1. トップ
  2. 第1話から東野圭吾作品を彷彿とさせる、名門放送枠【春ドラマ】中毒性の高い“巧みなオリジナリティ”に注目集まる

第1話から東野圭吾作品を彷彿とさせる、名門放送枠【春ドラマ】中毒性の高い“巧みなオリジナリティ”に注目集まる

  • 2026.4.24

『田鎖ブラザーズ』は、法律では裁けない犯人を自分たちの手で裁くために警察官となった兄と弟の物語だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

undefined
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』(C)TBS

1995年4月26日に、何者かによって両親の命を奪われた兄の田鎖真(岡田将生)と弟の稔(染谷将太)は、いつか犯人が捕まってほしいと願いながら生きてきた。
その後、15年が経ち、2010年4月27日に凶悪事件の時効が撤廃されたが、わずか2日前に両親の事件は時効を迎えてしまい、二人は途方に暮れた。
そして事件から31年が経った現在。兄の真は刑事となり、弟の稔は検視官となった。

真は一見やる気がなさそうに刑事の仕事をしていたが、被害者の話に対しては真剣に耳を傾けて優しく寄り添おうとする。一方、稔は検視官として、事件の遺体の状態に対しては真剣に向き合っていたが、生きている人間に対してはどこかドライだった。

二人は被害者遺族として、つらい現実を生きてきた。何度も事件解決を期待しては裏切られてきた経験によって、弟は憶測に基づく曖昧な証言に対しては関心も持たないようになり、逆に兄は憶測にこそ、事件を解くヒントがあるのではないかと考え、どんな些細な事でもいいので、気づいたことがあったら話して欲しいと事件の被害者に言う。

第1話では、旅行会社勤務の女性が同棲していた男が、部屋で複数の傷を負って、遺体で発見されるという事件が描かれた。男の身元を調べた結果、女性と暮らしていた時の名前は偽名で、身分を偽って暮らしていたことが判明し、彼がある事件に関わっていたことが明らかとなる。

今回は、真と稔の過去を丁寧に描くことで、彼らがどんな思いで警察としての仕事に取り組んでいるのかが描かれた。おそらく今後は、二人が様々な事件と向き合う姿を描くと同時に、法律では裁くことができない犯人の行方を追いかける姿が描かれるのだろう。

新井順子プロデューサーの新境地となる刑事ドラマ

undefined
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』(C)TBS

本作のプロデュースは新井順子が担当している。
新井は近年のTBSドラマの名作を多数手掛けており、中でも脚本家の野木亜紀子と演出家の塚原あゆ子と組んだ『アンナチュラル』と『MIU404』は一話完結のクライムサスペンスとして高い評価を獲得している。
『田鎖ブラザーズ』で弟の稔が検視官だと知って真っ先に連想したのは、法医解剖医のチームを舞台にした『アンナチュラル』だが、どちらも遺体の検視をきっかけに、大きな事件の糸口が見えてくる物語となっており、『アンナチュラル』の経験が作品に生きていると感じた。

また、幼少期に兄弟が凶悪事件で両親を失い、事件の犯人を探そうとする姿は、東野圭吾のミステリー小説『流星の絆』を彷彿とさせる。

本作は2008年に宮藤官九郎の脚本と磯山晶のプロデュースで連続ドラマ化され『田鎖ブラザーズ』と同じ金曜ドラマ(TBS系金曜夜10時枠)で放送された。
しかし、『流星の絆』では、時効成立まで残りわずかの中で犯人を捜そうとする姿がドラマの見せ場となっていたが、『田鎖ブラザーズ』では、時効が成立してしまった後の時間を生きる兄弟の気持ちに焦点が当たっているため、物語から受ける印象は大きく異なる。

その意味で、新井順子が過去にプロデュースした作品やTBSドラマの過去の名作の要素を取り入れた隙のない刑事ドラマと言えるが、最終的に印象の異なるオリジナルドラマに仕上がっているのが、本作の面白いところだ。

脚本家・渡辺啓が紡ぐ兄弟の絆

undefined
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』(C)TBS

『アンナチュラル』や『MIU404』は、野木亜紀子が得意とする現実の社会問題を劇中に取り入れた社会派クライムサスペンスとなっていた。
対して『田鎖ブラザーズ』は、被害者遺族である兄弟の物語に内容が集約されており、テーマとキャラクターがはっきりとしていると感じた。
これは脚本を担当する渡辺啓の作家性ではないかと思う。
渡辺啓はお笑いコンビ『グレートチキンパワーズ』出身の脚本家で、『Get Ready!』等のドラマに参加している。これまではチームでドラマや映画を書くことが多かったが、今回は単独執筆となっているため、彼の個性が強く打ち出されており、それは田鎖ブラザーズの描き方に強く表れている。
二人は警察署で話す時は、あまり仲が良くなさそうに見えるのだが、ぼそぼそと交わされる会話のやりとりの中に、余計なことを言わなくてもお互いのことを理解しているという兄弟ならではの阿吽の呼吸が描かれている。
何よりそれが魅力的に描かれていたのが、車の中で二人が晩飯について話している場面。今日は帰るのが遅くなるため「先、食っといて」という真に対して、自分も午後は研修で立て込んでいるため、「ささっと牛丼でも作っとこうか?」と稔は言う。真は一瞬考えた後で「今日は外にしようかな」と自然に答える。二人の会話を聞いていた同僚の刑事・宮藤詩織(中条あやみ)は「兄弟っていうより、夫婦みたいですね」と言うのだが、男兄弟の良好な関係をこんなに自然な形で描けるのかと驚いた。
他にも劇中のさりげない描写から、二人がいっしょに過ごしてきた時間の厚みが伝わってくる。

岡田将生と染谷将太が演じる兄弟の多くを語らずとも伝わってくる仲の良さをずっと観ていたいというのが第1話を観て、もっとも強く感じたことだった。物語の行方も楽しみだが、渡辺啓の脚本が兄弟の魅力をどこまで引き出せるか楽しみである。


TBS系 金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』毎週金曜よる10時~

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。