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これを言ったらおしまい…作品の感想で「陳腐決定」となる現代人の口癖「泣ける」「やばい」ともう一つ

  • 2025.12.25

知らないうちに自分の話す言葉が、誰かが言った言葉や表現になっていることがある。どうしたら避けられるのか。文芸評論家の三宅香帆さんは「自分の言葉のクセに気づくことが、自分オリジナルの言語化への第一歩」という――。

※本稿は、三宅香帆『伝わる言語化 自分だけの言葉で人の心を動かすトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

三宅香帆さん
三宅香帆さん
私たちが言語化に悩む理由

「言語化」とは、他の誰でもない自分の「感情」や「思考」を「自分の言葉で語ること」です。そんなふうに言われると、

「そんなの、みんな普通にやってることじゃないの?」
「それくらいのこと、別に特別なことでもないでしょ?」

と思うかもしれません。

でも実際には、「言語化」に悩む人はとても多い。

そんな矛盾が生まれてしまうのは、「自分オリジナルの気持ちを自分自身が納得できる言葉にする」ことが、簡単そうに見えて、実はとても難しいから。

その難しさの背景にあるのが、私たちが「他人の言葉が自分の思考に流れ込みやすい」時代を生きているという現実です。SNSやLINEなどがいつも身近にある私たちにとって、他人の言葉から距離をとることは本当に難しいです。

そもそも人間というのは、何も考えずにいると、世の中の人たちが使っている言葉を無意識のうちに真似してしまう生き物なんですね。

とはいえ、それ自体は別に悪いことではありません。見方を変えれば、人間がもつ「能力」でもあるのです。赤ちゃんが言葉を自然に覚えられるのだって、この能力があるおかげなのですから。

ただし、気をつけなくてはいけないのは、この能力があなたのオリジナリティを奪ってしまいかねないということ。「他人の言葉を真似できる力」を無意識に発揮してしまうと、借り物のような「ありきたりな言葉」でしか語れなくなってしまうんです。

「クリシェ」があなたの言葉を奪っていく

ありきたりで使い古された表現やアイデアのことを「クリシェ」と言います。

もともとは、金属製の版を意味する印刷用語として使われていたフランス語ですが、繰り返し使われる「型」であることから転じて、「決まり文句」や「陳腐な表現」といった意味をもつようになったのです。

このクリシェこそが、「自分の言葉をつくる」うえで、もっとも警戒すべきもの。あなたの言葉を奪っていく敵だと言ってもいいでしょう。

たとえば、好きな漫画の良さを人に伝えようとするとき、

「この漫画、泣けてやばい。
すごく考えさせられた」

みたいな言い方をついしたくなりませんか?

「泣ける」「やばい」「考えさせられた」は、「感想界の3大クリシェ」だと私は思っています。

特に「泣ける」と「考えさせられた」には要注意。この2つの言葉を使うと、もうそれだけで「それらしい感想」が出来上がりますし、なんとなくかっこいい感想のように思えてきます。

同じように「仕事界の3大クリシェ」だと私が思っているのは、「成長したい」「やりがいがほしい」「人間関係が良くない」です。

上司との面談などで、この手の言葉を無意識に使っていませんか?

「感想クリシェ」にしろ「仕事クリシェ」にしろ、問題は「なんかそれっぽい感じ」になってしまうこと。

そのせいで深く考えずに「とりあえず、こんな感じで」という気になってしまう。これこそがクリシェの罠なのです。

あなたの思考をストップさせてしまうから。

【図表1】カギとなるのは、「細分化」と「情報格差を埋める」技術
画像=プレスリリースより
仕事時と感想を言う時にありがち「陳腐な表現」

でも、クリシェで言語化を終わらせると、もやもやした感じ、どこかしっくりこない感じが残ってしまうんですよね。

そこで、私たちが日常生活でつい多用しがちなクリシェを一覧にしました。「あ、これ自分もよく言ってる!」と思い当たるものはありませんか? もしあれば、普段の生活で少し気をつけてみてください。

多用にご注意【クリシェ一覧】


■感想クリシェ
□泣ける
□やばい
□考えさせられた
□すごい
□素敵
□感動した
□最高だった
□面白かった
□めっちゃよかった
□深かった
□神だった
□傑作だった

■仕事クリシェ
□成長したい
□やりがいがほしい
□人間関係が良くない
□がんばります
□バタバタしてた
□勉強になります
□気づきがありました
□いい経験になりました
□課題が山積みで
□検討します
□なるほどです

自分がついつい使ってしまうクリシェがあったら、チェックボックスにチェックを入れてみましょう。普段の生活で「これもクリシェかも?」と思うものがあったら、気をつけて観察してみてください。自分の言葉のクセに気づくことが、自分オリジナルの言語化への第一歩です。

大事なのは他人の言葉から身を守ること

「クリシェの罠にハマる」とは、ちょっと大げさな言い方をすると、他人や世間の言葉に支配されることでもあります。

でもそれは仕方がないことで、あなたが悪いわけではありません。

さっきも書いたように、世の中の人たちが使っている言葉を無意識のうちに真似してしまうのが、人間の習性だからです。

それに抗うには、「クリシェ」に頼らない訓練が必要です。

世間や他人がインストールさせようとする言葉に対して、「自分は本当にその言葉でいいんだっけ?」と立ち止まること。そして、自分だけの感情や思考を取り戻して自分の言葉にすること。これは、とても重要なポイントなんです。今の時代は、ぼんやりスマホを眺めているだけで他人の言葉が自然と入ってきてしまいます。

「他人の言葉から自分を守ること」

たとえば、映画を観て、あなたなりの感想をもったとします。

でも、まだ言語化できていない。

そんなときにSNSで、はっきりとした強い言葉で述べられた感想を見たりすると、なんとなく、その人の言っていることのほうが正しいような気がしてしまう。それどころか、最初から自分の感想もその人と同じだったようにさえ思えてしまう。

仕事に対する思いにしても、動画などで強い言葉で発信しているのを見ると、自分もそうだと思い込んでしまう。

自分の感情がもやもやしたままでは、私たちはそうやって強い言葉に無意識に寄っていってしまうんですね。

三宅香帆『伝わる言語化 自分だけの言葉で人の心を動かすトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
三宅香帆『伝わる言語化 自分だけの言葉で人の心を動かすトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

そうなってしまうと、自分の感情も思考も、そして、もともともっていた言葉さえも見失ってしまいます。

だからこそ、「他人の言葉から自分を守ること」。

「自分の言葉をつくる」にあたっては、これが一番大事です。

好きな映画のことを語りたいなら、自分がそれを言語化する前に、その映画に対する他人の感想を見るのはやめておく。

次の面談で上司に伝えたいことがまだもやもやしているうちは、他の人の意見は一旦シャットアウトする。また、自分が普段よく使いがちな言葉のクセを見つけ、それ以外の言葉でどのように伝えるのかを考えることもおすすめです。

こういう心がけが、人間の習性に抗う第一歩なのです。

三宅 香帆(みやけ・かほ)
書評家・文筆家
1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。著書に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)、『副作用あります⁉ 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)などがある。

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