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「本人が来ているんだぞ!」“印鑑の相違”を伝えると窓口で激怒する客…トラブルの裏にあった“本当の理由”と銀行員の思い

  • 2026.6.14
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

今日は、窓口で何度も目にしてきた「印鑑相違」をめぐる出来事についてお話しします。

銀行の窓口で、「印鑑が違います」と言われた経験はありませんか?

お客様からすると、

「自分の通帳なのに」
「本人が来ているのに」
「たったこれだけのことで?」

と思われるかもしれません。

しかし、窓口の内側では、その一言の裏に大きな責任が隠れています。

今回は、実際に私が経験した忘れられない出来事をご紹介します。

忘れられない印鑑トラブル

ある日の午後、一人の高齢男性が窓口を訪れました。

定期預金を解約したいとのことでした。

通帳と印鑑をお預かりし、いつものように確認を進めます。

ところが、何度見直しても印影が一致しません。見間違いかもしれないと思い、もう一度確認しました。

それでも結果は変わりませんでした。

私は少し緊張しながら声をかけました。

「恐れ入りますが、お届けいただいている印鑑と異なるようです」

すると男性の表情が一気に曇りました。

「そんなはずない」

最初は静かな口調でした。しかし次第に声は大きくなり、

「本人が来ているんだぞ」
「何十年もこの銀行を使っているんだ」
「自分のお金を下ろすのに何が問題なんだ」

と、窓口に響くほどの声で訴えられました。

後ろには順番を待つお客様がいます。周囲の視線を感じながら、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

それでも、確認を飛ばして手続きを進めることはできませんでした。

お客様が本当に怒っていたのは印鑑ではなかった

しばらくお話を続けているうちに、男性がぽつりと話してくださいました。

実は少し前に奥様を亡くされたそうです。

家の中を整理していたものの、いつも使っていた印鑑が見つからない
どこにしまってあるのか分からず、似た印鑑を持って来店されたとのことでした。

「妻が全部分かっていたんだよ」

そう言って苦笑いを浮かべる男性の姿が、今でも印象に残っています。

通帳の保管場所も、印鑑のありかも、家計の管理も、長年奥様が担っていたそうです。

私はその言葉を聞いた瞬間、男性が怒っていた理由が少し分かった気がしました。

印鑑が違ったことが問題だったのではありません。

奥様を亡くした寂しさ。慣れない手続きへの不安。思うように進まないもどかしさ。

そうした感情が重なり、たまたま窓口であふれてしまったのかもしれません。

銀行の窓口では、お金に関する手続きを扱います。
けれど実際には、お金だけを見ているわけではありません。

その背景にある家族の事情や人生の変化に触れることも少なくないのです。

「本人なのに」は銀行員が最も悩む言葉

窓口で働いていると、

「本人なのに下ろせないの?」

と言われることがあります。

そのお気持ちはよく分かります。

目の前にいるお客様がご本人に見えるのですから、なぜそこまで確認するのかと思われるのも自然なことです。

しかし銀行員にとって最も怖いのは、「本人だと思った」という思い込みです。

実際、お金に関するトラブルは家族の間でも起こります。
ご家族だからという理由だけで手続きを進めることはできません。

だからこそ銀行では、どなたに対しても同じように確認を行います。

近年は特殊詐欺やマネーロンダリング対策の強化もあり、金融機関に求められる本人確認は以前より厳格になっています。

窓口でお待たせしてしまうこともありますが、それはお客様の大切な財産を守るためでもあるのです。

印鑑レス口座でも「確認」はなくならない

最近では、印鑑を登録しない口座を取り扱う銀行も増えてきました。

そのため、

「今は印鑑なんて必要ないのでは?」

と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

本人確認書類が揃っていれば手続きを進められる場合もありますが、確認に時間がかかることもあります。

そのため、印鑑登録のある口座であれば、印鑑を持参した方がスムーズに手続きできるケースも少なくありません。

怒号の向こう側で守っているもの

最終的に男性には必要な手続きをご案内し、後日の対応方法をご説明しました。

帰り際、男性は少し照れたような表情でこう言いました。

「さっきは悪かったな」

私は思わず笑顔になりました。

窓口に立っていると、ときには厳しい言葉を受けることもあります。

それでも、お客様の事情を知ることで見えてくるものがあります。

あの日の男性も、本当は銀行に怒っていたわけではなかったのだと思います。

私たち銀行員は、ルールを守るためだけに確認をしているわけではありません。

その先にある大切な財産を守るために確認をしています。

窓口でお願いするひとつひとつの手続きには、必ず理由があります。

もし銀行で本人確認を求められたときは、「面倒だから」ではなく、「自分のお金を守るためなんだ」と少しだけ思い出していただけたら嬉しく思います。

あの日の男性の言葉を思い出すたびに、本人確認とは単なる手続きではなく、お客様の財産と人生を守るためのものなのだと改めて感じます。

読者へのアドバイス

通帳や印鑑の保管場所は、ご自身だけでなく信頼できるご家族とも共有しておくことをおすすめします。

また、住所変更や氏名変更などの届出を後回しにせず、早めに手続きを済ませておくことも大切です。

「本人だから大丈夫」ではなく、「本人であることを確認できる状態を整えておく」。

その小さな準備が、いざというときにご自身やご家族を助けることにつながります。


ライター:くまえり銀行員

金融機関の窓口業務に携わり、日々さまざまなお客様対応を経験。忙しい日常の中で起こりがちな銀行手続きの行き違いやトラブルを、窓口の内側から見た視点で、読者に寄り添いながら伝えています。「知らなかった」が「なるほど」に変わる瞬間を大切に執筆中。


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