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テプラ、メルカリ、格ゲー…リアルな青春の匂いが漂う、すばる文学賞作品

  • 2026.3.9

2025年第49回すばる文学賞を受賞した「粉瘤(ふんりゅう)息子都落ち択(たく)」の著者・更地郊さんに、作品についてお話を伺いました。

大学進学で大分から上京した主人公の野中は社会生活になじめずドロップアウト。ほぼ引きこもりの生活を送る中、〈都落ち択〉、すなわち地元へのUターンを決める。引っ越しまでの数か月を彩るのは、東京でできた唯一の友人である忍との格闘ゲームや、古アパートから徒歩30秒の自販機で毎日買うマウンテンデュー、その自販機に貼られた謎のメッセージが刻印されたテプラ、潰れた粉瘤から出た血をなすりつけたテプラを呪物としてメルカリに出品し、それをめぐる奇妙なやりとりの数々や動画コンテンツなど。

わびしいけれどおかしみもあって、そこにリアルな青春の匂いが漂う「粉瘤(ふんりゅう)息子都落ち択(たく)」で、すばる文学賞を射止めたのが更地郊さんだ。

「一つ前に書いた小説が別の新人賞で最終候補に残りまして、じゃあこの作品では『そういえば書いたことがないな』というあれこれをやってみようと思ったんですね。男性を主人公にしたのも初めて。“野中が親の事情で実家に帰る”ことは決めて、そのゴールに向かって、野中と忍というふたりの関係性やそれに付随する街の小さな事件…、どうでもいいことでどれだけ埋めていけるかを試したいなと思って書いた気がします」

そんな独特の世界観の中で光っているのが、野中と忍の、友達というには互いに遠慮がちで、そのくせ温かみを感じる、ちょっと不思議な友情だ。とある事情で裕福になってしまった忍は、格闘ゲームのスパーリング相手をしてもらう条件で、野中に報酬を払っているのだが…。

「運がいいだけで生き延びている後ろめたさが肥大化して、〈内圧だけが高まる感じ〉で出力されているのが忍なのかなと。僕も運ありきの人間なので、感覚としてはわかる気がします。野中にすれば、それなりに仲のいい友とお金が介在することに対する居心地の悪さもある。出所を執拗に知りたがるのも、『いつか返す』と言うのも、野中なりに筋を通したいのでしょう」

ちなみに、野中の口癖のようになっている〈択〉は実はゲーム用語。

「自分の周りで普通に使っていた言葉が他のコミュニティでは全然通じないことってありますよね。そういう噛み合わなさは普遍的かなと」

狭い世界であがく青年たちが踏み出す一歩はとても小さいが、無駄ではない。そんな気持ちが湧いてくる。

更地 郊

さらち・こう 2025年、本作で第49回すばる文学賞を受賞。本作執筆に際して、影響を受けた一冊に、故・大里俊晴著『ガセネタの荒野』(品切れ再版未定)を挙げている。

information

『粉瘤息子都落ち択』

宇多田ヒカル、テプラ、メルカリ、格ゲーなど、新旧のサブカルやアイテムが入り交じる。ネットスラングがブンガクに侵食する面白さが炸裂。集英社 1870円

写真・下城英悟 インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2485号(2026年2月25日発売)より

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