って、まず彼の人物像から考えました。攻めの四ツ谷良は、全と同じくプライドは高いのですが、性格は正反対にして対になるようにしています。

対比を強くしたほうが、お互いにないものを補い合う関係になって、恋愛に発展しやすいんですよね。共通点はあるけれど、それぞれに足りない部分を相手が持っているから惹かれ合う。そんな関係性が好きなんです。

──末広さんからご覧になって、このふたりはどんなところに魅力があると思いますか?

末広:良は他人から見るとかっこいいのに、好きな人の前ではかっこ悪くなってしまうところがすごくかわいいですね。私自身、そういう人間味に魅力を感じるので。

全はプライドが高いけれど、相手の前だけは素の自分になってしまう素直さがあります。ツンデレではありますが、ツンとしてしまうのも素直になれない反動。そういうギャップがかわいらしさにつながっているように思います。

『フェイクファクトリップス』より
『フェイクファクトリップス』より
『フェイクファクトリップス』より
『フェイクファクトリップス』より

──物語全体のプロットは、どのように組み立てていくのでしょうか。

末広:普段からプロットは細かく固めすぎず、ざっくり決めるだけにしています。この作品の場合、「落とし合いの勝負」というテーマがあったので、最初と最後は決めていましたが、途中はほとんど決めていませんでした。1巻完結のBLマンガだから、こういうフリースタイルな作り方ができるのだと思います。

最初からプロットを固めすぎると、その通りにキャラクターを動かそうとしてしまい、かえって不自然になることもあって。1話で出会って、2話で少し気になり始めて、3話でさらに意識していくという大まかな流れはありますが、具体的なエピソードや出来事は決めずに描きました。「1話でこう言っていたから、2話ではこうしよう」というように、過去の回を読み込んで展開を考えることが多いですね。

言わせたいセリフも考えてはいるのですが、流れとして不自然だったり、キャラクターの性格的に違和感があったりすれば、削るようにしています。無理に入れるよりも、自然な流れを優先するほうが大事だと思うので。

──『フェイクファクトリップス』で、描いていて楽しかったシーン、うまくいったと感じる場面はありますか?

末広:やっぱり口喧嘩のシーンが一番楽しかったですね。描いていると、自然とふたりが喧嘩を始めましたし、セリフも悩まず書けました。逆に恋愛パートは難しかったです。

あとは、この作品に限らず感情が大きく動くシーンは、描いていて楽しいです。今回で言うと、最終話は自分も没入しながら楽しんで描けました。

──最終話に向かうほど、筆が乗っていくのでしょうか。

末広:マンガを描くのは、他人と関係を築いていく感覚に近いんです。1話の時点ではまだ初対面。3話くらいになると少し打ち解けてきて、だんだん「このキャラはこういう人なんだな」と理解が深まっていきます。最終話では、一番仲良くなったという実感があるのですが、残念なことにそこで終わってしまうんですよね(笑)。

ただ、このふたりに関しては、最初から理解しやすかった気がします。どちらも根は真面目なのですが、そういうタイプは描きやすいんです。私自身、負けず嫌いなところがあって、共感しやすかったのかもしれません。

対等な関係をどう取り戻すか。ケンカップルならではの問題を描いた続編

『フェイクファクトリップス break (上)』
『フェイクファクトリップス break (上)』
『フェイクファクトリップス break (下)』
『フェイクファクトリップス break (下)』

──2023年には続編『フェイクファクトリップス break』が上下巻で刊行されました。本編の発売後、すぐに続編の制作が決まったのでしょうか。

末広:そうですね。ただ、続編の1話を書き始めるまでに約1年かかりました。私はこれまで、1巻完結のマンガしか描いたことがなくて。だからこそ、どの作品も後悔のないように、描きたいことをすべて1巻に詰め込んできました。そのため、続編のお話をお引き受けしたものの、何を描けばいいのかわからなくなってしまったんです。

続編を描くにしても、ふたりがただイチャイチャしているだけになるのも、この2人的に違う気がして。ふたりの間に問題が起こり、それを乗り越えたうえでさらに絆が深まる展開にしたいと思いました。その問題をどう設定するかなかなか決まらず、気づけば1年くらいずっと考えていました。

──その時点で、上下巻になることは決まっていたのでしょうか。

末広:いえ、最初は1巻に収めるつもりでした。ただ、描きたいことが多すぎて、1巻分のページ数では収まりきらなくなりました。丁寧に描こうとすると、どうしても長くなってしまうんですよね。

もちろん、ギュッと圧縮して詰め込むこともできたと思いますが、そうすると描きたかった要素を省くことになってしまいます。それがどうしてもできなくて。担当さんに頼んで、 描きたいところを全部描いたら上下巻になりました。

──「これは絶対に入れたい」と考えていた要素には、どのようなものがありましたか。

末広:1巻は「落とし合いの勝負」だったので、2巻ではまず何をテーマにするか考えました。大事なのは、ふたりが対等な関係であること。ケンカップルは、対等であってほしいと思うんです。この作品ではケンカップルだからこそ起きる問題、このふたりならではの衝突を描きたいと思いました。

そこで、1巻では対等に落とし合う関係だったふたりのバランスが崩れ、それをもう一度対等に戻していく過程を描くことに。お互いに対等でいたいから、ふたりで努力して関係を取り戻していく。それがふたりらしい続編だと思いました。

『フェイクファクトリップス break (上)』より
『フェイクファクトリップス break (上)』より

他には、仲直りしたあとにふたりが温泉に行くシーンも、しっかり尺を取って入れたいと思いました。BLマンガの旅行パートは「もう少し読みたい!」と思うところで終わってしまうものも多い気がして。今回は上下巻というボリュームになったことで、温泉旅行をじっくり描かせてもらえたので楽しかったです。

ドラマになってさらに際立つ、ふたりの対等な関係性

──そんな『フェイクファクトリップス』が、このたびドラマ化されます。最初に実写化が決まった時、どう思いましたか?

末広:内容が内容なので、驚きました。実写化を前提にしていたわけではないので、かなり自由に描きましたし、「これを実写化して大丈夫かな」という思いがあって。もちろんうれしさもありましたが、「え、これを?」という驚きのほうが強かったです。でも一度区切りのついた作品に再びスポットをあてていただけるのはすごくありがたい事ですし、これを機にもっとたくさんの方にFFLを知ってもらえたらいいなと思い、ぜひお引き受けしたいと思いました。

──ドラマの制作スタッフとは、どのようなやりとりがありましたか。

末広:スタッフの方々は、「原作の魅力をそのまま映像化したい」というスタンスでした。私もマンガと映像は別物だと捉えていますし、それぞれに適した表現があるという考え方です。ですから、「絶対にこうしてください」といった強い要望はありませんでした。

ただ、ラブコメ作品なので、コメディ感は大事にしてほしいというお話はしました。あまりしっとりしすぎてしまうと、ケンカップルの魅力が薄れてしまう気がして。「どちらかというと、コメディ感を強めにしてほしい」という点はお伝えしました。

『フェイクファクトリップス』より
『フェイクファクトリップス』より

──キャスティングについては、どのように感じましたか? 良役の堀海登さん、全役の佐藤友祐さん、それぞれの印象を教えてください。

末広:おふたりともイメージにぴったりだと思いました。メインビジュアルの再現度もとても高くて、それを見た時に「本当に実写化されるんだ」と実感が湧きました。

撮影現場も見学させていただいたのですが、堀さんはご本人の性格も含めて「すごく良っぽい」と感じました。全も良も私の想像から生まれたキャラクターですが、「もし良が実在したら、きっとこんな人なんだろうな」と思うくらい。明るくて人懐っこくて、現場でもずっと雰囲気を盛り上げていらっしゃいました。見学に行ったのが撮影終盤で、しかも夏の暑い中でのロケでしたが、それでも終始楽しそうで。私が写真を撮っていると、積極的に写り込んできてくださったりして、まさに良そのものでした。

佐藤さんは堀さんとは対照的で、少しミステリアスな印象がありました。ただ、普段はクールな雰囲気ですが、堀さんと一緒にいる時はよく笑っていて、ふざけ合っている様子も見られて。そのギャップを目の当たりにして、「全っぽい!」とうれしくなりました。

──全役の佐藤さんは、過去にBL作品でスパダリ男子(非の打ちどころのないスーパーダーリン)を演じたことがあるそうです。そういった経験も、今回の関係性の表現に活きていそうですね。

末広:先ほどもお話ししたように、ケンカップルにはやっぱり対等でいてほしいんです。受けと攻めという関係性はあっても、守る・守られる関係ではないし、どちらかが相手をリードするわけでもありません。お互いがお互いを大事に思い合っている関係であってほしくて。佐藤さんと堀さんが演じる全と良は、こうした対等な関係が自然に表現されていると思いました。その空気感が、ドラマではより伝わるんじゃないかなと思います。

──ドラマを楽しみにしているファンの方へメッセージをお願いします。

末広:マンガと実写はまた違う表現になると思うので、原作を読んでくださっている方も新鮮な気持ちで楽しんでいただけると思います。実写ならではの面白さや、新しい発見もあるはずなので、そこを味わっていただけたらうれしいです。

まだ原作を読んでいない方には、このふたりのケンカップルらしさを存分に楽しんでいただきたいですね。私も、喧嘩シーンがどう描かれているのか楽しみにしています。

BLマンガを読んで稲妻が走り、1年後にはプロデビュー

──ここからは、末広さんご自身のお話をお伺いします。そもそもBLに目覚めたきっかけは?

末広:社会人になって仕事にすごく疲れていた時期に、同僚がヨネダコウ先生のマンガ『どうしても触れたくない』を貸してくれたんです。読んだ瞬間、稲妻が走るような衝撃を受けました。それまでにもBLマンガを読んだことはありましたが、比較的ライトで明るく楽しめる作品が多かったんです。でも、ヨネダコウ先生の作品は、ストーリーにしっかり感情移入でき、「こういうBL作品もあるんだ」と強く惹かれたのだと思います。

そのままBLマンガを買いに行って転がり落ちるようにハマり、自分でも描くようになりました。

──読むだけでなく、ご自身でも描き始めたのはすごいですね。

末広:当時はクリエイティブ系の会社に勤めていて、趣味でマンガを描いている人が周りに多かったんです。私もBLマンガを読んでいるだけでは物足りなくなって、「自分でも描きたい」と思うようになりました。

もともとイラストは描いていたので、ペンタブなどの機材は揃っていましたし、環境としてはすぐに始められる状態でした。BLマンガを描く方も周りにいたので、描き方を教えてもらい、そのまま「じゃあイベントに出てみようか」という流れになりました。

──イラストとマンガでは必要なスキルも違いますが、ハードルは感じませんでしたか?

末広:ハードルはあったのかもしれませんが、描きたい気持ちのほうが圧倒的に強くて。気づいたら描いていたという感じです。

もともと妄想するのが好きで、子どもの頃からマンガを読んだあとにその先の展開を想像するのが楽しくて。今思えば、ずっと二次創作的なことをしていたのだと思います。それをそのままマンガに描くようになったという感じですね。

──最初に稲妻が走ってから、デビューするまでにどれくらいかかりましたか?

末広:衝撃を受けてから割とすぐに描き始め、1年後にはデビューしていました。2014年か15年頃にはもう描いていて、16年に最初のコミックスが出ています。

──凄まじいスピード感ですね。

末広:ハマると一直線なんです。当時は生活のほとんどをマンガを描く時間にあてていました。通勤電車の中でネームを考えて、帰宅したらそれを思い出して描くという日々でした。月1本はマンガを描いてイベントに出て……の繰り返し。まだ若かったので、かなりのハイペースで描いていましたね。

──創作活動において大切にしていることはありますか?

末広:BLに関しては、自分が萌えるかどうかを一番大事にしています。自分がいいと思えるかどうか。迷った時は、必ずそこに立ち返るようにしています。もともと感覚的に生きてきたタイプなので、マンガでも感覚を大切にしていますね。

──末広さんが萌えを感じるのは、どんなものでしょうか。

末広:プライドが高くてツンデレな人が素直になっていくところ、かっこいい人がかっこ悪くなるところが好きです。完璧に見える人が実は完璧じゃないとわかった時に、人間らしさやかわいらしさを感じて、グッと来るんでしょうね。ギャップや人間味に惹かれるのだと思います。

『フェイクファクトリップス break (下)』より
『フェイクファクトリップス break (下)』より

──先ほどヨネダコウ先生のお名前を挙げていましたが、末広さんの原点はどんな作品でしょうか。

末広:今、私が描いているBLマンガに影響を与えているかどうかはわかりませんが、原点となっているのは『カードキャプターさくら』(CLAMP/講談社)です。子どもの頃に初めて読んだマンガで、今でもずっと心の中にあります。作品の空気感や、見た目の好みも影響を受けている気がします。ちなみに好きなキャラクターは月(ユエ)です。

はまったのは比較的最近なのですが、『BANANA FISH』(吉田秋生/小学館)も好きでした。ケンカップルやプライドが高い人が素直になるところがかわいいと思うようになったのは、この作品の影響だと思います。李月龍(リー・ユエルン)というプライドが高いキャラクターがいて、普段は子どもとしての振る舞いが許されない環境で生きているのに、 シン・スウ・リンというキャラの前でだけは年相応にかんしゃくを起こすんです。それがもうグッと来て。ここ数年、私の根底にずっとある萌えですね。

──『フェイクファクトリップス』のふたりにも通じる部分がありますね。

末広:そうですね。お互いの前でだけは素の自分に戻ってしまうところは、共通していると思います。最近は、設定を変えながらも、根本的には似たテーマを描き続けている気がしますね。ただ、「これはこの前描いたから」と無理に変えようとすると、自分が萌えなくなってしまいます。好きなものを軸に、いろいろなバリエーションで描いているという感じですね。

また、『フェイクファクトリップス』あたりから、恋愛とキャラクターの成長を結びつけて描くようになりました。以前は両思いになることがゴールでしたが、最近はお互いが出会い、関わることによって成長していく過程も大事に描いています。

──この作品はモノローグが少なく、会話中心で進んでいきます。ふたりが会話を交わすことで関係が進み、それぞれ成長していく姿が印象的でした。

末広:ありがとうございます。もともとモノローグは少ないほうがいいと思っているタイプで、初期の作品はほとんど使っていないものもあります。

モノローグは感情を伝えるのに便利ですが、できるだけ会話ややり取りの中で気持ちを描いたほうがマンガとしては面白くなると思っていて。もちろん難しい時は頼ってしまうこともあるんですが、できるだけ減らすようにしています。

──今後の展望について教えてください。

末広:とにかく長く描き続けていきたいです。描きたいものが常に控えている状態なので、できるだけたくさん形にしていきたいですね。

──デビュー当時と変わらない衝動を、今も持ち続けているんですね。

末広:そうですね。ただ、考えることは増えましたね。以前はあまり迷いがなかったのですが、最近はキャラクターのセリフを描くにしても「こう言われたら相手がどう思うか」だけでなく、「読者さんはどう受け取るだろう」と考えるようになりました。この発言は、誰かを傷つけていないかという点を気にするようになったんです。あまり配慮しすぎると面白さが損なわれてしまうので、「このキャラなら絶対にこう言う」という部分は曲げないようにしていますが、読みながら「ん?」と引っかかるノイズはできるだけ減らしたいので、そのバランスは常に意識しています。

BLを描き始めた頃に比べると、さすがに勢いは落ち着いたと思いますが、情熱は変わりません。これからも、自分が萌えるものを描き続けていきたいです。

『フェイクファクトリップス break (下)』より
『フェイクファクトリップス break (下)』より

取材・文=野本由起

Ⓒ末広マチ・竹書房/「フェイクファクトリップス」製作委員会

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