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2023年WBCで魅せた“栗山マジック”の舞台裏。栗山英樹――WBC元日本代表監督の哲学のルーツは「三原脩」のノートにあった!?【書評】

  • 2026.3.31
WBC世界を制した采配の秘密 三原ノートと栗山メモ 三木謙将、金沢隆大/文藝春秋
WBC世界を制した采配の秘密 三原ノートと栗山メモ 三木謙将、金沢隆大/文藝春秋

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日本の野球の発展に大きく貢献した人物を顕彰する「野球殿堂」。今年、新たに野球殿堂入りを果たしたのは2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本代表監督を務め、「侍ジャパン」を14年ぶりの優勝に導いた栗山英樹氏である。

この3月に開催されるWBCを前に、あの手に汗握る名勝負の数々が思い出される――まさに絶妙のタイミングで刊行される『WBC 世界を制した采配の秘密 三原ノートと栗山メモ』(三木謙将、金沢隆大/文藝春秋)は、栗山氏の監督としての理論を築いたルーツ、そしてWBCをいかに戦ったかをひもとくノンフィクションだ。

2023年のWBC前後にNHKで放送されたドキュメンタリー「プロ野球 マジックの継承者たちⅠ・II」をもとに、番組には盛りこめなかった取材内容もたっぷり書きこんだ書き下ろし作品である。

まずは栗山氏の野球人としての足跡を簡単に紹介しておこう。1984年にドラフト外でヤクルトに入団。外野手としてゴールデン・グラブ賞も受賞したが、病気に悩まされ7年で現役引退。野球解説者として活躍ののち、2012年に北海道日本ハムの監督に就任する。指導者経験のない状態で監督に招聘されるのは極めて異例だが、その期待にみごと応えた。

1年目にリーグ優勝。2016年には日本一の栄冠に輝いた。2013年に入団した大谷翔平を賛否渦巻くなかで投打「二刀流」起用し、育成した功績は世界的に知られる。

番組制作に当たり、著者は栗山氏の監督哲学のルーツがどこにあるのかを探っていく。そして、古い雑誌の記事に、栗山氏が目標とする監督として「三原脩」の名を挙げているのを発見するのだ。

三原脩は戦後プロ野球の名将として語り継がれるレジェンドだ。常識にとらわれない采配、低迷するチームを驚異的な常勝軍団に生まれ変わらせる手腕は「三原マジック」と呼ばれた。

栗山氏は、三原が監督術を克明に記した「三原ノート」を最大の教えとしていたと判明。しかし、1984年に没した三原と栗山氏は面識がない。じつは、この「三原ノート」とは、三原が、彼の娘婿でもある中西太に託したもの。中西太は現役時代は「怪童」の異名をとるスラッガーであり、また監督、打撃コーチとしても名伯楽と謳われた人物だ。栗山氏が範を採る「三原ノート」は、中西から渡されたものだったのだ。

「三原ノート」にしたためられた監督の心得には、人を活かし育てるために必要なことが詳らかに書かれており、胸が熱くなる。そして、だれよりも深く野球を知りたいと熱望する栗山氏だからこそ、〈秘伝の書〉を手にするに至った――取材者によってその道筋が明かされていく過程もミステリーさながらの昂揚感を与える読み心地だ。

後半では、栗山氏が日本代表監督に指名されて以降、日々書き綴った門外不出の「栗山メモ」を軸に2023年のWBCの模様が語られていく。選手の選出、交渉、合宿に始まりWBCの一戦一戦の間に、栗山氏は何を考えていたのか。

稀代の名将から受け継いだ言葉を血肉に、鮮やかな「栗山マジック」を大舞台で披露した楽屋裏を垣間見て、新たな感動が押し寄せる。

世界最高のプレーヤーがひしめくアメリカを倒して優勝する。その目標を見据え、選手との信頼関係を築き、冷静に知略を巡らせる栗山英樹の頭脳と感性に肉迫した一冊。野球というスポーツ、人間の奥深さをしみじみと思い、球春の訪れにときめくのである。

文=粟生こずえ

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