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映画『#拡散』に込めた願いとは?白金監督と脚本・港岳彦が語る「なにを信じるか、どう生きるか」

  • 2026.2.19

富山県のとある小さな町を舞台に、虚実あふれる情報に翻弄された男が深い喪失と疑念に苛まれていく物語を描いた映画『#拡散』(2月27日公開)。主人公の介護士、浅岡信治は、妻の明希をワクチン接種直後に亡くし、医師を責め遺影を掲げて訴え続ける。その姿は、「夫婦愛の象徴」として報じられるも、いつしか反ワクチンの象徴として利用されるようになり、信治は孤立と狂気を深めていく。その姿は愛か狂気か、観客に静かに問いを投げかける。主人公の信治を成田凌、信治が遺影を掲げる姿を「夫婦愛の象徴」として紹介する新聞記者の福島美波を沢尻エリカが演じている。

【写真を見る】『死ねよ、クソ田舎』は沢尻エリカに当て書きしたセリフ?

映画『ゴールド・ボーイ』(24)で製作総指揮を務めた白金(KING BAI)が原案、企画、監督を手掛け、『宮本から君へ』(19)や『正欲』(23)などで知られる港岳彦が脚本を務める。富山県オールロケを行った本作が、撮影地の上市町に凱旋したその日に、企画の立ち上げを振り返りながら、作品に込めた想いを白監督と港に語ってもらった。

「自分が生きている時代で一番大きい出来事をテーマにしたいという想いがあった」(白)

承認欲求を満たすためならなんでもするという妻に、嫌悪感は抱きながらも抗えなかった信治 [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE
承認欲求を満たすためならなんでもするという妻に、嫌悪感は抱きながらも抗えなかった信治 [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE

情報があふれる社会において、「なにを信じるか」「どう生きるか」を考えるきっかけになってほしいという願いを込めたという本作のテーマを思いついたのは、コロナ禍だったと白監督は振り返る。「いつ収まるかわからないコロナ禍は、僕自身非常に不安だったし、まるでSFの映画の世界にいるような感覚がありました。間違いなく21世紀上半期で、人類史上一番大きな出来事のはず。初めて監督として映画を撮るなら、自分が生きている時代で一番大きい出来事をテーマにしたいという想いがあったのと、辛いことは忘れたいというのが人間としての心情ですが、少し記憶から消えかけている感じがあるいまだからこそ、きちんと振り返って向き合う必要があると考えたのが、この映画を作ろうと思ったきっかけです」。

撮影・照明の宗賢二郎のアイデアで白監督、脚本の港らがシナリオハンティングに訪れた富山県上市町を中心に、富山県でオールロケを敢行した。「山もあれば海もある。田んぼもあって町もある。映画に詰め込みたい要素のすべてが集まった場所でした。立山連峰を見た瞬間、映画に説得力を与えられると確信しました」とシナハンでの印象を語る白監督。山は本作においていろいろな意味を持つ存在だ。「山は映画でとても重要な要素の一つです。主人公の信治の趣味は山でキャンプをすること。非常にきれいな景色でありながら、山の向こう側には海があってアジア大陸も広がっている。山が、“壁”にもなると感じました。山に始まり山に終わるという映画の象徴的なシーンに登場するという意味でも、観る人がいろいろなことを感じ取ってくれるような存在になると思っています」と説明した白監督は劇中のセリフに触れ、「『きれいな風景のなかで、人間はなにをやっているのか』。自然に恵まれ、すごく美しい風景に囲まれているにもかかわらず、その風景を無視してネット上のことや、現実の社会に振り回される人間の無力さを描きたいと思いました」と想いを明かす。

果てしなく続く山景色のなか、妻の遺影を手にさまよう信治 [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE
果てしなく続く山景色のなか、妻の遺影を手にさまよう信治 [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE

メインロケ地となった富山県上市町の人々のあたたかさにも触れることができたと、撮影時の町の様子を振り返る。「皆さんが熱心に作品を応援してくれました。毎日誰かしらが差し入れをしてくれるし、撮影しているのを見かけると、『頑張って!』と遠いところからでも声をかけてくれる。フィルムコミッションの方はもちろんですが、地元に住んでいる方も、あたたかく迎えてくれたのは僕たちの力になりました」。特に印象に残っているのは神社で行ったお祭りのシーンだという。「12月のとても寒い時期の雨の中で、しかも、地元の皆さんが住んでいる場所からは少し離れたところにある神社での撮影だったのですが、駆け付けてくれて、普段のお祭りで行われていることを全部再現してくれました。道具も食器も鍋も、全部現地のお祭りでいつも使われているものを出してくれて、映画にリアリティをもたらしてくれました」と笑顔で感謝を述べる。

「真実を見極めるのはどんどん難しくなるのが現実」(白)

記者の福島は浅岡に取材をして「夫婦愛の象徴」として報じる [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE
記者の福島は浅岡に取材をして「夫婦愛の象徴」として報じる [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE

初めての監督作品だったが、スタッフやキャストのサポートで、充実した撮影期間を過ごしたと笑顔を見せる。「僕の足りないところを補いながら、楽しい現場にしてくれたことにとても感謝しています。作品のためにいろいろと知恵を絞ってくれるのは本当にありがたかったです。主演の成田さんも、撮影をしながらアイデアをどんどん出してくれました。外を歩く時は帽子をかぶる、夫婦が無言で食事をするシーンで調味料を取りに行くというのは成田さんのアイデアです。なにげない動きですが、信治というキャラクターが立体的になりました。おむつ一丁のシーンは部屋の中でしたが、とても寒い日の撮影でした。相当寒かったはずなのに、成田さんは『作品のためならなんでもやります。全裸だって大丈夫』と言ってくれて。いい雰囲気で作品を支えてくれたと思っています」と成田の作品との真摯な向き合い方に触れながら、心からの感謝を言葉にする。

沢尻には、雑談を通して映画の出演を決めた理由を尋ねたこともあったそう。「沢尻さんがインディペンデント映画に出るイメージがなかったので、立山連峰のきれいな夕日を見ながら、出演の決め手になったものはなんだったのかを訊きました。すると、いままでは世間がイメージする沢尻エリカが演じるキャラクターが多かったけれど、今回は数年ぶりの映画なので、これまで演じたことのない役でやってみたいと思って、とのことでした。もちろん役作りはしてくれましたが、とてもリラックスして自然体で演じているように見えました。細かいディテールまで、こちらがリクエストしなくても表現してくれて、本当に感謝しかないですし、改めてすばらしい役者さんだと思いました」。

とある事情で地方紙に異動となった記者の福島美波を沢尻エリカが演じる [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE
とある事情で地方紙に異動となった記者の福島美波を沢尻エリカが演じる [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE

“嘘と噂は拡がる”虚実あふれる情報に翻弄された男の物語が描かれている本作だが、白監督自身の嘘と噂との向き合い方とは。「人間が生きる社会で嘘と噂が拡がるのは多分、止められませんし、繰り返すと思います。話が拡がるスピードもどんどん速くなり、元ネタがなんだったのかを忘れるくらいのスピード感で情報が毎日展開していきます。AIでディープフェイクもできるようになるから、真実を見極めるのはどんどん難しくなるのが現実。自分で向き合い方を考えないといけない状況です。僕自身はあまりSNSを見ないようにしています。なるべく本を読むようにすることも心がけています。オールドスクールと言われるかもしれないけれど、SNSに触れる時間を自分にとって意味があると思うことに使いたいと考えています。その一つが映画作りです。映画の作り方も、配信でのスタイルが増えてきてから大きく変わっていることも事実。いろいろなことが変わっていくけれど、変わっていく時代をドライブするのは自分。振り回されないように、しっかり自分の意見を持って向き合いたいと考えています」。

「この物語は“地味”じゃないと伝わらない気がしていたんです」(港)

謎に包まれたクライマックスに注目 [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE
謎に包まれたクライマックスに注目 [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE

白監督から本作のテーマを聞いた時には「やりたくないと思いました(笑)」と振り返った港。「世界中みんなが経験したコロナ禍そのものではなく、ワクチンを扱うことはすごくセンシティブだと思いながら話を聞いていました。ただ、映画として表現することはワクチン、反ワクチンそのものではなく、過度に発達した情報社会においてなにを信じるのか、信じないのか、SNSが嘘と噂の増幅装置として機能してしまったいま、コロナ禍を通して様々な経験をしたいま、一度ちゃんと向き合ったほうがいいというのを描きたいとのことです。まさに自分のなかで問題意識としてすごくあったものなので、それならやってみたいと気持ちが動きました」と作品に参加する経緯に触れる。

白監督の企画、原案ということもあり、ディスカッションを重ねての脚本作りだったという。「日本人の監督だったらこんなふうに考えないだろうな、みたいなアイデアが出てくるのはすごくおもしろかったし、刺激的でした。やはり、外国の方との仕事はスケールが大きくなるという印象もあります。さらに、白監督が経済ジャーナリスト出身ということもあって、普段から経済のことをすごく考えているんです。日本の映画界には、そういう発想で問題意識を持っている方が僕の周りにはあまりいなかったので、すごく新鮮でした」と白監督とのやりとりでの印象を語る。

信治は世間の熱狂に呑み込まれ、やがて、かつての彼とはまるで別の人物へと変貌していく [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE
信治は世間の熱狂に呑み込まれ、やがて、かつての彼とはまるで別の人物へと変貌していく [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE

シナハンでメインロケ地となった富山県上市町に行くと聞いた瞬間に、感じるものがあったと話す。「学生時代に実習で富山県上市町に一週間くらい滞在して撮影しました。カメラで山をめちゃくちゃ撮っていたこともあって、土地勘とまでは言わないにしてもビジュアルがわかっていた。これはとても珍しいこと。『上市町』と聞いた瞬間に、なにを伝えたいのかも、ロケーションも、やりたいことも全部わかりました。こういうことは滅多にありません。オリジナルの場合は、自分の土地勘があるところで展開するというのは間違いなくあります。主人公たちの置かれた環境がわからないとイマジネーションが出てこないので。白監督は初めての富山でしたが立山連峰を見た瞬間に、『ここだ!』と思ったそうですし、撮影の宗さんから『上市町はどう?』という提案に僕が瞬時に『わかった!』となったのは奇跡的なこと」。

最初の設定では、夫を亡くした妻が主人公だったという。「僕はこの映画は重喜劇にすべきだと最初から思っていたのですが、夫を亡くした妻では物語がイメージできなくて。男性を主人公にすることで、妻を亡くしてネットでちょっと騒がれてうまくいって思い上がっていく姿がはっきりと浮かび上がりました。人間の愚かさやダメさ加減は、男性のキャラクターなら上手く描けるというのが出発点からありました。深刻な悲劇を経験したヒーローでは笑いにくい。妻を亡くしたけれど、実は妻のことについて思うところがあるという人間が、最後の最後に本当の意味で妻を失った悲しみに気づくという話にしないと物語が成り立たない気がました。その結果、割と平凡なキャラクターが主人公になったという背景があります。僕も思い上がりやすいし、調子に乗りやすいので(笑)、自分のわかる範囲のことを書きたいと持ったら、ちょっと自分に近しいキャラクターになってしまうというのもあって、どこにでもいそうな平凡なキャラクターが出来上がりました」と冗談混じりに物語の軸となる主人公、信治のキャラクター作りを解説。

商店街に登場した謎の婦人が語る言葉は、本作の鍵にもなる [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE
商店街に登場した謎の婦人が語る言葉は、本作の鍵にもなる [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE

港は「タチの悪い冗談みたいないまの社会を自由に書けるなんて、脚本家冥利に尽きます」と自身のインスタに投稿している。「ネガティブに聞こえるかもしれないけれど、ほかの脚本家だったら、もっとおもしろおかしくできたはずなんです。もっと派手な展開とか、ミステリー調にするとか。もちろんそれも考えましたが、実感のようなところにこだわっていくと、全部そうじゃないと感じてできなかったんですよね。でも、僕はこの物語は“地味”じゃないと伝わらない気がしていたんです。終盤に、赤間麻里子さんが演じるおばあさんの語りもものすごく平凡なことを言っています。めちゃくちゃ凡庸なことを言っているけれど、僕の脳みそだと、なにかエッジの効いたことを言うのではなくその逆だと感じています。ものすごくまともな普通のことを言う結末にいってしまったというのが、脚本家冥利に尽きると感じたところ。情報の戦場に新たな情報をぶち込むべきではない。もっとオーソドックスなところに引くことを考えた結果そうなったというところです。平凡な人が持っている体温。そういう人間の質感って信頼できる気がするんですよね。彼女以外の人間はロクな奴出てこないですしね(笑)」。

「情報とどう付き合うか、それこそが『#拡散』で描いていること」(港)

主人公の信治を演じた成田、新聞記者の福島役の沢尻。2人の演技についても「最高です」とコメントしている港。「成田さんはもともとすごく大好きな役者さんで怪優のイメージがあります。『スマホを落としただけなのに』を観た時に、『こういう役者を待っていた!』と思ったくらい大好き。一方で『愛がなんだ』で下北にいそうな兄ちゃんみたいな役も演じる、どっちもできる役者さんです。信治役が成田さんと聞いた時は正直、イケメンすぎると思ったんです。でも、映画では出てきた瞬間にしょんぼりとした兄ちゃんが出てきて(笑)。これはリアルだ!と思いました。成田さんは無理しない人。それがすごく良かったと思うんです。もっと派手にパフォーマンスできる場面はいっぱいあるのに、全部抑えて、実在の浅岡信治ならこうするじゃないかというところに徹しているのが本当にすばらしい。一番好きなのは、ライブ配信のシーン。信治に傾倒する男たちの一人とどんな話をしたかを部屋の中で語る場面で、質問に対して『えーっと…』と話し始めるあの高い声。調子に乗っている信治を見事に表現していると感じた瞬間です。細胞レベルでキャラクターを理解して、単語レベルで発声までなりきる。びっくりしました、本当に」と役になりきる成田を絶賛。

【写真を見る】『死ねよ、クソ田舎』は沢尻エリカに当て書きしたセリフ? [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE
【写真を見る】『死ねよ、クソ田舎』は沢尻エリカに当て書きしたセリフ? [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE

沢尻については「改稿中に、福島美波が沢尻さんと聞いて、言わせたいセリフをたくさん足しました(笑)。『死ねよ、クソ田舎』とかポンと投げる感じとか最高ですよね。独り言で毒づいているセリフは、沢尻さんが演じると決まってから足したものばかり。僕が単純に見たい!と思ったので、たくさん追加させてもらいました。最初はジャーナリズムとはなにか?みたいなことばかりを言っているキャラクターにしようと思っていたのですが、沢尻さんが演じるなら、それだけではもったいない。はみ出ることをやっていただきたいという想いもありました。本読みにも参加したのですが、沢尻さんが喋った瞬間に、言葉が音楽みたいに聞こえて惚れ惚れしました。天才だと思いました。出てくれたことに感謝しかないです!」。

“嘘と噂は拡がる”、虚実あふれる情報に翻弄された男の物語が描かれる本作。港にも自身の嘘と噂との向き合い方についても尋ねてみた。「嘘と噂に翻弄されてばかりです。リテラシーもなにもなく、たやすく騙されるし、そうなの?ってすぐに本気にしてしまいます。なので、人に教訓を述べる立場ではまったくない(笑)」と冗談混じりで笑い飛ばしつつ、SNSとは距離を置くのではなく、うまく付き合うようにしたいとも語る。「事実上、SNS自体が現実を作り出していく大きな装置になってしまっています。そこから離れて生活することは不可能だと思っています。情報とどう付き合うか、それこそが『#拡散』で描いていること。僕はインターネットの専門家でもないので、どう向き合うかの正解はわかりませんが、ものすごく平凡なことに戻るというのが僕は結構大事な気がしていて。人の体温、対面であること、実在するもの、現実にあるものを重視していくという、すごくアナログな意見だけどそこに尽きると思っています。SNSに文章を書く時、自分もそうなのですが、力を込めて書いたにせよ、気軽に書いたせよ、感情的になったにせよ、別物なんです。もはや書いた時点で、なにか違うことになっている。そして受け取る人間はさらに別のこととして受け取っていく。それがSNSというかインターネットの特性のように感じています。見る分にはいいと思っていますし、見ないと時代がわからないとも思っているので、避けることはしていません」。

映画『#拡散』は2月27日(金)公開 [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE
映画『#拡散』は2月27日(金)公開 [c]2026 #VIRAL PRODUCTION COMMITTEE

『#拡散』は「失敗の歴史の話」と話す港。「人がどう失敗するのかという話を描いている気がします。映画を観て、インターネットでの距離の掴み方を学べるかと言ったら、別にそういうことは描いていないし、教えていません。ただ、人は失敗するということがわかってほしいかなとも思っています。信治は人の死を悲しめず、身の丈以上のことをやる。そういう人間の限界みたいなことを詰め合わせているつもりです。とても平凡な話ですが、平凡だからこその怖さもある、身近に感じていただけるのではないかなと思っています」。

取材・文/タナカシノブ

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