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『花緑青が明ける日に』で長編デビュー。四宮義俊監督に問う、AI時代に“あえて手描きでやる意味”

  • 2026.3.5

美術家、日本画家の四宮義俊が、劇場アニメ『花緑青が明ける日に』(3月6日公開)で長編アニメーションの監督デビューを果たした。立ち退きを迫られた老舗の花火工場を舞台に、3人の若者に渦巻く感情を唯一無二の映像美と共に描く本作。彼らの想いを乗せて打ち上がるクライマックスの花火が圧巻の美しさで観る者を包み込むなど、四宮監督がアナログな方法や手描きにこだわりながら、失われていくものの輝きをスクリーンに刻み込んでいる。AI技術が急速に進化し続けているいま、四宮監督が手仕事の持つ力について胸の内を明かした。

【写真を見る】忘れられないラスト10分。打ち上がる花火の美しさに心を掴まれる!

長編アニメーションの監督デビューを果たした四宮義俊にインタビュー!
長編アニメーションの監督デビューを果たした四宮義俊にインタビュー!

「アニメを好きになったのは、日本画を選択するよりずっと昔」

物語の舞台となるのは創業330年の花火工場、帯刀煙火店。再開発による立ち退きの期限が迫るなか、家業にこだわり、幻の花火<シュハリ>を完成させようと奮闘する敬太郎(声:萩原利久)、幼馴染のカオル(声:古川琴音)、敬太郎の兄で市役所に勤めるチッチ(声:入野自由)という、そこで育った3人の未来をめぐる2日間の物語を描く。第76回ベルリン国際映画祭コンペティション部門にも選出され、日本アニメーションとして長編監督デビュー作がコンペ部門に選ばれる初の快挙を成し遂げた。若手実力派俳優の萩原と古川が初声優を務めたことでも話題だ。

四宮監督は、日本画家として活躍しながら、新海誠監督の『言の葉の庭』(13)でポスターイラストや劇中美術、『君の名は。』(16)では回想シーンの演出、原画、撮影を担当。片渕須直監督『この世界の片隅に』(16)では劇中の水彩画を手掛け、さらにCMやミュージックビデオにも参加するなど、ジャンルを超えた創作活動を行ってきた。本作でいよいよ長編アニメとしてその手腕を発揮することになった四宮監督だが、「日本画はどこまで拡張可能なのか」というテーマを学生時代から抱き続けてきたという。

「中学校の先生が日本画をやっていた影響もあり、高校生の受験期に日本画を専攻することを選択しました。ただ自分にとって『アニメをいつ好きになったのかな?』と思うと、それよりもずっと昔。保育園や小学校のころになります。アニメが好きだという想いが大前提にあるなか、『映像化した日本画というのは、どのようなものなのだろう』『映像や立体作品は、日本画として昇華できるものなのか』『日本画というのは、どこまで拡張可能なのだろうか』というテーマを大学生のころには自然と抱くようになりました」と吐露。

東京から4年ぶりに地元へ戻ってきたカオルは、町の再開発によって変わり果てた景色を目にする [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
東京から4年ぶりに地元へ戻ってきたカオルは、町の再開発によって変わり果てた景色を目にする [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

自身の創作活動において、日本画とアニメは「手を使って描いていることには、なんの違いもなくて。動いているか、動いていないかくらいの差しかない」という持論を持ちつつも、日本画で培った経験を長編アニメとして昇華できるまでには長い道のりがあったと振り返る。

「アニメの仕事を始めたのは、2009年くらいのこと、僕が29歳の時です。やっていくうちにいろいろな反響をいただけたり、求められることに対して応えたいという想いが芽生えたり。そのなかで、日本画としての作家活動とアニメという表現が二律背反していると感じる期間も結構、長かった。『いつかそれを一つにしてみたい』という気持ちはずっとあり、個展をやる際にも日本画と一緒に映像作品を展示するなど、いろいろな試みをしていました。歩んでいく道として、なんとか自分の持つコンセプトを同一なものとして持っていけないか。その想いを昇華させた大きな一歩となるのが本作で、僕にとってやりがいのあるチャレンジになりました」。「いつか」という情熱が結実し、構想から10年の時を経てついに本作が完成した。

唯一無二の映像美がスクリーンに広がる [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
唯一無二の映像美がスクリーンに広がる [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

「自然描写は丁寧にやりたい」

「日本画のタッチを生かして描く」と決め込んで作られた映画ではなく、「何十年もやり続けているので、僕の筆致や描き味など、日本画っぽいものが自然と出てくる。あえて『ここは日本画です』と言わなくても、自分の血肉となっているものが表出するはずだと思った」と四宮監督。自身の強みについて、どのように感じているだろうか。

自身が監督することの強みを語ってくれた
自身が監督することの強みを語ってくれた

「小さな子どもに『人の絵を描いて』というと、頭足人といわれるような平面的な絵を描きますよね。いきなり、光や影を表現したりはしないわけです。つまりそれこそが、人類が持っている本質的なものの捉え方だと思うんです。アニメも基本的にはそういった考え方で、認識しやすく、訴求力がある表現を突き詰めていくことで、アニメの表現が出来上がっている」と説明した四宮監督は、「日本画も同じように、絵画的な強みを表現していくものです。例えば円山応挙の『郭子儀図』や屏風絵、大和絵を考えてみても、人の姿形は筆だけで線を引いて表現し、植物はごわっとした質感で描いているものがイメージできると思います。そのように光や影ではなく、形態そのものが持っている豊かさや量感、質感で、物の本質を捉えようとする見方は、僕の強みではないかと思っています」と日本画家として世界を観察してきた視点が、確実に本作に注がれている。

また「花鳥風月」と言われるように、日本の自然界の美しさを捉えることも日本画の特徴だが、本作でも森や草木、水など、豊かな自然描写を目にすることができる。

風に揺れる木々など、繊細な自然描写が映し出される [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
風に揺れる木々など、繊細な自然描写が映し出される [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

「自然描写は丁寧にやりたいと思っていた」と切りだした四宮監督は、「草木が風に揺れるという表現は手間がかかるものではありますが、いまの商業アニメだとCGに置き換わってしまうようなものも、手描きでやることにこだわりました。背景は、水彩画を取り込んだものを使ったりもしています。デジタルで描くことによって、誰がやっても一緒だと感じるようなものにはしたくなかった」と力強く語る。

「失われていく瞬間は、一番輝いて見えるもの」

再開発による立ち退きの期限が迫るなか、幼馴染3人が過去と向き合い、未来を見つめていく [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
再開発による立ち退きの期限が迫るなか、幼馴染3人が過去と向き合い、未来を見つめていく [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

本作で四宮監督は、原作、脚本、監督を担っている。主な登場人物である敬太郎、カオル、チッチは、思い出の詰まった古びた花火工場に集い、過去と向き合い、決着をつけるかのように、それぞれの胸に秘めた本音をぶつけ合っていく。物語を作り上げるにあたって、「40代に突入し、人生において振り返るものが出てくると、整理したくなるものがたくさんあるなと思いました。家の問題、親の問題や家業のこと、子どものことなど、自分なりに整理をつけたいものが、モチーフになりました」と彼らの姿に自身の投影があることも告白する。

そのなかで色濃く浮き彫りとなるのは、“失われていくもの”への想いだ。映画のタイトルにある「花緑青」という花火の材料に使われる顔料も、その美しさと引き換えに毒性を含むため、現在ではほとんど使用されなくなったもの。劇中では、埋め立てられた海、立ち退きを迫られる花火工場、敬太郎たちが育った家など、数々の“失われていくもの”に目が向けられている。

登場人物たちには監督自身も投影されている [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
登場人物たちには監督自身も投影されている [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

四宮監督は、「劇中ではガソリンスタンドが2回ほど出てきますが、もうその(モデルとなった)ガソリンスタンドもありません。ガソリン車さえもなくなっていくかもしれません。失われていく風景、なくなっていくものには意味があって、環境的な問題で許されないから淘汰されていく、必要とされなくなっていくものもあります。敬太郎たちの住んでいた昭和レトロな家もなくなるし、当然そのなかの家具もなくなる。すべては積み重ねて、積み重ねて、なくしていくもの」と考えを提示。加えて、「花火もそうですが、なくなっていく瞬間、失われていく瞬間というのが、一番輝いて見えるものだと感じる」と見解を述べる。

まさに本作の主軸となっている花火は、夜空に大輪の花を咲かせ、一瞬にして消えていく儚さも含めて人々を惹きつける。劇中では、クライマックスに打ち上がる花火が、目を見張るような美しさで描かれている。観客に忘れがたい印象を残す、花火のシーンに込めた想いとは?

【写真を見る】忘れられないラスト10分。打ち上がる花火の美しさに心を掴まれる! [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
【写真を見る】忘れられないラスト10分。打ち上がる花火の美しさに心を掴まれる! [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

「花緑青というのは銅の化合物なんですが、いまでは花緑青を使った花火を実際に見ることはできません。そのなかで、映像として見たことのない花火を表現したいという課題もありました。花火のシーンは、特殊映像担当としてSUKIMAKI ANIMATIONの鋤柄真希子さんに入っていただいて。アナログのカメラで撮影したものをいろんなところで使っています。ほかにも一昨年、広島で開催のひろしまアニメーションシーズンでワークショップを行い、そこに参加した30人ほどの方々にも黒い紙に針で穴を開けていただくなど、素材作りのお手伝いもしていただきました。花火というのはイベントごとでもあるので、映画づくりにおいてもイベント感があるといいなと思っていたんです」と多様な人々が参加しつつ、アナログの手法を用いて完成したシーンとなった。クライマックスで「幸せな瞬間と、それがなくなる瞬間。その対比を大事にしたいと思っていました」と明かす。

「いまの時代、あえて手描きでやる必要があるのか」

手仕事にこだわりながら、失われつつあるものの輝きを描き出した。長編アニメという大きな挑戦を果たすなかで、自身が追い求めたいものの輪郭が見えてきたという四宮監督は「“軋轢が生まれるところ”が、自分の持ち味なのかなと思いました」と自己分析。

「いまこそ、人の手の仕事が輝く瞬間」だと語る四宮義俊監督
「いまこそ、人の手の仕事が輝く瞬間」だと語る四宮義俊監督

「手間のかかる自然描写、車、花火の描写など、“いまの時代、あえて手描きでやる必要があるのか”という問いかけがたくさんある作品だと感じています。おそらくこれからAIに代替されていってしまうものが多くなると思いますが、そういった転換点にある時こそ、人の手の仕事が輝く瞬間なのではないかと思うんです。こういった時代だからこそ、手仕事にこだわる。手で描くこと、質感のあるものにこだわるということが、自分の持ち味なのかなと感じました」と熟考する。

“終わらせ方”を模索する3人の想いがぶつかり合い、クライマックスへとなだれ込む [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
“終わらせ方”を模索する3人の想いがぶつかり合い、クライマックスへとなだれ込む [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

日本画という伝統的な絵画の世界に身を置き、芸術を追求してきた四宮監督。“手仕事の持つ力”についてどのように感じているか尋ねてみると、「わからないですね。手仕事とAIとの区別がつかなくなってしまう時代が、すでに来ているのかもしれない」と前置きしながら、「ただ作り手にとっては、描いている喜び自体はあるわけで。それは人によっては伝わらないかもしれないけど、なにかを感じてくれる人もいるかもしれない。自分がこれまで得てきた感動というのも、結局はそこなのではないかと思っていて。AIを否定したいわけではなく、伝わるかわからないような微妙な喜び。それが人の心に残ったか、残らないかの勝負をしているということなのかなと感じています」と言葉に熱を宿らせる。

敬太郎たちが掴むそれぞれの未来とは? [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
敬太郎たちが掴むそれぞれの未来とは? [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

最後に、多感な時期において自身の心に残った映画について教えてもらった。四宮監督からは、山川直人監督の商業映画デビュー作で、三上博史、原田芳雄らが共演した『ビリィ・ザ・キッドの新しい夜明け』(86)という答えが返ってきた。

「中学生くらいの時に、テレビ神奈川で放送されていたものをたまたま観ていて。観ながら、なんだか大人への入り口を開き、新しい世界を教えてくれた気がしました。自分がこれから経験するであろうイニシエーションみたいなものを、事前に知らせてくれたという感じ。絵画やアニメ、映画もそうですが、ある意味、イニシエーションを描くものでもありますよね。今回の僕の映画も、誰かが生きていくうえでのイニシエーションの参考例になったらうれしいです。ものづくりにおいては、『いろいろな問題があっても、こうやって乗り越えてきたよね』という参考例を提示し続けていくことが大事なのかなと思っています」。

『花緑青が明ける日に』は3月6日(金)公開! [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
『花緑青が明ける日に』は3月6日(金)公開! [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

取材・文/成田おり枝

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