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配信開始後“ネトフリランキング1位”「間違いなく歴代最高作」アカデミー賞“11部門”ノミネート【人気映画】の映像演出

  • 2026.4.13

第49回日本アカデミー賞にて11部門ノミネート、スズキタゴサク役の佐藤二朗が最優秀助演男優賞を受賞。2026年3月31日のNetflix配信開始後は「今日の映画TOP10(国内)」で1位を獲得し、「爆弾見るためにネトフリ入った」「間違いなく歴代最高作」などと、SNSでも大きな反響を呼んだ映画『爆弾』。劇場公開から半年を経てもなお多くの観客を惹きつける本作の魅力を、映像演出の妙に着目して解説していく。

※以下本文には作品内容が含まれます。

得体の知れない男、スズキタゴサク

『このミステリーがすごい!2023年版』で1位を獲得した呉勝浩の同名ベストセラー小説を原作に、『恋は雨上がりのように』『キャラクター』の永井聡監督が実写映画化したリアルタイムサスペンスだ。

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山田裕貴(C)SANKEI

酔って警察に連行された正体不明の中年男・スズキタゴサク(佐藤二朗)は、霊感が働くとうそぶいて都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する。やがてその言葉通りに爆発が起こり、「この後も1時間おきに3回爆発する」と告げるスズキ。取調室でのらりくらりと刑事たちをかわしながら、謎めいたクイズを繰り出していく。交渉人・類家を演じる山田裕貴を主演に、伊藤沙莉、染谷将太、渡部篤郎ら実力派が脇を固める。

密室が生み出す緊張感

映画の冒頭、刑事・等々力(染谷将太)は酔って酒屋の店主に殴りかかった中年男・スズキタゴサク(佐藤二朗)の事情聴取を行っていた。壁にタイルが施された古びた一室、白熱灯が放つ青白い光がテーブルを照らす。カメラはわずかに揺れながら、テーブルを挟んで向かい合う二人を映し出す。

やがてスズキの予告通りに秋葉原で爆破が起こる。“爆弾”のタイトルバックが崩れ、ガラスの割れる高い音が響く。スズキが「ここから3回、1時間後に爆破します」と告げると、14秒間のスタイリッシュな音楽とともにオープニング映像が流れる。

一見何の脈絡も感じられないこの映像は、のちにスズキの散髪シーンをアップで捉えたものだとわかる仕掛けだ。最後まで観るとこの映像の意味が効いてくる。あっという間にオープニングが明けると、夜の野方署を引きで捉えたショットが現れ、現実の重みが一気に押し寄せてくる。

映像演出が操る形勢逆転

映像全体の色調、密室の緊張感、そしてスズキという人物の得体の知れない薄気味悪さが、画面から静かに滲み出る。

事情聴取の相手が警視庁捜査一課の交渉人・清宮(渡部篤郎)に交代すると、画面はさらに暗さを増していく。それは夜が更けた物理的な暗さ以上に、張り詰めた空気がより深まったことを映像そのものが示している。スズキは一本ずつ指を立てながら無駄話を装い、次の爆破場所のヒントを語り始める。その際、頭上から二人を俯瞰で捉えていたカメラはゆっくりと回転を始め、やがて二人の姿を逆さまに映し出す。

清宮が「もう少しゆっくり聞かせてくれ」と求めると、スズキは両手を広げ、不気味な笑みを浮かべながら「それは難しいです。天はいつも気まぐれですから」と返す。取り調べを受ける側だったスズキが、いつの間にか主導権を握り、形勢が逆転したことをカメラワークそのものが体現してみせる圧巻の場面だ。

こうしたカメラによるわずかな揺れは、スズキのいる取調室の場面で特に顕著に現れ、逃れようのない緊張感を生み出している。しかし、交渉人が清宮の部下・類家(山田裕貴)に変わると、その揺れは静かに収束していく。ここからはカメラの動きよりも、両者の鋭い“舌戦”こそが見どころになるからだろう。

スズキが繰り出す謎解きと、彼が抱く社会への歪んだ視点。それらに対峙する類家との衝突が描かれるにつれ、物語は加速していく。スズキの犯行の動機が解き明かされていくその過程は、単なるフィクションの枠を超え、現代社会に生きる私たち自身を深い恐怖へと引きずり込んでいくのだ。


ライター:山田あゆみ
Web媒体を中心に映画コラム、インタビュー記事執筆やオフィシャルライターとして活動。X:@AyumiSand