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「階段を上るだけで息が切れる…」実は『心不全』のサインかも。“加齢”か“病気”か見分ける「重要なポイント」とは?

  • 2026.3.15
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「最近、階段を上るだけで息が切れる」「足が鉛のように重くてだるい」……そんな症状を感じたとき、「もう歳だから仕方ない」と諦めていませんか?

実はその疲れ、単なる加齢や運動不足ではなく、心臓の機能が低下しているサインかもしれません。

なぜ、心臓が弱ると足が重くなり、息苦しくなるのでしょうか? そして、加齢による衰えと危険な病気のサインを、どうすれば見分けることができるのでしょうか。

今回は、見過ごされがちな「階段での息切れ」の裏に潜むメカニズムと、明日からできるセルフチェックの方法について、麻酔科専門医の松岡雄治さんに詳しく解説していただきました。

なぜ階段で息が切れる? 体内で起きている「2つのドミノ倒し」

---年齢を重ねると、階段を上るだけで息切れしたり、足がだるくなったりしがちです。なぜこのような症状が起こるのでしょうか?

松岡雄治さん:

「加齢による疲れと見過ごされがちな階段での息切れやだるさは、心臓のポンプ機能の低下に伴う「全身の酸欠」と「肺・全身での血のうっ滞」が原因です。

心臓は、右側と左側で役割が分かれています。

【正常な血液のサイクル】
全身の血液 → 右側の心臓 → 肺(酸素を受け取る) → 左側の心臓 → 全身へ力強く送り出す

この左側のポンプ機能が落ちると、体内で2つのドミノ倒しが起こります。

1つ目は、全身の筋肉の酸欠です。筋肉に十分な酸素が届かないため、酸素を使わずにエネルギーを生み出そうとし、乳酸などの代謝物質が蓄積します。筋肉が酸性に傾いて働きが落ちるため、「足が鉛のように重い」というだるさを生むのです。

2つ目は、血液の大渋滞です。左側の心臓が血液を送り出せなくなると、行き場を失った血液が手前の「肺」に滞留します。朝の満員電車に人が乗り切れずホームに溢れ返るように、肺の血管で血液が渋滞して水分が染み出します。肺が水浸しになるため、陸上で溺れているような息苦しさを感じるのです。

さらに、この渋滞がもう一つ手前の「右側の心臓」にまで及ぶと、全身から帰ってくる血液も滞ります。重力によって足に水分が染み出し(むくみ)、それが物理的な足の重さとなって階段を上る妨げになります。」

「休めば治る」は危険! 放置が招く心不全の悪循環

---少し休めば息切れはおさまるので、つい放置してしまいます。このまま様子を見ていても大丈夫なのでしょうか?

松岡雄治さん:

「階段での息切れを『休めば治る』と放置することは、心臓の代償機能(無理をして補う働き)を限界まで追い詰める行為です。

低下した血流を補うため、初期の心臓は壁を分厚くしたり心拍数を上げたりして必死に血液を届けようとします。とくに高齢者に多いのは、心臓の壁が分厚く硬くなり、ゴムのようなしなやかさを失って血液をうまく溜め込めなくなるパターンの心不全です。

放置すると、以下の「負のループ」に陥ります。

【心不全放置が招く悪循環】
無理をして心臓に負荷をかけ続ける

限界を迎え、横になっていても息が苦しい状態(起座呼吸)になる

息苦しいため、日頃の活動量が減る

筋肉や体力が衰え、さらに心臓への負担が増す

日本老年医学会の提言でも、心不全の悪化は高齢者のフレイル(虚弱)を進行させる最大の要因とされています。心不全は一度悪化すると、入退院を繰り返すようになり、元の体力には戻りにくい進行性の疾患です。

しかし、まだ「階段が辛い」と感じる初期段階であれば、適切な薬の服用や塩分制限などで心臓の負担を取り除く余地が残されています。仕組みを正しく理解し、ポンプ機能が完全に破綻してしまう前に、医療の介入を受けることがご自身の生活の質を守る直結の防衛策となります。」

加齢か病気か? 明日からできる危険なサインのチェック法

---単なる加齢による疲れと、病気(心疾患)のサインを見分けるために、私たちが普段から気をつけられることはありますか?

松岡雄治さん:

「心不全のサインを見逃さないための最初の一歩は、客観的な指標で「普段との違い」をチェックする習慣を持つことです。漠然と「疲れた」と感じるだけでは、加齢か心疾患かの判断はつきません。

明日から確認できる危険なサインは、主に以下の2点です。

〈歩行ペースと息切れの比較〉
同年代の人と一緒に歩いて遅れをとるようになる。
あるいは、階段を2階まで休まずに上りきれなくなる。

〈足のすねのむくみ(水分の貯留)〉
すねの骨の上を指で5秒間強く押して、指の跡がくっきりとへこんだまま、なかなか元に戻らない。
夕方になると普段履いている靴がきつく感じる場合や、数日間で体重が急に2〜3kg増える現象も、体内に水が溜まっている強力なサインです。

これらのサインは、ただの運動不足で片付けずに、循環器内科を受診する目安となります。血液検査で心不全を示すBNPなどの数値を測ったり、胸に超音波を当てて心臓の筋肉の厚さや動きを視覚的に見たりすることで、心臓の負担を正確に把握できます。エコー検査は痛みを伴わず、体への負担もありません。

加齢による体力低下は自然なことです。しかし、病気による不調が紛れていることに気をつけましょう。病気による不調は適切にコントロールすれば、改善の見込みもあります。ぜひ本記事を参考にチェックしてみましょう。」

自分の「いつもと違う」を見逃さないことが、未来の健康を守る

「年のせい」と片付けてしまいがちな階段での息切れや足のだるさが、実は心臓からのSOSかもしれないという事実は、多くの方にとってハッとする内容だったのではないでしょうか。

心不全は一度悪化すると元の体力に戻りにくい疾患ですが、初期段階で気づき適切なケアを始めることができれば、その後の生活の質を守ることができます。歩行ペースの変化や足のむくみなど、明日からできる簡単なセルフチェックを習慣づけ、「いつもと違う」と感じたら無理をせずに専門医へ相談することが大切です。

ご自身の身体の小さなサインに耳を澄ませることは、末長く健やかな日々を送るための重要な第一歩となります。


監修者:松岡雄治

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麻酔科専門医。総合病院、大学病院、小児専門医療機関での勤務を通じ、幅広い周術期管理に従事。現在は急性期病院で麻酔科医として勤務する。日々、美容領域を含む各診療科の手術に携わっている。医師としての知識と経験を活かして医療系ライターとしても活動し、医療・健康・美容分野の記事執筆、医学論文の解説、商品監修、AI技術開発関連プロジェクトへの参加などの実績を有する。睡眠コンサルタント、睡眠検定1級の資格も保有。