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「月500kmならガソリン車で十分」と30万円ケチった結果…ハイブリッドを捨てた30代女性が陥った“大誤算”

  • 2026.2.14

 

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出典元:PIXTA(画像はイメージです)

「車は動けばいい。安く済むならそれに越したことはない」と、ハイブリッドのミニバンからあえてガソリンのコンパクトカーに乗り換えたAさん(30代女性)。

購入費用は大幅に浮いたはずでしたが、待ち受けていたのは驚くほど早く減っていく「燃料計の目盛り」に追われる日々でした。お金ではなく“心の余裕”を削り取る、「航続距離」という見落としがちなスペック。

先日話を聞いたオーナーの実体験から、車選びの盲点を紐解きます。

「給油を気にする」という思考ノイズ

先日、ある30代の女性・Aさんから、車選びにまつわる興味深いお話を聞く機会がありました。取材の冒頭、Aさんは少し困ったような笑顔を浮かべながら、こう切り出しました。

「車のカタログって、一番大事なことが書いていない気がするんです」

彼女がいま抱えているストレス、それは特定の大きなトラブルではありません。毎月、いや毎週のように繰り返される、日常のふとした瞬間に訪れる「小さな憂鬱」だといいます。その感覚がもっとも強く現れるのが、子どもを習いごとへ送り、夕飯の買い物をして車に戻った、スーパーの駐車場でのこと。ふとメーターパネルに目を落とすと、燃料計の目盛りがまたしても中央より左側まで減っていることに気づくのです。

「あれ、この前入れたばかりなのに、もう半分を切っているの?」

まだ警告灯が点灯するレベルではありませんし、明日すぐにガス欠になるわけでもありません。しかし、目に見えて減っていくその目盛りを見るたびに、Aさんの心には「そろそろガソリンスタンドに行かなければ」という小さな焦りが、じわりと広がります。以前乗っていた車では、給油のことなど忘れた頃に思い出せばよかっただけに、そのギャップに戸惑っているのです。

「今は常に、頭の片隅で『次の給油タイミング』を計算させられているようで…」

そう語るAさんの表情には、隠せない疲れが滲んでいました。ここで補足しますと、彼女は決して「ガソリン代が高くて困っている」わけではないのです。実際、月々の支払いが家計を圧迫しているわけではありません。彼女を本当に悩ませているのは、財布の痛みではなく、日々の生活に割り込んでくる「給油を気にする」という思考ノイズでした。

では、なぜAさんは、経済的には問題ないはずの愛車で、このような「精神的な窮屈さ」を感じることになってしまったのでしょうか。その理由を探るため、時計の針を少し戻して、彼女の愛車選びの経緯から振り返ってみましょう。

「どうせ足車だから」ハイブリッドを捨てて選んだ“賢い選択”

Aさんが以前所有していたのは、国産のミニバン(ハイブリッド)でした。その車は、50リットル以上の頼もしい燃料タンクと、実燃費で18km/L前後という優れた燃費性能を兼ね備えていたといいます。

この「タンク容量」と「燃費」を掛け合わせると、一度満タンにすれば、計算上は900km近くも走り続けることが可能です。当時のAさんの使用頻度であれば、給油は月に1回あるかないか。彼女にとってガソリンスタンドは、空気のように「そこにあっても意識しない存在」でした。

そんな「給油フリー」な生活を送っていたAさんが車の買い替えを検討し始めたのは、家庭の事情が変わったことがきっかけです。メインで使うファミリーカーを大きな車に買い替えることになり、Aさんが普段使う車として、取り回しの良いコンパクトカーを購入することになりました。主な用途は、まだ小さい子どもの送り迎えや、近所への買い物、そして休日に少し出かける程度。月間の走行距離は、だいたい500kmから、多くても600kmといったところです。

ディーラーでの商談中、営業担当者からは「プラス30万円程度でハイブリッドモデルも選べますよ」という提案があったといいます。しかし、その提案を聞いたAさんは、これまでの自分のカーライフを振り返り、冷静に計算機を叩きました。

「前のミニバンもハイブリッドだったけれど、月に500kmちょっとしか走らない生活で、果たして高い車両代の元は取れていたのかしら」

その場で計算してみると、ガソリン代の差額だけで30万円の車両価格差を埋めるには、かなり長い年月が必要であることがわかったのです。

「きっと前の車も、経済的には損をしていたのかもしれない」

そう気づいてしまったAさんが、実用的なガソリンエンジンのコンパクトカーを選んだのは、ある意味で当然の帰結でした。浮いた30万円で、子どものために何か買ってあげたり、家族旅行に行ったりしたほうがよほど有意義ではないか。そう考えたAさんは、納車のその日まで、自分の判断は極めて合理的で、賢い選択だと信じて疑いませんでした。

納車1ヶ月で気づいた「数字の罠」と「生活のノイズ」

納車された新しい愛車は小回りも利き、近所の細い道でもスイスイと走ってくれる、期待通りの車でした。カタログ上の燃費数値も決して悪くはなく、WLTCモード燃費は約20.0km/Lという優秀な数値をマークしています。

しかし、実際に生活の中で使い始めて1ヶ月が経つ頃、Aさんはカタログの数字だけでは見えてこなかった「計算外の現実」に直面することになります。信号待ちやストップ&ゴーの多い「近所の買い物・送迎」がメインの使用環境では、実燃費が13km/L前後にとどまってしまったのです。

もちろん、燃費の低下自体はある程度予想していたことでした。しかし、Aさんが「完全に盲点だった」と語るのが、燃費以上に生活へ影響を与えた「燃料タンクの小ささ」です。以前のミニバンに比べて、新しい車のタンク容量は20L近く小さい、30L強しかありませんでした。実燃費13km/Lにタンク容量30Lを掛け合わせると、計算上の航続距離は390kmとなります。ただ、ガス欠ギリギリまで走ることは現実的ではないため、実際には300kmを走ったあたりで、給油を意識し始めなければなりません。

以前の車であれば、300kmなど「まだまだ序の口」でした。ところが今の車では、その距離が「給油のリミット」として、驚くほど早く迫ってくるのです。Aさんは性格上、警告灯がつくまで粘るのが不安なタイプだといいます。そのため、給油の目盛りが半分、そして4分の1と減っていくたびに、思考のスイッチが入ってしまいます。

「明日のお迎えの前に寄らなきゃいけないかな」「週末に出かける予定があるから、今日のうちに入れておかないと不安…」

給油回数自体は、回数だけ見れば月2回程度かもしれません。しかし、「給油を意識しなければならない期間」が、月の半分以上を占めているような感覚に陥ってしまうのです。この「常に残量を気にかけ、ルート上のスタンドを探し、時間を捻出する」という行為が、地味に脳の目盛りを消費するストレスとなり、Aさんの心を削っていきました。

失って初めて気づいた「ハイブリッド代+30万円」の本当の価値

そうした「給油に追われる感覚」に日々疲弊する中で、Aさんはふと、以前乗っていたハイブリッドのミニバンでの生活を思い返すようになったといいます。そして、自分がいかに恵まれた環境にいたのかを、皮肉にも「失ってから」痛感することになったのです。

当時、彼女が享受していたのは単なる「燃費の良さ」だけではありませんでした。「給油フリー」ともいえる、ガソリンのことを考えなくて済む生活そのものを手に入れていたのです。現代の生活はただでさえ多忙です。

まだ手のかかる小さい子どもの育児、家事、そして仕事と、マルチタスクをこなす日々の中で、「ガソリンの残量管理」という思考ノイズが一つ増えることは、思った以上に生活の質(QOL)を下げる要因となりました。

そして、そんなある日、夫から何気なく言われた一言が、Aさんの胸に深く刺さることになります。

「なんか最近、よくガソリン入れてない?」

夫に悪気がないことはAさんもわかっています。それでも、返す言葉が見つからなかったそうです。その言葉を聞いた瞬間、Aさんの中で、かつて計算機を叩いて出した答えが音を立てて崩れ落ちました。

「元が取れていないと思っていたあのハイブリッド代は、単なる燃料代の前払いではなかったのかもしれない」

取材の終わり際、Aさんは遠くを見るような目でそうつぶやきました。あの30万円という金額は、「給油の手間や、それを気にする思考時間を減らす=時間を買う」ための投資だったのかもしれない、と。

目先の損得勘定を優先した結果、彼女は生活の中にある大切な「心の余白」を失ってしまったようでした。

「節約できた30万円で何か美味しいものを食べようと思っていましたけど、日々の小さなストレスの積み重ねを考えると、どちらが幸せだったのかわからなくなってしまいました」という言葉が、今の彼女の心境を如実に物語っていました。

カタログ燃費よりも「航続距離」を想像しよう

Aさんのお話を聞いて、筆者も改めて車選びの奥深さを感じずにはいられませんでした。多くの人がまず注目するのは、やはり「燃費(km/L)」の数値でしょう。しかし、Aさんのような後悔をしないためには、もう一つの重要な視点を持つことが大切なのかもしれません。

それは、「実燃費 × タンク容量 = 航続距離」という計算式です。特に、子育て中で日々の生活が忙しい人や、細かい管理が苦手な人ほど、この「一度の満タンで何キロ走れるか」というスペックも考慮したほうがよいのではないでしょうか。

自分の生活サイクルに照らし合わせたとき、月に何回給油が必要になるのか。そして、月に何回「給油のこと」を考えなければならないのか。その頻度を具体的に想像してみることで、自分にとっての本当の意味での最適な一台が見えてくるはずです。

「ガソリンの残量を気にしなくていい」という自由は、スペック表の数字以上に大きな価値があるのかもしれません。Aさんは今日も、減りゆくメーターを横目に見ながら、「次はまた航続距離の長い車にしようかな」と、かつての愛車が持っていた頼もしさを懐かしんでいるそうです。



ライター:根岸 昌輝
自動車メーカーおよび自動車サブスク系ITベンチャーで、エンジニアリング、マーケティング、商品導入に携わった経験を持つ。
現在は自動車関連のライターとして活動し、新車、技術解説、モデル比較、業界動向分析など、業界経験に基づいた視点での解説を行っている。


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