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朝ドラで“ヒロインの母親”がついたひとつの嘘「初めて」「今週すごくよかった」主人公の“涙の選択”に視聴者から称賛の声

  • 2026.4.24
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『風、薫る』第4週(C)NHK

明治時代、女性の幸せは“良き家に嫁ぐこと”に集約されていた。そんな時代に、没落士族の娘・一ノ瀬りん(見上愛)は、安定した再婚の道を捨て、当時“下女・下男のする仕事“と蔑まれていた看護婦(ナース)への道を選ぶ。なぜ彼女は、母・美津(水野美紀)の反対を押し切り、涙を流してまで過酷な道に進むことを決めたのか。“誰かの妻”という殻を脱ぎ捨て、専門職として産声を上げるまでの軌跡が見える。現代のキャリア選択にも通じる、彼女の“涙の正体”を紐解きたい。

※以下本文には放送内容が含まれます。

運命を分ける炊き出し

華やかな文明開化の裏側で、貧困と病が隣り合わせにあった東京。主人公の一人・りんと、身分を偽り鹿鳴館のメイドとして働く直美(上坂樹里)は、炊き出しの現場でふたたび遭遇する。

そこで起きた一つの事件が、二人の運命を大きく変えた。炊き出しの列に並んでいた少年が突如として嘔吐し、倒れてしまったのだ。周囲が「疫病(コロリ)ではないか」と恐怖し、一歩退くなか、反射的に少年のもとへ駆け寄ったのは、医学の知識も持たないりんと直美であった。

その姿をじっと見つめていたのが、鹿鳴館の貴族である大山捨松(多部未華子)。捨松は、適切な処置を指示した後、二人にトレインドナース(正規の教育を受けた看護師)にならないか、と声をかける。それは、まだ日本に根付いていなかった、専門技術を持つ新しい女性の生き方の提示であった。

母の愛と、内なる偏見

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『風、薫る』第4週(C)NHK

しかし、その誘いにすぐさま飛び込めるほど、当時の社会は甘くない。りんは、美津から猛烈な反対を受ける。一ノ瀬家の娘ともあろう者が、病人の世話をする下女になるなど言語道断……そんな美津の言葉は冷酷に響くが、娘を世間の冷たい目から守りたいという、母なりの愛情も含まれていた。

りんがナースになる道に惹かれた背景には、父をコレラで亡くしたという、深い喪失感があった。もしあのとき自分に知識があれば、父を死なせずに済んだかもしれないという後悔。彼女にとってナースになることは、過去の無力な自分への決別であり、贖罪でもあったのだ。

しかし、りんが働く瑞穂屋の常連・シマケンこと島田健次郎(佐野晶哉)との会話が、りんの心をさらに揺さぶる。“君のなかにも、ナースに対する偏見があるんじゃないか?”……自立したいと願いながらも、心のどこかで“士族の娘”であるプライドを捨てきれずにいた自分が炙り出される。

その矛盾に気づかされたとき、りんの決意は“覚悟”へと変わっていった。

流した涙の理由とは?

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『風、薫る』第4週(C)NHK

第4週の山場となったのが、第19回。元夫・亀吉(三浦貴大)によって、強引に娘・環(宮島るか)を連れ去られたりんは、一人で奥田家へ乗り込む。そこで待ち受けていたのは、女一人でどうやって生きていくのか、という嘲笑だった。

誰かに養われるのではなく、自分の腕で稼ぎ、娘を守る。明治の女性が“所有物”として扱われていた時代に、彼女は専門技術を得て、自らの足で立つことを選んだのだ。

元夫に離縁を申し出て、東京へ戻ったりんを待っていたのは、母からの新しい縁談話。しかし、りんは涙を流しながら母に懇願する。SNS上でも「初めて覚悟が見えた」「応援したい」「今週すごくよかった」という声が相次いだシーンだ。父が亡くなっても涙一つこぼさなかった彼女が、号泣しながら頼み込む。

実は、この縁談は美津がついた嘘であった。もし縁談という楽な道を示されて、すぐに志が揺らぐようなら、厳しいナースの修行など耐えられるはずがない。美津は、あえて悪役を演じることで、娘の覚悟の本気度を測ったのだ。

環を女学校に入れ、嫁ぐ以外にも生きる選択肢があることを教えたい。りんが流した涙は、自分自身の自立のためだけでなく、次の世代の女性……環にこそ、より広い世界を見せてあげたいという、母としての崇高な祈りでもあった。

第4週のラスト、正反対の背景を持つりんと直美は、ついにトレインドナース養成所の門を叩く。風の導きに乗り、自らの翼で羽ばたき始めた彼女たち。その歩みは、100年以上経った今の時代を生きる我々にも、自分の人生を、自分の手で選び取ることの尊さを問いかけている。


連続テレビ小説『風、薫る』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_