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「NHK作品でも抜群」「今季のダークホース」口コミで“評価を広げている”冬ドラマ “笑わない”女優の存在感

  • 2026.2.16

放送以来、SNS上でも「テミスはNHK作品でも抜群に良い」「今期のダークホースはテミス」と繰り返し話題になっているドラマ『テミスの不確かな法廷』。ある特性を抱える裁判官・安堂清春(松山ケンイチ)が、独自のやり方で難解な事件と丁寧に向き合う様が共感を引き寄せている。その静かな熱量の中心にいるのが、恒松祐里演じるエリート判事補・落合知佳だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

“笑わない演技”が意味するもの

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ドラマ10『テミスの不確かな法廷』2月3日放送 第5話より(C)NHK

視聴者の口コミによって静かに評価を広げている『テミスの不確かな法廷』。主人公は、ある特性を抱えながらもそれを公表せず、“普通”を装って生きる裁判官・安堂である。
彼のこだわりや独特の視点が、法廷の場で見落とされがちな矛盾を浮かび上がらせていく、異色のリーガルミステリーだ。当初は彼に懐疑的な目を向けながらも、そっと見守るようになった弁護士・小野崎乃亜(鳴海唯)や部長判事の門倉茂(遠藤憲一)など、しっかりとした実力に裏打ちされた俳優陣が土台を支える。

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ドラマ10『テミスの不確かな法廷』1月27日放送 第4話より(C)NHK

そのなかの一人、恒松が演じる落合知佳は、任官3年目で将来を嘱望されるエリート判事補だ。何よりもまず論理を重んじ、無駄な感情を排した判断こそが正義だと信じて疑わない、絵に描いたような“堅物”である。
まず驚かされるのは、恒松の徹底した“笑わない演技”だ。序盤の落合はほとんど表情を崩さない。台詞の温度は低く、視線は硬質。余計な感情の揺れを削ぎ落とした佇まいは、まるで法そのものを体現しているかのようにも見える。

更新され続ける表現力の正体

思えば恒松は、感情の出力を武器にしてきた俳優である。近年話題になった『ひと夏の共犯者』での一人二役は、目の色や表情、ちょっとした所作の違いなどで別人であることを体現する難役をこなし、彼女の演技力を裏付けた。
明るさや激情、あるいはむき出しの怒りを爆発させる役柄でも強烈な印象を残してきた恒松。しかし今回は、徹底した抑制の演技で視聴者の目を惹きつけている。引き算の演技によって、冷徹なエリート像を構築している過程が見事だ。

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ドラマ10『テミスの不確かな法廷』1月27日放送 第4話より(C)NHK

落合は、安堂の型破りな言動に戸惑い、苛立ちを隠さない。安堂が“こだわり”で真実に迫るなら、落合は“理論”で整理しようとする。二人は同じ法廷に立ちながら、まったく違う地図を描いているのだ。その対比が、本作の緊張感にも繋がっている。
回を重ねるごとに、落合のなかに微細な揺らぎが生まれていくのも本作の特徴。証拠は揃っていて、理屈も通っている。それでも、目の前の人間の表情が頭から離れない。第5話では、知識や前例だけでは裁ききれない事件に直面し、落合の瞳に初めて迷いが宿った。

理性で自分を縛り続けてきた人物が、ほんの少しだけ“人間”に戻る瞬間。そのグラデーションを、恒松は一話ごとに丁寧に積み重ねている。

心の変化が教えてくれるもの

本作は、リーガルドラマ特有の派手な逆転劇を売りにしていない。むしろ人物の心境が変化していく様を、じっくりと捉えている。その中心で、落合知佳というキャラクターが、物語の奥行きを深めている。

『テミスの不確かな法廷』というタイトルが示すのは、法の不完全さだけではない。人が人を裁くという行為の曖昧さ、そして裁く側の人間もまた不確かな存在であるという事実だ。落合は、正しい裁判官であろうとしてきた。しかし彼女は少しずつ、迷いながら考える裁判官へと変わりつつあるのかもしれない。

恒松は、笑顔を封じることで、反対に感情の豊かさを浮かび上がらせた。冷たい理性の仮面の下に、揺れる心がある。その事実を、繊細な演技で証明している。
法廷も、正義も、人の心も不確かだ。しかし、その揺らぎを引き受ける勇気こそが、人を成長させる。恒松演じる落合知佳の変化は、そのことを静かに教えてくれる。


NHK ドラマ10『テミスの不確かな法廷』 毎週火曜 夜10:00~10:45
NHKプラスONEで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_