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月1.8万円が勝手に消える…元自動車メーカー担当が試算、人気ミニバンの“見えない維持費”

  • 2026.1.30
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出典:PIXTA(※画像はイメージです)

満タンにしたガソリンが減っていくスピードには敏感でも、愛車に積み上がる「見えないコスト」の正体を、正確に把握できているオーナーはどれほどいるのでしょうか。

今回は、ファミリー層に絶大な人気を誇る「トヨタ ヴォクシー(ハイブリッド)」を例に挙げ、新車から5年間の維持費を徹底的にシミュレーションします。

3年目の車検や、避けては通れないタイヤ交換といった出費を含めたとき、毎月いくらが財布から消えることになるのか。その「見えない固定費」の正体を、具体的な数字とともに紐解いていきます。

幸せなカーライフに潜む「新車のハネムーン期間」

念願のミニバンが納車され、家族と共に過ごす週末。広々とした室内で子どもたちがはしゃぐ姿や、ハイブリッド車ならではの静かで滑らかな走り出しは、まさに「買ってよかった」と実感する至福の瞬間です。特に納車からしばらくの間は、最新のクルマがもたらす生活の変化に心が躍り、維持費のことなど二の次になってしまうのも無理はありません。

実は、この「最初の数年間」こそが、オーナーを金銭的な錯覚に陥らせる落とし穴なのです。

新車で購入した場合、最初の車検が来るまでの3年間は、消耗品の交換もほとんど必要ありません。加えてハイブリッド車であれば、ガソリンスタンドに行く回数も減るでしょう。その結果、「このクルマは、ローンと駐車場代、あとはガソリン代だけで維持できている」という、心地よい誤解が生まれてしまいます。

しかし、クルマという機械は、走っても走らなくても、確実に歳をとります。

新車の「ハネムーン期間」が終わる3年目、そして5年目。そこに待ち受けているのは、まとまった額の車検費用や、タイヤ交換費用です。これらを「忘れた頃にやってくる不運な出費」と捉えるか、それとも「最初から決まっていた必須コスト」と捉えるか。その意識の差が、数年後の家計の余裕を大きく左右するのです。

今回は、この心地よい誤解を解き、現実的な数字と向き合うために、あえて期間を「5年間」に設定してシミュレーションを行います。新車の甘い期間を過ぎ、維持費の現実が顔を覗かせるタイミングまでを含めて、冷静に計算してみましょう。

「人によって違う」を排除した、リアルな試算条件

では、実際にどれくらいのお金がかかるのかを計算していきますが、その前に試算のベースとなる条件を整理しておきましょう。今回は、日本のファミリーカーのスタンダードとも言える、Mクラスミニバンをモデルケースとして採用します。

【想定車両】

  • 車種:トヨタ ヴォクシー HYBRID S-G(2WD・7人乗り)
  • 燃費:23.0km/L WLTCモード (カタログ値)を採用

【算出の前提条件】

  • 所有期間:新車登録から5年間(60ヶ月)
  • 走行距離:5年間で50,000km(年間10,000kmペース)
  • 除外項目:ローン返済額、駐車場代、高速道路の使用料など

ここで重要なのは、人によって大きく異なる「車両代金のローン」や「駐車場代」をあえて含めない、という点です。つまり、ここから導き出される数字は、純粋にクルマを維持し、公道を走れる状態にしておくためだけにかかる、逃げ場のない費用ということになります。

3年目の壁、5年間の蓄積。約108万円の正体

とはいえ、「カタログ燃費がリッター23キロのハイブリッド車なら、維持費全体も安く済むはずだ」。

そう期待される方も多いでしょう。そこで今回は、メーカー公表値通りの非常に良い燃費で5年間走り続けた上で、ガソリン価格は「150円/L」という条件で計算してみます。

これなら維持費は相当抑えられるはずですが、果たして結果はどうなるでしょうか。5年間にかかる費用の内訳を積み上げていくと、以下のような結果になります。

【MクラスHVミニバン(ヴォクシー想定) 5年間の維持費試算】

  • 燃料代:約326,000円 (50,000km ÷ 燃費23.0km/L × 150円)
  • 自動車税(種別割):144,000円 (36,000円×4回 ※初年度分は購入時諸費用として除外)
  • 車検費用(3年目):100,000円 (重量税20,000円、自賠責、印紙、整備料込)
  • タイヤ交換:80,000円 (ECOPIA NH200 205/60R16 4本工賃込)
  • その他消耗品費:30,000円 (オイル交換、ワイパーゴム等)
  • 任意保険(参考):約400,000円 (年間8万円×5年 ※車両保険あり)

>5年間合計:約1,080,000円
※合計金額は本記事の前提条件を基に計算しています。

カタログ値通りの素晴らしい燃費で走り、ガソリン代を安く見積もったとしても、それ以外のコスト(税金、保険、タイヤ、車検など)だけで、実に約75万円もかかっているのです。

「燃費が良いから維持費が安いはずだ」という期待は、あくまで燃料代という面においてのみ正解で、トータルコストで見ると必ずしもそうとは言い切れません。では、なぜガソリン代以外でこれほどの金額が積み上がってしまうのでしょうか。

その主な要因は、Mクラスミニバンというクルマが持つ「物理的なキャラクター」にあります。

もちろん、税金や消耗品はどんなクルマでも発生する費用ですが、ミニバンの場合はその車両重量とタイヤサイズが、コストを大きく押し上げる要因になります。車体が重ければ、当然ながら重量税などの税負担は増しますし、それを支えるタイヤも軽自動車やコンパクトカーに比べればサイズが大きく、単価も高額にならざるを得ません。

そして、具体的な金額として牙を剥くのが、3年目の初回車検(約10万円)やタイヤ交換(約8万円)のタイミングです。

これらは燃費の良し悪しに関係なく、走行距離と時間に応じて機械的に発生します。特にタイヤは、5年間で50,000kmを安全に走り切るためには、期間中に一度は必ず交換が必要になる消耗品です。

つまり、これらは決して「運が悪くてかかった臨時出費」ではありません。安全に走らせるためには避けて通れない、「確定した未来の出費」として、納車されたその日からカウントダウンが始まっているのです。

これを「60ヶ月」で割ったときの衝撃

しかし、「5年で108万円」という総額を提示されても、期間が長く金額も大きいため、いまひとつ実感が湧きにくいかもしれません。そこで、この記事の最大のテーマである「月額換算」を行ってみます。

この108万円という総額を、所有月数の60ヶ月で割ると、毎月いくらの負担になるのでしょうか。

1,080,000円÷60ヶ月=約18,000円

答えは、約18,000円です。

これが、ローンや駐車場代とは別に、「毎月、何もしなくても財布から出ていっている固定費」の正体です。

どれだけエコ運転を心がけ、ガソリン代を安く抑えたとしても、私たちは平均して毎月約18,000円をこのクルマに支払い続けていることになります。

もしここに、月々のローン返済や駐車場代が加わればどうなるでしょうか。クルマ関連の支出だけで、家賃並みの金額になるご家庭も少なくないはずです。それだけの金額が、毎月「維持費」という名目で、静かに口座から引き落とされているのです。

毎月1.8万円の事実と向き合えるか

もちろん、これだけお金がかかるからといって「今すぐミニバンを手放すべきだ」と申し上げたいわけではありません。広々とした室内で家族と過ごす時間や、天候を気にせず移動できる快適さは、月額18,000円の価値がある体験といえるでしょう。

ここでお伝えしたいのは、見えていないコストを見える化」し、納得して支払うことの大切さです。

コスト構造を理解していれば、例えば車検のタイミングで10万円を請求されたときも、「今月は出費がかさんで苦しい」と嘆くことはなくなるでしょう。代わりに、「毎月積み立ててきた維持費の一部を、ここで精算しているだけだ」と冷静に捉えることができるはずです。そう考えるだけで、家計管理の精度はぐっと上がりますし、精神的な余裕も生まれます。

Mクラスミニバンなどのクルマを持つということは、車両の便利さと引き換えに、毎月約18,000円の固定費を5年間、60回払い続ける契約を結ぶことです。

その重みをしっかりと理解した上で、ハンドルを握る。それができれば、本当の意味で「クルマを使いこなす」オーナーになれるはずです。



ライター:根岸 昌輝
自動車メーカーおよび自動車サブスク系ITベンチャーで、エンジニアリング、マーケティング、商品導入に携わった経験を持つ。
現在は自動車関連のライターとして活動し、新車、技術解説、モデル比較、業界動向分析など、業界経験に基づいた視点での解説を行っている。