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映画「1/10 Fukushimaをきいてみる」を通して考える福島のこと、防災のこと

  • 2026.3.9

10年をかけて、「福島のいま」の声を聞き、学校・企業研修での上映などを通じて、多くの対話の場も生んできた「1/10 Fukushimaをきいてみる」というドキュメンタリー映画があります。古波津陽(こはつよう)監督が手掛けるこの長編シリーズに私が出会ったのは、監督が主催しているオンラインフォーラム「きいてみるフォーラム~福島をきいて、防災を考える~」に参加した時のことでした。

ずっと気にしてきたけれど、15年経っても現地に足を運ぶこともできておらず、いま一体、現地はどうなっていて、そこに暮らす人たちはどんな思いでいるのか、その声を聞いてみたい。そんな想いからオンラインフォーラムに参加して、その数日後には、映画の上映会に足を運んでいました。

1年ごとに福島の「いま」を記録、10年間のプロジェクト

「1/10 Fukushimaをきいてみる」は、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の記録を残すことを目的に、2013年に始まりました。10年間で10本の映画が製作され、作品はいずれも、福島で暮らす人々の「本当に伝えたいこと」に耳を傾け、震災直後の経験だけでなく、その後の暮らしの変化や未来への課題を伝えています。当事者、非当事者、年齢、性別、職業など立場の垣根を越えて、一緒に考えるために作られた映画です。

「観る人に『何が正しいか』を提示するのではなく、多様な視点を通じて、一人ひとりが考えるきっかけを生み出すことを目的としています」(「1/10 Fukushimaをきいてみる」HPより)というフラットな感じと、「きいてみる」という在り方が、とてもいいな、と思いました。

私が見たのはシリーズ最終作、10本目となる作品「1/10 Fukushimaをきいてみる2023」(93分)です。この作品では処理水をめぐる疑問、被災地に芽吹いた最先端の産業、震災の記憶がない世代の葛藤、人どうしがつながる防災などのテーマが軸になり、震災当時の福島と現在と未来が語りを通してつながれていきます。インタビュアーを務めるのは、福島県田村市出身の女優、佐藤みゆきさんです。

映画には、11人が登場しますが、1番心に残ったのは相馬市の女子高生、菅野芽生さんの語りです。芽生さんは、東日本大震災当時5歳。元あった町の姿はあまり記憶がなく、物心ついた時の町は瓦礫だらけだったと語ります。「経験はしているけれど、当時を語れるほどの記憶はない。ましてや、上の世代の人達のように、失ってしまった元の町を取り戻したい、と熱くなるほどの「失われたもの」の記憶がない。自分たち世代が記憶を継承していけるのか」という言葉や、悩みながらも記憶の伝承に向き合おうとしている姿がとても印象的でした。時間を経る中で伝承者の世代交代が起こり、そこに悩みや葛藤が生じていくのは、例えば、原爆や水俣病の伝承の問題などとも重なっていくのかもしれません。

芽生さんの語りと並んで記憶に残ったのが、「若者と社会、学校と社会をつなげたい」と、学生たちを連れて、浜通り地区でのフィールドワークを続ける、神戸市の私立男子校灘高校の池田拓也先生の言葉です。

「『歴史の1ページで、他人事』と思っていたことが、現地に行くことで自分事になっていく」
「福島に行くといまの社会課題がすごく浮き彫りになる」

現地で見て、聞いて、正解のないモヤモヤを抱え、考え続けた高校生たちが直接、廃炉作業を担う経済産業省の担当者に質問をぶつけるシーンでは、彼らの様々な「なぜ?」が「自分事」として向き合う問題にまで変化していく様子が伝わってきます。菅野芽生さんが、灘高生らとの意見交流会後、自分の想いを伝えていくことの大切さに気付き、明るい笑顔に変わっていったのもとても印象的でした。

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現地にいまも溢れる「ちいさな声」を丹念に拾い上げ問いかける

この映画に「正しい答え」や「結論」はありません。しいて言えば、様々な立場の人の声を聞くことで何とも言えない、解決することのないモヤモヤの種を心にそっと植えられてしまうかもしれない、そんな映画です。

でも、モヤモヤしながらも、考え、対話を重ね、自分にできる形でかかわり続けていきたくなる。そんな結びの力が強い映画でもあります。映画が10年という時を重ねながら、幾重のひとの想いと共に福島の地を見つめてきたように、観客もまた揺り動かされ、自主上映会を開催したり、自分のできる形で応援したりする方も少なくないといいます。

3月11日に、思いを馳せることは、失われたいのちを悼むと同時に、未来のいのちを一人でも多く救うために、いまを生きる私たちが、何ができるかをあらためて考えることでもある。福島の声に耳を澄ませたとき、そんな想いが胸に浮かびました。

多くの方に、この映画との出会いが届き、バトンがまたつながっていくといいなと思います。

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「1/10 Fukushimaをきいてみる」の自主上映会は全国各地で開催中。さらに、10年では終わらず、次の20年を記録していくべく、短編シリーズの「1/20 Fukushimaをきいてみる」も公開されています。
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<執筆者プロフィル>
水野佳
保健師 / オートキャンプ歴9年
学生時代にはバックパックを担いでフィールドワークや旅に出かけ、バングラデシュでの井戸掘りなども経験。旅やアウトドアでの知識や経験を防災活動に繋げる。産業保健師として企業勤務時に、救命講習やBCPなどの企画・運営にも関わった経験も持つ。

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