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「義実家の隣だから安心」その判断が引き金に。入居半年で離婚、売却査定で突きつけられた“親切の代償”【不動産のプロは見た】

  • 2026.1.23
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役の不動産会社社長として、日々さまざまな土地や建物のご相談に向き合っている岩井です。

家を選ぶときに多くの方が気にするのは、立地や価格、間取り、学区といった分かりやすい条件ではないでしょうか。数字や条件で比較できるため、判断もしやすい要素です。

しかし、実際にご相談を受けていると「そこは深く考えていなかった」という理由で、あとから大きな後悔につながっているケースが少なくありません。その一つが「人との距離感」です。

今日は「義実家の隣に住めば安心だろう」という、誰にでも起こり得るごく当たり前の判断が、夫婦関係の悪化や経済的負担へとつながっていった、30代夫婦の実例をご紹介します。

子育てと仕事に追われ「頼れる近さ」を選んだ決断

相談に来られたのは、30代後半のAさん夫妻です。結婚5年目で、未就学児のお子さんが1人いる共働き世帯でした。

仕事と子育てを両立する毎日の中で、夫婦には少しずつ余裕がなくなっていきました。保育園の送迎、急な発熱、残業の重なり。どれも特別な出来事ではありませんが、積み重なると心身に負担がかかります。

そんなとき、ご主人の両親から「近くに住めば何かと助けられる」という言葉がありました。土地は義両親の紹介で取得できる話が進み、立地や条件を細かく検討する前に、新築戸建てを建てる流れが固まっていきます。

当時を奥さまは「迷いはありましたが、それ以上に安心できる気持ちのほうが強かったです」と振り返ります。この時点では、その選択が後の生活を大きく変えてしまうとは、誰も想像していませんでした。

「ありがたさ」は少しずつ「重さ」に変わっていった

住み始めたばかりの頃、義両親の存在はAさん夫妻にとって確かに心強いものでした。共働きで子育てをしている家庭にとって、身近に頼れる大人がいることは大きな支えになります。

実際、生活の中では次のような場面で助けられていました。

  • 保育園の送迎を代わってくれる
  • 急な残業や呼び出しの際に子どもを預かってくれる

夫婦ともに「助かっている」という実感があり、この選択は間違っていなかったと感じていたといいます。ただ、距離が近いからこそ、少しずつ生活への関わり方が変わっていきました。帰宅時間や過ごし方について、自然と声をかけられる場面が増えていったのです。

「今日は何時に帰るの?」

何気ない一言ですが、それが日常的に続くことで、奥さまの中に違和感が積み重なっていきました。悪意がないことは理解していても、常に見られているような感覚が消えません。

その気持ちを打ち明けても、ご主人は「悪気はないんだから」と受け止めきれず、夫婦の間に少しずつ温度差が生まれていきました。

離婚を考えても、家からは逃げられなかった

住み始めてから半年ほどが過ぎた頃、夫婦喧嘩は目に見えて増え、離婚の話が現実的なものになっていきました。奥さまは一度、「家を出る」という選択肢を考えます。

しかし、すぐに現実の壁にぶつかりました。住宅ローンは残ったままで、家を出たとしても支払い義務がなくなるわけではありません。別居すれば、生活費と住宅ローンの二重負担になります。冷静に計算すると、その余裕はありませんでした。

「家を建てたはずなのに、逆に身動きが取れなくなった」

奥さまは、そう感じたといいます。

そこで売却を検討し、不動産会社に査定を依頼。ところが提示された金額は、購入時の価格より約400万円低いものでした。住み始めてまだ半年しか経っていない新築同然の住宅にもかかわらずです。

この時、Aさん夫妻は初めて「住めば住むほど良くなるはずだった家が、簡単には手放せない重荷になっている」という現実を突きつけられました。

なぜ「義実家の隣」は買い手に敬遠されるのか

第三者から見れば「元の売主の親族が隣に住んでいる」という事実そのものは、必ずしも大きな問題ではありません。実際、購入検討者の中には「干渉されるわけではないなら気にしない」と考える人もいます。

特に、次のような条件がそろっていれば、マイナスに働かないケースもあります。

  • 隣家との間にしっかりした境界や距離があり、生活音や視線が気にならない
  • 親族側が高齢で、日常的な出入りや干渉が想定されにくい
  • 売却理由が転勤や住み替えなど、事情として分かりやすい
  • 建物や立地条件が良く、他の要素で十分に魅力がある

ただし問題になりやすいのは、「新築して間もない売却」と重なった場合です。買主は必ず「なぜ、まだ新しい家を手放すのか」という点に目を向けます。そのとき、隣に親族が住んでいると、実際には事実でなくても、次のような想像が先に立ってしまうことがあります。

  • 人間関係に何かトラブルがあったのではないか
  • 住んでみて距離感が合わなかったのではないか
  • 近隣との関係が原因で手放すのではないか

つまり、親族が隣に住んでいること自体が問題なのではなく、売却のタイミングや背景と組み合わさったときに疑念を生みやすい点が、価格評価に影響しやすい理由です。

家はときに、人生の選択肢を狭めてしまう

Aさん夫妻は、最終的に離婚という道を選びました。

しかし家を巡る問題が、そこで終わったわけではありません。住まいは簡単に手放せず、住宅ローンの返済や生活を立て直す負担がその後の将来設計にまで影を落とすことになりました。住まいの問題は、「離れれば解決する」ものではなかったのです。

振り返れば、このケースに選択肢がなかったわけではありません。たとえば、次のような視点があれば、結果は違っていたかもしれません。

  • 賃貸で暮らし、義実家との距離感を確かめてから建築する
  • 将来の状況変化も想定し、第三者の目線で立地を見直す
  • 「助けてもらえる近さ」と「生活に踏み込まれる近さ」を分けて考える

家は、すべての問題を解決してくれる存在ではありません。ときには、人間関係の歪みをそのまま固定し、簡単には引き返せない状況をつくってしまうこともあります。

立地や価格のように数字で判断できないリスクほど、後になって生活や人生に大きな影響を及ぼします。「安心そうだから」「親切だから」という理由だけで決めてしまう前に、一度立ち止まり、その先の暮らしまで想像してみてほしいと思います。



筆者:合同会社ゆう不動産 代表 岩井佑樹

不動産売買の専門家として仲介・査定・買取に携わりながら、不動産Webライターとして1,000記事以上を執筆。「売る力×伝える力」を軸に、情報発信と販売の両面から不動産の価値を高めている。派手さよりも誠実さを大切にし、地域に寄り添う姿勢で「早く・高く・安心」の取引を支える不動産の専門家。


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