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35年前、稀代のボーカリストが放った“25万ヒット” 聴き手を突き放すような“孤高のロックナンバー”

  • 2026.2.26

1991年2月。街には煌びやかな広告があふれていたが、人々の心の奥底では、より研ぎ澄まされた「本物」を求める衝動が静かに、しかし確実に芽生えていた。そんな時代の空気感を象徴するように、ある一曲のロックナンバーが放たれた。

氷室京介『CRIME OF LOVE』(作詞・作曲:氷室京介)ーー1991年2月27日発売

研ぎ澄まされた静かなる挑発

1991年という年は、日本のロックシーンにとっても大きな転換期であった。華美なステージ演出やキャッチーなメロディが好まれた80年代の喧騒を背に、音楽家たちはより内省的で、かつ鋭利なサウンドを模索し始めていた。その急先鋒にいたのが、稀代のボーカリスト・氷室京介である。

彼にとって6枚目のシングル。イントロが鳴り響いた瞬間、耳に飛び込んでくるのは、冷徹なまでに制御されたビートと、官能的なまでに歪んだギターの旋律である。それは、当時の音楽番組で流れていたどの楽曲とも一線を画す、圧倒的なまでの「拒絶」と「誘惑」を同時にはらんでいた。

多くのアーティストが万人受けを狙って耳当たりの良い音を構築する中で、彼はあえて聴き手を突き放すようなストイックな構成を選んだ。メロディラインはどこまでも洗練され、不必要な装飾を削ぎ落としたミニマリズムの極致とも言える仕上がりになっている。それでいて、サビへと向かう高揚感には抗いがたい磁力が宿っており、一度聴けばその中毒性の虜になる。

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2003年、ソロ15周年記念ライブで熱唱する氷室京介(C)SANKEI

黄金のタッグが生んだ緻密な重層感

この楽曲の魅力を語る上で欠かせないのが、編曲を担当した西平彰の存在である。彼は当時の氷室サウンドを語る上で欠かせないキーマンであり、この曲においてもその手腕を遺憾なく発揮している。デジタルとアナログが交錯するサウンドメイキングは、今聴き返しても驚くほどモダンで、古さを一切感じさせない。

西平の手による緻密な音の積み重ねは、氷室が描いた重厚なテーマをよりドラマティックに演出している。例えば、抑制されたバースから爆発的なサビへと繋がるダイナミクスの変化は、まるで上質な映画の一場面を見ているかのような錯覚さえ抱かせる。一音一音が意味を持ち、聴く者の想像力を激しく刺激する

この楽曲は、ただの「聴く音楽」ではなく、その世界観を「浴びる音楽」として成立していた。当時のファンたちがこの曲をヘッドホンで聴き込み、そこに込められた音の粒子の一つひとつに神経を集中させていたのも、この圧倒的な完成度があったからこそだろう。

クォーターミリオンという熱狂の証

『CRIME OF LOVE』は、それまでのヒット曲の定石から外れた、ダークでハードな質感を持つ楽曲でありながら、結果として25万枚、すなわちクォーターミリオンを超えるセールスを記録した。タイアップなどの強力な後ろ盾に頼り切ることなく、アーティスト自身の純粋なクリエイティビティと、それを支持する熱狂的なフォロワーの存在だけで勝ち取った数字。

このヒットは、音楽をファッションの一部として消費していた層ではなく、その魂の叫びに共鳴し、深く愛し続ける層が確実に存在していたことを証明した。ランキングの順位という一過性の指標以上に、この25万枚超という数字には、当時のリスナーが氷室京介という表現者に寄せた深い信頼と期待が凝縮されているのである。

時代を超えて響く「孤独な美学」

35年という月日が流れ、音楽を取り巻く環境は激変した。レコードやCDからデジタル配信へと形を変え、誰もが手軽に音楽に触れられる時代になった。しかし、どんなに技術が進歩しても、この曲が持つ「孤高の美学」を凌駕する作品に出会うことは容易ではない。

夜のハイウェイを走り抜けるような疾走感、それでいてどこか冷ややかな孤独を感じさせる空気。氷室京介が当時、何を思い、何を見つめてこの曲を書き上げたのか。その答えは、今も旋律の中に隠されている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。