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平屋ブームに乗っかったら、寝室まで聞こえる…4人暮らし、30代父親を襲った“大誤算”【一級建築士は見た】

  • 2026.2.3
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「平屋にしたら、家族の気配が近くて落ち着くと思っていました。でも、家の中の音が全部つながっていて、静かに暮らせません……」

そう語るのは、注文住宅でコンパクトな平屋を建てたAさん(30代男性・夫婦+子ども2人の4人暮らし)。

面積を抑えるため、廊下などの通路スペースを極力なくし、LDKから各部屋へ直接入る“効率重視”の間取りにしました。

ところが住み始めると、トイレの音、テレビの音、キッチンの作業音が、思った以上に家じゅうへ回り込み、子どもの勉強や家族の睡眠にまで影響するようになったといいます。

廊下をなくすと「音の逃げ場」もなくなる

廊下は、単なる移動スペースではありません。生活空間と個室のあいだにある“緩衝帯”でもあります。廊下があると、扉が一枚増えるだけでなく、距離と空間が音の勢いを落としてくれます。

一方、廊下を削った平屋は、LDKが家の中心になりやすく、各部屋との距離が近くなります。

さらに引き戸を多用すると、その仕組み上どうしても隙間ができやすく、音が漏れやすい。結果として「家族が近い」は「音も近い」に置き換わります。

Aさん宅で起きた“静かに暮らせない”現実

Aさんが特にしんどかったのは、次のような場面でした。

夜、リビングでテレビをつけると、子ども部屋の机まで音が届き、集中が途切れる。家族は「音量を下げたつもり」でも、子どもにはずっとBGMのように聞こえ続けます。トイレの使用音も、LDKや寝室にまで届きやすく、家族が気を使うようになります。

気を使うほどストレスが増え、家の中なのに落ち着かない。

「せっかく静かな住宅街を選んだのに、家の中が一番うるさいなんて思いませんでした」

Aさんはそう話します。外の静けさに期待したぶん、内側の音が大誤算として残ったのです。

これは“家の性能が低い”という話ではない

よく誤解されますが、音の問題は「高気密高断熱かどうか」とは単純に比例しません。高性能住宅でも、間取りと建具の選び方次第で音は回ります。

今回のように、廊下を削って空間をつなげ、引き戸中心で、個室がLDKに近い。これだけで音は漏れやすい条件が揃います。

つまりAさん宅は「性能が悪い家」ではなく、「音が回りやすい設計条件」になっていた、ということです。

後からでもできる現実的な対策

大がかりな工事をしなくても、効く手はあります。

まずは建具の隙間対策です。引き戸の戸当たりや気密材を見直すだけでも体感が変わります。

次に、音の出る場所を“運用”でずらすこと。テレビのスピーカー向き、学習机の位置、夜間の家事動線を調整します。

可能なら、個室側に吸音しやすい要素を増やすのも有効です。厚手カーテン、ラグ、本棚などは、反響を抑えます。

コンパクト平屋は“静けさ”も設計が必要

コンパクト平屋は、動線が短く、家族の距離が近いのが魅力です。ただし、そのメリットは同時に「音が伝わりやすい」という弱点にもなります。

廊下をなくすなら、代わりに音の緩衝をどこで取るのか。建具、距離、配置、反響対策まで含めて設計して初めて、暮らしやすさが成立します。

「広さを稼ぐ」ために削った廊下が、「静けさを守る壁」でもあった。Aさんはそこで初めて、削ったのは廊下だけではなく“静けさ”だったことに気づいたのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。