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パリコレの“外側”で出合った美意識と物語。イベントとブランド展示会を巡って

  • 2026.1.23
Hearst Owned

Bonjour! パリ・ファッションウィークの期間中、街はいつもより少しだけ浮き足立ちます。ランウェイのスケジュールに追われながらも、実は私が密かに楽しみにしているのは、その合間に点在するイベントたち。今回は、2026年春夏シーズンのコレクションの“外側”で触れた、印象的な瞬間とすてきなブランドについてご紹介したいと思います。

「レポシ」とスターリング・ルビーによるコラボレーションで誕生した、彫刻と装身具の境界に位置する限定エディションのブローチ。 Hearst Owned

まず足を運んだのは、パリのジュエリーメゾン「レポシ」と、現代アート界を代表するアーティスト、スターリング・ルビーによるコラボレーションの発表会です。 ハイジュエリーと現代アートの出合いによって誕生したのは、彫刻と装身具の境界に位置する限定エディションのブローチ。ルビーの代表的な『レリーフ』作品シリーズに着想を得た構成主義的なフォルムは、もともと廃材や母の生家の納屋の木材など、個人的な記憶を宿した素材から生まれたもの。その精神を、「レポシ」は18Kシャンパンゴールドとダイヤモンドという最もプレシャスな素材へと翻訳しました。

着想源である、ルビーの代表作『レリーフ』作品も展示された。 Hearst Owned

制作には、ラピッドプロトタイピング、伝統的なワックス技法、3Dレジンなどを駆使。一見すると驚くほどシンプルなのに、角度や面取りの精度には、ヴァンドーム広場ならではの高度な職人技が凝縮されています。「レポシ」のクリエイティブ ディレクター、ガイアさんとルビーさんは10年近い付き合いがあり、互いにインスピレーションを与え合う関係なのだそうです。

ガイアさんが見せてくださったデザインスケッチ。 Hearst Owned

ルビーさんは「『レポシ』のアプローチは建築的でミニマルですが、同時に“壊れること”にも開かれている。そのオープンさこそが、私を引きつけました」と語ります。一方、現地でお目にかかれたガイアさんは、「彼は“進化したアメリカン・ミニマリズム”の体現者。鋭いコンセプトと詩的な感性を併せ持つ存在です」と話していました。ふたつの創作言語が交わり、思考とクラフトが可視化されたアート・ジュエル。身につけることのできる彫刻でありながら、どこか親密で、控えめな詩情を宿しています。

ロンドンを拠点とする「<a href="https://www.instagram.com/aymermaria/">アイマー マリア</a>」の作品。ダイヤモンドをちりばめたピラミッドが連なり続く”テネ”リングは、無限を象徴するデザイン。 Hearst Owned

一方、新進ジュエリーブランドの展示会にもいくつか訪れたなかで、ロンドンを拠点とする「アイマー マリア」の作品をウィッシュリストに追加しちゃいました。2020年に、アフロ・カリビアンのルーツを持つイギリス人デザイナー、ルース・アイマー・マーテンによって設立されたこのブランドは、古代文明や建築からのインスピレーションと、個人的な文化的記憶を重ね合わせるようにジュエリーを生み出しています。

古代ギリシャ・ローマ建築の柱や神殿、西アフリカに見られる宗教建築を思わせるフォルムは、まるで発掘されたばかりの遺物のよう。装飾としてのジュエリーではなく、身体を飾る“レガリア(象徴的装身具)”としての意味合いが強く感じられます。存在感はありながらも、重ねづけできる繊細さも兼ね備え、手仕事を感じるクラフトが好きな私の好みに、まさにぴったりでした。デザイナー、ルースさんは太陽のように温かく、ポジティブなエネルギーにあふれる方で、そんな彼女の人柄もデザインに投影されているような気がします。

ファーストコレクションのシグネチャーである、古代ギリシャの建築を投影した“ピラストロ”コレクション。 Hearst Owned

別の日は、新鋭フレグランスメゾン「シャンブル 52」の親密な朝食会で一日がスタート。創設者兼クリエイティブ ディレクターのニコラ・ドゥウィットが、自身の旅の記憶や文化的体験を香りへと昇華させ、2024年にフランスで立ち上げたブランドです。ひとつひとつの香りについて、ニコラさんが丁寧に説明してくれたのですが、香水のプレゼンテーションというより、短編小説の朗読を聞いているような感覚に近かったかもしれません。

2024年にデビューした「シャンブル 52」。既にフランスで栄誉ある賞を受賞したという大注目フレグランスメゾン。 Hearst Owned

“52号室”を意味するブランド名の由来は、彼がブラジル・サンパウロで滞在したホテル「ユニーク」の部屋番号。その屋上に広がる赤いプールの光景は、ボトルやパッケージにも反映され、メゾンの象徴的なビジュアルになっています。印象的なのは、香りの出発点が“文章”であること。旅先で書いたエッセーや、出会い、心が動いた瞬間をつづった文章を調香師に渡し、そこから香りが組み立てられていくのだそうです。

現在のコレクションは、そうした物語から生まれた6つの香り。それぞれが独立したストーリーを持ち、肌の上でゆっくりと展開していきます。中でもメゾンを代表する“タバコ メモリーズ”は、サフランのスパイスとアイリスの気品がタバコリーフの温かさと重なり合い、まるで煙のベールに包まれるような感覚。朝食会で香りを試しながら、ニコラさんが何度も口にしていた「香水は完成品ではなく、身につける人の記憶によって完成するもの」という言葉が心に残りました。

セシリー・バンセンが手掛けた雑誌『A MAGAZINE curated by』。私は彼女のドレスと「アシックス」とのコラボスニーカーで参加しました。 Hearst Owned

ある夜には、毎号ひとりのデザイナーやアーティストがキュレーターとして雑誌全体を監修するファッション&カルチャー誌『A MAGAZINE curated by』のローンチイベントへ。今回キュレーションを手掛けたのは、個人的に大ファンであるデンマーク人デザイナー、セシリー・バンセンです。誌面には、彼女の服と同じく、フェミニンでロマンチックでありながら、どこか影を含んだ世界観が一貫して流れています。甘さだけに寄りかからず、もろさや緊張感が静かに同居している。そのバランスがとても印象的でした。

ギャラリーのような個人邸宅で開催されたローンチイベント。会場では、「ザ・ノース・フェイス」とのコラボ第二弾も拝見できました。 Hearst Owned

完成されたビジュアルを見せるというより、誰かの私的な日記をそっとのぞき見しているような感覚になるのも、この一冊ならでは。デジタルが加速する今だからこそ、紙の雑誌が持つ重みや、あえて語られない余白の美しさを改めて実感させてくれる夜でした。

「ザラ」創立50周年を祝うアニバーサリーイベントにて。「アライア」クリエイティブ ディレクター、ピーター・ミュリエは優雅なバスローブを制作。 Hearst Owned

別の夜に参加したのは、今季のパリコレで外せなかった「ザラ」創立50周年を祝うアニバーサリーイベントです。50周年を記念したスペシャルコレクションは、50名のアイコニックなクリエイターとともに制作された50点限定のラインナップ。例えば、デザイナー、ピーター・ミュリエによるバスローブ、ポップスターのロビー・ウィリアムズが手がけたミラー、そして犬好きの私の心をつかんだのは、映画監督ルカ・グァダニーノの愛犬が描かれたセーター。価格帯は、お手頃な“ザラ価格”から思わず二度見してしまうものまで幅広く、それも含めてこの夜の楽しさでした。

映画監督ルカ・グァダニーノが捉えた愛犬の写真を、ジャカードでセーターのデザインに。 Hearst Owned

会場には、ブランドと縁の深い友人やクリエイターが大集結。その空間デザインを手がけたのは、かつて伝説的コンセプトストア「コレット」を率いたサラ・アンデルマンです。キャンドルが整然と並ぶテーブルや、空中につるされたブックシェルフを眺めながら、「ここが新しいお店だったら間違いなく通うのに……」と思ったものの、実際は数日間のみのポップアップ。そのはかなさも含めて、とてもスペシャルな体験でした。ファッション、アート、カルチャーがごく自然に混ざり合い、「ザラ」というブランドの懐の深さを改めて実感させられます。「ザラ」公式サイトで展開されているので、気になる方ぜひチェックしてみてください。

ロビー・ウィリアムズが手がけたミラーはポップアートのよう。 Hearst Owned

ランウェイの華やかさから少し離れた場所で出合った、こうした体験のひとつひとつが、今季のパリをより立体的に、そして人間的に感じさせてくれました。完璧に整えられたランウェイの裏側には、香りや言葉、対話や偶然が折り重なった、もっと生身の時間が流れている。

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だからこそ、服は単なるトレンドではなく、記憶や感情と結びついて、私たちの中に残っていくのだと思います。私自身も、雨に見舞われたり、ショー会場まで猛ダッシュしたり、うどんを堪能していたらアポイントメントを逃しそうになったり(笑)。そんなドタバタ劇も含めて、今季のパリコレは新たな発見と学びに満ちた時間でした。次のシーズンもまた、この街に振り回されながら、その瞬間をしっかり味わい、私なりの視点で、みなさんにその空気をお届けできたらと思います!

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