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「邪魔だから早くどかしてほしい」救急現場で鳴った一本の連絡。胸痛の高齢者を前に隊員が下した苦渋の決断

  • 2026.3.12
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。ライターのとしです。

救急の現場では、傷病者への対応が何より優先になります。

ただ、実際の活動はそれだけで進むわけではありません。

どこに救急車を止めるか。周囲への影響をどう抑えるか。

そんなことも、その場で考えながら動いています。

今回は、80代女性の胸痛対応の最中に、救急車の停車位置をめぐって連絡が入った現場についてです。

胸痛の要請で現場は急を要する空気だった

この日の通報内容は、80代女性の胸痛でした。

胸の痛みは、状態によっては早めの対応が必要になります。

現場にはすでに消防隊も到着していて、こちらも早く傷病者のもとへ向かう必要がありました。

ただ、現場付近の道路はかなり細く、傷病者宅の前に救急車を止めると相互通行が難しくなります。

急ぐ場面ではありましたが、道をふさいでしまうおそれもあり、家の前には停めにくい状況でした。

少し離れた歯科医院の前に救急車を止めた

救急車を止めたのは、現場から少し離れた歯科医院の前です。

現場までは200メートルから300メートルほど。

近くではありませんが、傷病者宅の前に置くよりは周囲への影響が少ない位置でした。

その時間、歯科医院はすでに閉まっていて、駐車場も閉鎖中。

出入口ももう1か所あり、その場ですぐ大きな支障が出るようには見えませんでした。

普段なら、近くの関係者にひとこと声をかけることもあります。ただ、このときは胸痛対応で、消防隊もすでに活動中でした。

確認に時間をかけるより、まずは傷病者のもとへ向かう。そんな流れでした。

活動中に本部から停車位置について連絡が入った

傷病者の対応をしている途中、本部から連絡が入りました。

歯科医院の関係者から、救急車の停車位置について連絡が入っているとのことでした。

内容は、「邪魔だから早くどかしてほしい」というものです。

こちらとしては、何も考えずにそこへ止めたわけではありません。

傷病者宅前には置けない事情があり、歯科医院も閉まっていて、現場を急ぐ必要もありました。

ただ、相手から見れば、自分たちの前に救急車が止まっている状態です。

こちらの事情がそのまま伝わるわけではなく、指摘が入るのも無理はない。

現場で対応しながら、そんなことも頭をよぎりました。

傷病者対応を続けながら救急車を移動した

もちろん、その時点で傷病者対応を止めるわけにはいきません。

胸痛を訴える高齢の傷病者で、状態確認と搬送判断を進める必要がありました。

一方で、停車位置について連絡が入った以上、そのままにしておくのも難しい状況です。

私は機関員でもあったため、消防隊に車両誘導をお願いし、救急車を別の場所へ移動する対応を取りました。

ひとつの対応に集中したい場面でしたが、現場ではそうもいきませんでした。

その後、傷病者は医療機関へ搬送となり、大きな異常なく引き継ぎとなりました。

歯科医院側への対応は消防隊に引き継ぎ、のちに幹部が出向いて対応する流れになりました。

切迫した場面ほど一声が大事になる

傷病者対応を急ぐ場面でも、周囲への配慮が不要になるわけではありません。

歯科医院が閉まっている時間帯でも、救急車が前に止まっていれば気になる人はいます。

だからこそ、短いひとことや小さな配慮が大事になる。

そんなことをあらためて感じた現場でした。


ライター:とし
元救急隊員。消防で17年、主に救急隊として活動し救急救命士資格を取得。現場経験をもとに、救急の分かりにくい部分を一般向けに噛み砕いて発信しています。