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「要するに理由があるんだよ、写真を撮るって」石内都と田附勝。写真を撮り続けた“現在”見える景色

  • 2025.12.22
石内都さん

田附勝

実は今回『ママ』という新たな写真集を制作したので、それもお渡ししたく。お会いできて嬉しいです。

石内都

ありがとうございます。

田附

石内さんは絹織物の産地・桐生生まれで、横須賀にもルーツがあり、ご自身でスカジャンの制作をされている。学生時代から勉強されていた「織物」は石内さんの作品を紐解くうえでも重要なキーワード。今回俺は『ママ』で、母の遺品の「パッチワーク」を撮ったことで、石内さんの「織物」のように「パッチワーク」が自分の人生を表していると発見しました。つぎはぎだらけというか。

石内

それは大きな発見だったかもね。思えば2020年の作品集のタイトルも『KAKERA』だったよね。

田附

『ママ』で言うと石内さんは写真集『Mother's』がありましたよね。

石内

私の場合、生前の母とのコミュニケーションがうまくいっていなかった。亡くなった後も、母とうまく話すことができない感覚が拭えない。できることは“残されたもの”と対話をすることだったんです。そんな経緯もあって遺品を撮影しましたね。

田附

“残されたもの”との対話ね。本展でも新作があったように、石内さんは「被爆者の遺品」を撮影する〈ひろしま〉を制作し続けていますね。

石内

毎年のように広島平和記念資料館に新たな遺品が届きますからね。そう考えると、戦後はまだ終わっていない。私たちはいつか死んでしまうけれど、遺品たちは戦後80年という時間をまとっていて、今後も永遠に“残らなければならない”運命がある。写真は「過去」を写すものだからこそ、それを媒介に「今」の現実的な問題として広島の遺品たちを撮っているんです。

田附

なるほど。今見てるものなんて、本当にちゃんと見えているかわからないからこそ、写真の意義がある。

石内

それに写真はね、撮ったとき、現像するとき、展示するときの3つの段階で見え方が全然異なる。

田附

石内さんも俺も自分で展示空間を考えていますよね。石内さんは壁一面にただ作品を並べるのではなく、展示空間全体を使って表現するじゃないですか。鑑賞していると、作品に包まれたり、対峙したり、覆い被されたり、色んな気持ちになる。

石内

壁が額なんだよね。「見る」って目だけのことじゃなくて、大きい写真は下がって、小さい写真は近づくために歩く。そういう体の使い方を考えながら展示する。以前、展示設営の方が、私の作品の位置がバラバラで千鳥足になったらしく「石内さんの展示は“千鳥掛け”だ」っておっしゃって。それが気に入りましたね。

田附

なるほど(笑)。「オーバーマット」など白枠も使っていないですよね。

石内

窓の中に作品があるように見えるから。写真はもっと広がらなきゃ。

田附

空間も織り込まれていると。

石内

そう。私は撮影することが苦手で、早く終わらせるためにサッと撮る。その後フィルムを現像するまでの時間、どんな作品になっているのか、とてもドキドキするんです。写真はただの平面じゃなく、その背後には現像し、展示し、あまたの時間と空間が流れているんですよ。先ほど母の話がありましたが、それもやはり展覧会という、写真作品が辿る「時間」を通して、やっと母のことがわかってきた気がする。

田附

いい話ですね。

石内

2005年の『第51回ヴェネチア・ビエンナーレ』で展示した〈mother's〉では、作品を前にして泣いている人がいたそうで。自分の手から作品が離れて自立していく感覚になった。そうやって作品の制作から時間が経って、取り巻く空間が変わったとき“発見”がある。田附さんが「パッチワーク」を発見したように。要するに理由があるんだよ、写真を撮るって。

初めはただ仕事だったり、ライフワークだったり、シンプルな動機かもしれない。けど次第に作品の質が変わっていくんだよ。そもそも私はデザイナーになりたかったのに、偶然写真家になっちゃった。でも最近、やっと写真の面白さに気づき始めたんだよね。「記録して伝達する」という写真の基本の面白さに。それは写真とともに私が長い時間を過ごしたからかもしれない。

田附

石内さんの「現在」。素敵だね。

石内 都

Information

『総合開館30周年記念 作家の現在 これまでとこれから』

石内都、志賀理江子、金村修、藤岡亜弥、川田喜久治の5名の写真家の展示。2026年1月25日まで、東京都写真美術館で開催中。10時~18時(木・金~20時、1月2日は~18時)。月曜・年末年始(12月29日~1月1日)休(祝日の場合は開館、翌日休)。700円。
HP:https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5200.html

profile

石内 都(写真家)

いしうち・みやこ/1947年群馬県生まれ。2005年第51回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表。14年ハッセルブラッド国際写真賞を受賞。27年にはヨーロッパ写真館(MEP)にて個展を開催予定。

profile

田附 勝(写真家)

たつき・まさる/1974年富山県生まれ。98年よりフリーランスとして活動を始め、2007年に『DECOTORA』を刊行。11年の『東北』で第37回木村伊兵衛写真賞を受賞。新作『ママ』が25年12月刊行。

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