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「韓国文化通信」Vol.34 ファッションデザイナー・Hyein Seo

  • 2026.4.6
ヘイン・ソ

ファッションを起点に、新たな文化を発信し続ける

——ファッションの世界に興味を持ったのはいつ頃ですか?

私がティーンエイジャーの頃、韓国ドラマの主人公はみんなファッションデザイナーでした。なので自然とファッションデザイナーってカッコいいなと思っていました。また、矢沢あいさんの『ご近所物語』などの日本の漫画や雑誌、J‒POPも大好きで、安室奈美恵さんのMVなどもよく観ていました。

その後、韓国の大学でファッションを学んでいたのですが、デザインの本質よりも実務的なスキルの習得が中心で物足りなさを感じており、デザインに没頭するためにベルギーのアントワープへの留学を決意しました。

——洋服を作ること以外でどんなカルチャーに興味がおありですか?

ファッションデザイナーというと服そのものに興味がある方も多いですが、服の周辺にあるイメージや文化圏を創造したいという方もいます。アントワープは後者の教育に長けていて、私も多様な文化に興味がありました。

特に読書が大好きで、もともと内向的な性格なので、家にこもって本を読む時間が何よりの幸せです。幼い頃から古典小説を読み漁(あさ)っていましたし、今でもジャンルを問わずたくさん読みます。今でも制作の起点は本であることが多く、物語を紡ぐようにコレクションを作っています。

——どんな物語からインスピレーションを得ていたのでしょうか?

例えば、デビュー作の2014 A/W「Fear Eats the Soul」というコレクション。これは、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の同名タイトルの映画(『不安は魂を食いつくす』)から引用していますが、この映画やガルシア・マルケスの『愛その他の悪霊について』などの南米文学やゴシックホラーに傾倒しており、インスピレーションを得ました。

コレクションを準備する際は、いつもその時興味がある小説や音楽、映画などを吸収し、物語を創造していきます。

——服をデザインする際に、大切にしていることを教えてください。

「服は人が着るもの」。つまり、実際に着て外に出られないような服は作らない。それが私の強みであり、ポリシーです。

アントワープはアバンギャルドな校風でしたが、すでに韓国で服作りの技術を習得してから留学したからか、どんなに服の構造をいじっても、体が持つラインを極端に逸脱した服は作れませんでした。それが自分の限界かと悩んだこともありましたが、恩師から「贈り物(ギフト)になる服だ」と言われ自信がつきました。

——2014年、学生時代にデビューし、すでに12年。〈HYEIN SEO〉はどのようなブランドだと言えますか?

デザイナーは、一つのスタイルをとことん突き詰めるタイプの人が多い気がしますが、私は多様なジャンルの物語を扱いたい。その時々の直感を大切にするタイプなので、大きな計画を立ててきたわけではありません。

あまりにも方向性が変わっているので、周りの人たちを混乱させているんじゃないかと不安になったこともありましたが、あるとき友達に「〈HYEIN SEO〉のイメージは甲子園に出場する闘志に燃える球児のようだ」と言われ、腑に落ちました。強い眼差しで、堂々と何かに立ち向かっていく態度や姿勢が想起されるのは嬉しいことです。

2025 A/Wのテーマ「Midnight Riders」のビジュアル。店舗はソウル特別市江南区鳥山大路25ギル15-3

——今後取り組んでみたいことを教えてください。

私自身、幼い頃にデザイナーが好む音楽や画家を追いかけて、自分の世界を広げてきました。ファッションの醍醐味は、多様な文化を内包し、大衆との懸け橋になれる点だと思います。

ミュウミュウが映画を支援し、プラダがアート財団を運営するように、私も韓国、ひいてはアジアのクリエイターたちが交流できる場を作りたいと考えています。ミュージシャンや作家、映像作家たちが集まり、領域を超えて相乗効果を生み出せるようなプラットフォームを作ることが目標です。

手始めとして、ブランド10周年で企画した本が、今春に出版される予定です。ブランドのアーカイブ本と、歴代コレクションをテーマに、小説家やミュージシャンら多様な方からの寄稿集の2冊セット。出版がとても楽しみです。

Hyein Seoが選ぶ、今の韓国を知る本

イ・サンウによる未邦訳の小説。タイトルは「ピム オレンジ色というか」。「2025 A/Wコレクションの発想源になった小説です。テキストを細かく裁断して、無作為に貼り合わせたような文章で、時間も空間も混ざり合って、どこにも存在しない世界。不思議で美しい」

profile

Hyein Seo(ファッションデザイナー)

ヘイン・ソ/アントワープ王立芸術アカデミー在学中から注目を集め、2014年にファッションブランド〈HYEIN SEO〉を立ち上げる。現代的なストリートウェアの視点と、アバンギャルドで反逆的なムード、辛口なユーモアで独特な世界観を放っている。

Instagram:@hyeinantwerp

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