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「要経過観察=様子を見ればOK」は勘違いだった。健康診断で出たら今すぐ受診して…医師が警告する、“数字の正体”とは?

  • 2026.4.17
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

健康診断の結果が届いたとき、そこに記された「要経過観察」という文字を見て、あなたはどのように感じますか? 「忙しいから」「今は特に具合も悪くないし大丈夫だろう」と、封筒を閉じてそのままにしてはいないでしょうか。

実は、私たちが自分の健康を後回しにしてしまう裏には、脳に備わったある「防衛本能」が深く関係しています。なぜ私たちは危険信号を前にして無意識に行動を止めてしまうのか。その心理的なメカニズムと、医学的なリスク、そして手遅れにならないために「明日からできること」を、麻酔科専門医の松岡雄治さんに伺いました。

なぜ「健康診断の結果」を放置してしまうのか? 脳に隠された意外な正体

---健康診断の結果で異常を指摘されても、「忙しいから」「生活に支障はないから」と受診を後回しにしてしまう人が多いです。なぜ私たちは、自分に不利益な行動をとってしまうのでしょうか?

松岡雄治さん:

「『自分は大丈夫』という脳の防衛本能(正常性バイアス)が働き、無意識に行動の変化を止めてしまうことが最大の要因です。その結果、対応が遅れて手遅れとなってしまうことがよくあります。

この『正常性バイアス』は一見デメリットが目立つようですが、実際にはパニックを防ぎ、心を守る上で重要な脳の働きでもあります。決してあなたが怠惰だからではありません。
特に健康診断の異常は自覚症状を伴わないことが多く、このバイアスがより強く働きます。『忙しいから』『生活に支障はないから』『あのときは寝不足だったから』などとそれらしい理屈をつけて受診を後回しにするのは、人間としてごく自然な反応なのです。
しかし実際には、『自覚症状がない期間』こそが、医学的には危険なカウントダウンです。

【要経過観察が手遅れを招くフロー】
・正常性バイアスで対応が遅れてしまうか、十分でない対応で終わらせてしまう
・例えば、高い血糖や血圧が、血管の内壁(内皮細胞)をヤスリのように傷つける
・傷からコレステロールが入り込み、プラーク(脂肪のコブ)を形成する
・血管が細く硬くなり、血流が徐々に悪化する(動脈硬化)
・血圧の急激な変化などでプラークが突然破れる
・できた血栓が血管を塞ぎ、心筋梗塞や脳梗塞を発症する(痛みや強い症状が現れる)

バイアスによって『気のせい』としている間にも、ダメージは確実に蓄積しています。上記のフローのように、最後に痛みや症状が現れるまで正常性バイアスがあなたの判断を妨げるおそれがあるのです。」

「要経過観察」は様子見ではない。見逃してはいけない危険信号とは

---放置すると危険な指標があるのでしょうか? また、よく目にする「要経過観察」という判定は、自分だけで様子を見ていても良いという意味なのでしょうか?

松岡雄治さん:

「特に警戒すべきは、『HbA1c 6.0%以上』『血圧130/80mmHg以上』『ALT 30U/L以上』の3項目です。

また、よく誤解されているポイントですが、健康診断の『要経過観察』は、医療従事者が経過を観察する必要があるということです。つまり、受診の上、生活指導等を受けて必要に応じて検査でフォローしてくださいということです。ご自身で様子をみてくださいという意味ではないことに気をつけてください。

【様子見が命取りになる3つの判定項目】

1. HbA1c 6.0%以上(糖尿病の予備群)
HbA1cは過去1~2ヶ月の血糖値の平均を表します。6.5%以上で糖尿病が強く疑われますが、6.0%〜6.4%でもすでに予備群です。動脈硬化疾患のガイドラインにおいても、この数値の上昇が心疾患の発症や死亡リスクを高めることが明確に示されています。

2. 血圧 130/80mmHg以上(高値血圧)
140/90mmHg以上で高血圧と診断されます。しかし、正常血圧(120/80mmHg未満)を超えて数値が高くなるほど、脳卒中や心筋梗塞、心不全などのリスクは高まることが明らかになっています。『まだ基準に達していないから』という油断は禁物です。

3. ALT(GPT) 30U/L以上(脂肪肝のサイン)
肝臓の細胞が壊れていることを示す数値です。『お酒を飲まないから大丈夫』は誤りです。放置すると脂肪肝炎から肝硬変、さらには肝臓がんへと進行する恐れがあります。

厳しい現実ですが、上記のように、実は大きな病気の入り口に立っているのです。『要経過観察』は、むしろ『ご自身で様子を見るだけでなく、ぜひこの話ができるパートナーを探してください』というメッセージなのです。」

完璧を目指さなくていい。「明日から」始める命を守るアクション

---健康診断の結果を突きつけられた際、まず何から始めればよいのでしょうか? 生活習慣を改善する自信がないという方も多いです。

松岡雄治さん:

「意外に思われるかもしれませんが、まず『受診の予約をすること』です。日常生活を劇的に変える必要はありません。完璧な生活習慣を目指すと、かえって挫折してしまいます。だからこそ、日頃の生活を変える前にぜひ今すぐに予約を取りましょう。
予約をして健康診断の結果を相談することから始めましょう。健康診断結果を元に、無理ない生活の介入方法を一緒に考えることが実は成功の秘訣です。談笑しながらマラソンを伴走するように、ぜひ気軽に声をかけてください。その上で、生活習慣の改善も図りましょう。

【明日からできる3つの行動】
・受診の予約を入れる
・上の血圧が130mmHg以上なら、麺類の汁は飲み干さない
・HbA1cが6.0%以上なら、食事の最初は必ず野菜から口に運ぶ

他に、『家族の目』はとても役に立ちます。正常性バイアスに負けないように、客観的な声を聞くことができるように、健康診断結果を共有しておきましょう。食事や運動の少しの工夫だけでは、数値を改善できないことも多々あります。加齢や遺伝的な体質も大きく影響するからです。
『自力で治せなかった』とご自身を責める必要は全くありません。それも相談してください。かかりつけ医を受診し、アドバイスを聞いたり、お薬の力を借りたりすることは、決して負けではありません。突然の恐怖から日常を守るためのとても賢明な判断です。まずは健診結果を持って、ぜひ受診から始めてみてください。」

健診結果は「相談のきっかけ」。パートナーと一緒に日常を守ろう

「正常性バイアス」という心理を知ると、自分がこれまで健康診断を軽視してしまっていた理由が納得できるはずです。それは決して怠惰だからではなく、人間であれば誰もが持っている防衛本能だからです。しかし、そのバイアスのせいで危険なカウントダウンを放置してしまうのはあまりにもリスクが大きすぎます。

「要経過観察」という言葉を、「自分だけで何とかしなければならない」と受け取る必要はありません。「医療の専門家や家族というパートナーと一緒に、今後の健康を相談するための切符」だと捉え直してみてください。

まずは予約の電話を一本入れること。そして、完璧な生活を目指さず、まずは専門家に今の数値を相談すること。その小さな一歩が、未来の日常を守る何よりの賢明な判断となります。


監修者:松岡雄治
麻酔科専門医。総合病院、大学病院、小児専門医療機関での勤務を通じ、幅広い周術期管理に従事。現在は急性期病院で麻酔科医として勤務する。日々、美容領域を含む各診療科の手術に携わっている。医師としての知識と経験を活かして医療系ライターとしても活動し、医療・健康・美容分野の記事執筆、医学論文の解説、商品監修、AI技術開発関連プロジェクトへの参加などの実績を有する。睡眠コンサルタント、睡眠検定1級の資格も保有。

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