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5年前の朝ドラ“夫婦”が再共演「強すぎるコンビ」「ひたすらに素晴らしい」数々の“映画賞を席巻”した名作映画

  • 2026.5.11

「ただ、ひたすらに素晴らしい」「強すぎるコンビ」「名作」。SNSにそんな言葉が並ぶ映画がある。
『九条の大罪』での好演や地上波初単独主演作『告白 25年目の秘密』の発表で改めて注目を集める松村北斗と、上白石萌音がW主演を務めた2024年公開の映画『夜明けのすべて』だ。

キネマ旬報ベスト・テンで作品賞(日本映画1位)、監督賞、主演男優賞、読者選出1位の4冠を獲得し、第79回毎日映画コンクールでは日本映画大賞、監督賞、映画ファン賞の3冠に輝いた本作。数々の映画賞を席巻したその静かな熱量の正体を紐解いていく。

生きづらさを抱えたふたりの物語

『そして、バトンは渡された』の瀬尾まいこによる同名小説を、『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱監督が映画化した人間ドラマ。『ケイコ 目を澄ませて』に続き月永雄太が16mmフィルムで撮影し、生きづらさを抱えたふたりが互いに最高の理解者となり助け合う姿を映し出す。

月に1度、苛立ちを抑えられなくなるPMS(月経前症候群)を抱える藤沢(上白石萌音)は、ある日、同僚の山添(松村北斗)を怒ってしまう。やる気がないように見える山添は、パニック障害を抱え生きがいと気力を失っていた。理解のある職場と同僚たちに支えられながら、ふたりには同志のような気持ちが芽生えていく。恋人でも友人でもない、名前のつかない特別な関係性が本作の核心だ。

朝ドラ夫婦の再共演が生む化学反応

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上白石萌音(C)SANKEI

2021年度のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で夫婦役を演じた松村北斗と上白石萌音が再共演した。かつてスクリーンの中で寄り添い合ったふたりが、今度は穏やかに向き合いながらゆっくりと距離を縮めていく。その自然体で息の合った演技には、「強すぎるコンビ」という声も納得の説得力がある。

松村北斗は本作で、内側に感情を抱え込んだ繊細な山添という役柄を体現した。『九条の大罪』での鋭く誠実な存在感とは対照的な佇まいで、俳優としての幅の広さを改めて示した。上白石萌音もまた、PMSによる感情の波を抱えながら生きる藤沢の葛藤と素朴な優しさをていねいに演じ、ふたりの間に宿る温度感を丁寧に積み上げていく。

差し入れという名の優しさの持ち寄り

キネマ旬報、毎日映画コンクールに加え、第14回北京国際映画祭コンペティション部門・最優秀芸術貢献賞、第74回ベルリン国際映画祭フォーラム部門への正式出品など、国内外で高い評価を得た『夜明けのすべて』。派手な展開もなく、声高に何かを訴えるわけでもないにもかかわらず、これほど多くの人と賞に選ばれ続けるのはなぜか。

それはこの映画が、喪失や不遇、生きづらさを“アクシデント”としてではなく、“それとともに生きる人生”として描くからではないか。藤沢と山添が抱える疾病は、劇的に完治することが難しいものだ。本作はそのことを嘆き悲しむのではなく、受け入れて生きていける社会の希望をそっと見せてくれる。

その希望を象徴するのが、作中に繰り返し登場する“差し入れ”の文化だ。感情が爆発してしまった翌日、藤沢は必ず会社へ差し入れを買っていく。社員たちは「気を遣わないでね」と言いながら、嬉しそうにそれを受け取る。はじめはその文化に馴染めない様子を見せていた山添も、物語の終盤には自転車でコンビニへ向かう前に「何かコンビニで要るものある人います?」と同僚へ声を掛けるようになる。

差し入れは一見、謝罪やお礼のように見えるが、それだけではない。ある場面では、藤沢が偶然出会った山添の恋人に、大量に買ったお守りをそっとお裾分けする。会社での差し入れとは異なるシーンだが、この小さな贈り物が相手の心をほぐしていく様子は印象的だ。他者との関わりが希薄になりがちな時代に、手渡しで届く贈り物の温かさは特別なものがある。

こんなささやかで優しい繋がりが、静かな余韻となって胸に残る。本作を観終えたあと、世界がほんの少し優しく見えるとしたら、それはきっとこの映画が教えてくれた“差し入れ”の温度のおかげかもしれない。


出典:映画『夜明けのすべて』公式サイトより

ライター:山田あゆみ
Web媒体を中心に映画コラム、インタビュー記事執筆やオフィシャルライターとして活動。X:@AyumiSand

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