1. トップ
  2. 10年間、休日は重たいMT「ランクル70」。現役ドライバーの50代男性が、あえて“快適さ”を切り捨てたワケ

10年間、休日は重たいMT「ランクル70」。現役ドライバーの50代男性が、あえて“快適さ”を切り捨てたワケ

  • 2026.1.19
undefined
出典元:PIXTA(画像はイメージです)

日々、多くの人を乗せてハンドルを握るプロドライバーの男性。業務で神経を使う毎日だからこそ、プライベートでは「快適な移動」を求めても不思議ではありません。そんな彼が、当時つなぎで乗っていたコンパクトカーを経て、偶然巡り合ったのはMTの「ランドクルーザー70」でした。

かつてディフェンダーなどを愛した車好きが、50代で再びカスタムやキャンプ、SNS、そして妻との旅を楽しむように。あえて「手間のかかる車」と共に歩む、豊かな人生のひとコマをご紹介します。

プロドライバーが選んだクルマとは

「多くの人を乗せて、目的地まで安全に送り届ける」 それが、彼の生業(なりわい)です。

業務では大きな車体を操り、周囲の交通状況に常に気を配る毎日。高度な集中力が求められる仕事が終わる頃には、身体的な疲れはもちろん、神経も張り詰めた状態からようやく解放される、そんな日々を送っています。

そんな彼がプライベートで乗る車には、静かで、安楽で、ただ身を委ねていればいいような安らぎを求めたくなるのが、自然な心理ではないでしょうか。

しかし現在、彼が10年もの間、大切に乗り続けている相棒は、それとは真逆の存在でした。

重たいハンドルに、自らの手足で操作しなければならないマニュアルトランスミッション。無骨な四輪駆動車、「ランドクルーザー70」です。

仕事で一日中運転をし、休日もあえて手間のかかるMT車に乗る。一見すると「なぜわざわざ?」と思えるようなこの選択ですが、そこには50代を迎えた彼だからこそ味わえる、人生をより豊かに楽しむためのヒントがありました。

かつてのディフェンダー乗りが、車への情熱を静かに温めていた時期

彼はもともと生粋の「四駆好き」だったそうです。

過去の愛車遍歴には、ランドローバーのディフェンダー90やロングボディの110(ワンテン)、そしてトヨタのFJクルーザーと、個性豊かでタフな名車たちが並びます。道なき道を走る頼もしさや、道具としての機能美こそが、彼のカーライフの中心にありました。

しかし、長い人生にはライフステージの変化がつきものです。 子どもが成長し、大学生となって免許を取得するタイミングで、彼が選んだのは扱いやすい「コンパクトカー」でした。

キビキビと走るそのコンパクトカーは、運転の楽しさと実用性を兼ね備えた素晴らしい車です。お子様が運転に慣れるための車としても最適ですし、次の趣味車が見つかるまでの期間を過ごすパートナーとしても、非常に賢明な選択でした。

快適で楽しいコンパクトカーとの生活。それはそれで充実していたはずです。ですが、心の奥底には、かつて味わった「鉄の塊を自らの手で操るような感覚」への憧れが、消えることなく残っていたようです。

「デモカー上がり」のランクル70との突然の出会い

転機は、ふとした瞬間に訪れました。 コンパクトカーでの生活を楽しみつつも、どこかで「いつかまた、あの手の車に乗りたい」と情報を集めていたある日のことです。彼の目に留まったのは、トヨタ「ランドクルーザー70」の情報でした。

それは2014年、30周年記念として期間限定で再販されたモデルでした。その中でも彼が偶然見つけたのは、デモカー上がりのMT車です。

仕事での運転による疲労を知っている彼にとって、プライベートであえてMTを選ぶことには、少なからず迷いがあったかもしれません。「休日は楽をしたい」という理性が働いてもおかしくはないでしょう。しかし、理屈よりも先に、車好きとしての本能が彼を突き動かしました。

彼は、見つけた瞬間に販売店へ問い合わせを入れました。

「ちょうど今、掲載したばかりなんですよ」

電話口の担当者はそう言い、なんと彼が問い合わせ第1号だったと教えてくれました。

人気が高く、入手が難しいとも言われていた車両の購入権を、彼はその行動力とタイミングの良さで手繰り寄せました。それはまるで、車のほうが彼を呼んでいたかのような、不思議な巡り合わせだったのかもしれません。

「操る喜び」が呼び覚ましたもの

納車されたランクル70の運転席に座り、重厚なドアを閉めてエンジンを目覚めさせる。 その瞬間、彼の中にあった「運転=仕事」という感覚は、また別のものへと変わっていきました。

業務での運転は、快適かつ安全に遂行するための正確な操作が求められます。

一方で、ランクル70の運転で感じるのは、もっと純粋な操る楽しさです。エンジンの鼓動をダイレクトに感じ、自らの意思でギアを選び、路面を掴む。現代の乗用車と比べれば不便な部分もあるでしょう。しかし、その不便さすらも、車との対話を楽しんでいる実感に繋がっているようです。

購入から早10年が経ちました。

彼は、「仕事で運転しているから、休日はもういい」となることはなく、むしろその魅力に深く引き込まれています。彼にとってランクル70は、単なる移動手段を超えた、心を遊ばせるための大切な場所になっているのです。

カスタムやキャンプにSNS。車が繋いだ「新しい世界」と夫婦の時間

ランクル70が彼にもたらしたのは、運転の楽しさだけではありませんでした。ライフスタイルそのものにも、彩り豊かな変化が訪れました。

その一つが「カスタム」です。 自分好みの一台に仕上げたいという想いから、信頼できるカスタムショップと相談を重ね、足回りや外装に手を入れていきました。気づけば、そこには数百万単位の費用と、それ以上の情熱が注がれていました。自分だけの空間を作り上げる喜びは、大人の趣味ならではの贅沢な時間といえるでしょう。

また、ショップが主催するキャンプイベントへの参加や、50代にして始めたSNSなど、新しいコミュニティへの扉も開かれました。 年齢や職業の垣根を超えて、同じ「好き」を持つ仲間と語り合う時間は、日々の生活に良い刺激を与えています。

そして、ご夫婦での時間にも変化がありました。

長距離のドライブ旅行へも、年に数回出かけられているそうです。最新の高級車のような静粛性はないかもしれませんが、頼もしいエンジンの音と共に進む旅路は、ご夫婦の会話を弾ませ、旅の思い出をより印象深いものにしてくれているのではないでしょうか。

50代、好きな車と生きるということ。これからの人生に向けて

客観的に見ても、ランクル70と共に過ごす彼の生活は、とても生き生きとして見えます。

もちろん、燃費が良く、静かで快適な車を選ぶことも、賢明で素晴らしい選択です。車の進化は、私たちの生活を便利にしてくれました。

ですが、もし彼のように「忘れられない好き」が心のどこかにあるのなら、少しだけ不便を受け入れてでも、その気持ちに正直になってみるのも一つの生き方なのかもしれません。

車は移動手段と割り切ることもできますが、人生の後半戦において、車が人生を楽しむための相棒になり得るとしたら、それはとても素敵なことではないでしょうか。

ベテランドライバーの彼が愛するランクル70。そのハンドルを握る時間は、これからも彼の毎日を、ワクワクする方向へと運び続けてくれることでしょう。



ライター:根岸 昌輝
自動車メーカーおよび自動車サブスク系ITベンチャーで、エンジニアリング、マーケティング、商品導入に携わった経験を持つ。
現在は自動車関連のライターとして活動し、新車、技術解説、モデル比較、業界動向分析など、業界経験に基づいた視点での解説を行っている。