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幼馴染のサワ(円井わん)との埋まらぬ溝は?錦織(吉沢亮)の昇進話は?【ばけばけ】が描く人間ドラマ

  • 2026.1.26

幼馴染のサワ(円井わん)との埋まらぬ溝は?錦織(吉沢亮)の昇進話は?【ばけばけ】が描く人間ドラマ

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節子をモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

時の人となった、ヘブンとトキ

日本に伝承される怪談をもとにした作品を発表したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)とその妻・セツをモデルとしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第16週「カワ、ノ、ムコウ。」が放送された。

ヘブン(トミー・バストウ)が来日した目的であった日本滞在記は、ついに完成した。もともとその完成をもって日本を離れる予定であったが、トキ(髙石あかり)、そして松江の人々との出会いによって、これからもここで暮らしていくことになったことは説明するまでもない。

ヘブンの来日当初からさまざまなアシストを続けてきた英語教師の錦織(吉沢亮)も招き、西洋料理を中心とした完成祝いのパーティが松野家で開催された。馴染みはないものの好奇心豊かな松野家の面々らしく、珍しい西洋料理にも興味津々で楽しむわけだが、そんなヘブンと松野家の様子を記事にしたいと訪れた記者の梶谷(岩崎う大)による連載「ヘブン先生日録」が『松江新報』でスタート。

パーティ料理を食べていただけのことを「夕餉は西洋料理が定番」と書くなど、〝異人〟そして〝異文化〟への好奇心を煽るような記事は幅広い層に読まれ、そこに妻として登場するトキも、街で声をかけられ英語をしゃべってみてくれと頼まれるなど、一躍時の人のような状態となった。

「セカイ、イチバン、カワイイ、ジョセイデス」(ヘブン)
「センキュー」(トキ)」
「You’re welcome」(ヘブン)」

これだけでトキを取り囲んでいた女性たちは「キャー!」と盛り上がる。今ならSNSがその一番手にあたるのかと思うが、メディアの影響力の強さと滑稽さが浮き彫りになってくる。

「時の人」状態であれば、ヘブンと松野家に関することはなんでも話題になるわけで、フミ(池脇千鶴)が食事中に床の隙間に落とし拾えなくなった箸をめぐり、それを取ることができる人を連載で募ると大勢が駆けつけるといったコメディタッチの展開も巻き起こすほどとなり、街角ではヘブンとトキの似顔絵や扇子が売られ、フミは「変装」というかむしろ目立つのではないかという扮装で街を歩くなど、ヘブンとトキ、そして松野家は完全に社会現象化をとげた。

そんな微笑ましいノリのいっぽうで、今週のサブタイトル「カワ、ノ、ムコウ。」という本作の当初から意識づけられてきた、川と橋で区分されてきたあっち側とこっち側の世界。当初の松野家からの視点での「川の向こう側」は、言ってみればいわゆる「底辺」の世界のような扱いで、多額の借金によって川の向こう側に移り住むことになったことがこの作品の世界観を印象づけてきた。

サワの心の棘がさらに深く刺さっていく

史実をもとにしたストーリーではあるが、語りをつとめる蛇と蛙(阿佐ヶ谷姉妹)が第2週予告で「貧乏脱出お見合い大作戦!」と言うなど、いつか脱したい場であるとされてきた。この物語は、そこに現れたヘブンと出会うことで、それこそ一家ごと脱出に成功するというシンデレラストーリー的な側面ももつ。つまり、トキはヘブンという王子様に見染められた成功者である。

そこには同じ「川の向こう」の住人としての友情や連帯感も存在していたはずではある。しかし、幼馴染のサワ(円井わん)は、ハッキリとした埋まらぬ溝を感じていたことが前週から描かれてきた。

前週、結婚したヘブンとトキの新居を訪れたサワが、玄関に飾られた立派な花を見て自分が持ってきた花を思わず脇に投げ捨ててしまったり、その新生活の豊かさにどこかいたたまれなくなり早々に帰ってしまうというなんとも切ない場面があったことが、サワたちにとってトキが「あっち側」、自分たちには手の届かない別世界の住人になってしまったことをはっきり示された。

今週はその「溝」のようなもの、ある種の「格差」によるやるせなさがよりクッキリと、時の人となったヘブン夫妻という、表面上は笑ってしまうようなコミカルなブームの描かれ方と同時に浮き彫りにされることで強く迫ってきた。

サワだって、そして遊女のなみ(さとうほなみ)だって、本当はいつか橋をわたることを夢見ている。非正規の教員であるサワが、正規の教員となり、自立することを必死に目指しているのは当然だが、どこかその壁の高さも実感する日々だ。いっぽうなみはといえば、身請けの話が舞い込むものの、そのチャンスを「怖くなった」といい、
「一緒にずっと傷を舐め合って生きていこう」

なみはサワにそう提案するが、サワはそこに乗ろうとはしない。

サワやなみと同じ側にいたはずだが、もともとどこか「天然」なところのあるトキは、そのあたりの気持ちを汲み取ることができない。決して悪気のないふるまいが、無邪気にサワを傷つけてしまっていることにも気づかないところが、サワの心に棘を刺す。

誰が悪いわけでもないかもしれない。トキの運がよかっただけなのかもしれない。それはサワにも十分わかっているはずだが、溝はどんどん深まり、サワの心の棘がさらに深く刺さっていく。浮かれたヘブトキフィーバーとの対比がそれを強烈に浮かび上がらせてくる演出には身震いしてしまいそうだ。

いっぽう、錦織には新たに校長への昇進の話が持ち出され、その行方、そしてそれぞれの登場人物との関係性もこれからどうなるのか、「ばけばけ」の人間ドラマとしての側面に注目していきたいところだ。

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